小説『なんでもない詩』
作者:文月 青鈍()

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「おいで おいで」


家恋しくなる黄昏時

地に伸びるのは黒い影

赤銅と化していく空




かこめ かこめ 籠の中の鳥は




道に迷った幼子が鳴いている

鬱蒼と茂る草むらから聞こえるは

道案内を申し出る黒猫




おいで おいで 紅も着物もあるよ




夜が空に被さる頃

風しか通らぬその場所に

落ちているのは靴片方




くうぞ くうぞ 晩飯一品加えるぞ




鬼火が灯り

狐火が踊る

丑三つ時に




泣いているのは人の子か

笑っているのは鬼の子か

化かしているのは狐狸類




泣きやめ 泣きやめ 笑っておくれ




迷うでないよ

言うではないよ

振り返るでないよ



まもれ まもれ 約束を

かえれ かえれ 元いた場所へ

ほどくな ほどくな 幼い手



そして黒猫はどこかへ去った

-8-
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