小説『なんでもない詩』
作者:文月 青鈍()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>



「てっくてく」



上を見て下を見た

空を見て地面を見た

文章的にはこんな感じ



青色を記憶して土色を観察した

濁ったキャンバスに飽きて黒い絵の具の上を歩いた

感覚的にはこんな感じ



0と1

有機と無機

YESとNO

線と点



頭で考えてしまえば区別は白黒つく

人との付き合い方も一見して方程式

人生はゲームの一つと誰かが笑っていた

その頃の自分は存在意義を求めていた

必死で走ってもがいて

掴んだ筈のものは手の中に残っていなくて

思考ばかりが泥沼化して



何かに執着すること

何かに頼ること

誰かに相談すること

悩みの吐き出し方



自分の中にあるトゲが身体から出てきそうで

それを抑え込むのに心がボロボロになって

疲れ切った心は顔という仮面から表情を消した



Iは愛を求めてはいない

Iは哀を飼っていた

Iは逢を求めて

Iは相に出会った




「しけた顔だ、うっとうしい」

求めていた言葉とは違うけれど

「ちょっとペンで書き換えてやろう」

決して優しい言動ではないけれど



自分のまわりに

傷ついて消えかけていた線の上に

新しい線を描いてくれた

「点を集めて、ある一定に伸ばせばそれは線だ」

何食わぬ顔でずっと引いている




「線と線を繋げばそれは丸にもなる」

「繋がった輪は他者を受け付けない」

「だが、受け入れる方法は簡単だ」




そう言って、一回り大きな輪を描いて

「ほら、2人入れるだろ?」

ニカッっと笑った君は悪戯が成功した子供みたいだった





「怖くないさ」

「たまには歩け、焦らずに」





今までポンコツ同然に走り続けた自分に

優しく背中を押してくれた君は

僕に一度止まることを勧めてくれた






ありがとう。





-18-
Copyright ©文月 青鈍 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える