小説『なんでもない詩』
作者:文月 青鈍()

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「はじめのいっぽ」



空を見た

白い雲がゆっくりと泳いでる

鳥は囀り

風は歌っていた




ごく普通の感想




でも

そんなありきたりなモノじゃ

つまらない

きっともっと面白くて騒がしいことに

期待している



決して凶暴性や危険なことを

望んでいるわけじゃない

ただ このままじゃ

あまりにも味気ない



それは喪失感に似ている

幼い頃は

春に咲く桜に心が踊り

夏に鳴く蝉を追いかけ

秋に実るドングリや落葉を拾い

冬に空から落ちてくる雪を眺めていた



今では

春の桜は限られた場所で命を削り

夏の蝉は追われることもなく増え

秋の拾われない落葉は哀しく飛び

冬の空は下を向いて歩く人を嘆く



少なくとも

メディアが発達した現代では

温室の花は

自生の花には勝てない



さて

自分はどっちなのだろう

自生なのか温室なのか

教えてくれるのは




現代を生きている自分




だけど

そんなことはどうだっていい

その方が面白いから

何かに拘り執着していくなんて

重くて痛くて辛いから



『昔からの決まりごと』

こんなのは上から書き換える

極太の油性マジックで大きく

『今からの決まりごと』



修正液でもベンジンでも

消せない消えない消えることない

自分だけのルール

基本があれば応用が効くから

取扱説明書なんてない

なるようになっていく



走ってみた

障害物を飛んで地面を蹴って

聞こえてくるのは風の声

笑ってるのでも嘆いているのでもない

「どこまでいくの?」そう聞こえた



空は青かった

この広くて存在自体が神秘的な

ビッグキャンパスには

白くて小さな羊が群れなしていた

-4-
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