次の日・・・
裕一「・・・ふぁ〜〜〜・・・眠い・・・んぐ」
リビングでパンをかじりながら欠伸をしていた。その向かいには昨日から新しくやってきた三咲が座っていた。
三咲「だらしないわよお兄ちゃん。ちゃんと行儀よく食べないと」
裕一「いいじゃねえかよ。俺の勝手だ」
三咲「よくない!」
2人だったがいつもの朝では考えられないほど賑やかな朝だった。
朝食を食べ終え自室に戻り、制服に着替えると鞄を持って部屋を後にした。リビングではまだ朝の報道番組を必死に見ている三咲の姿があった。
三咲「あれ?お兄ちゃん、もう行くの?」
裕一「今日はなんかそんな気分なんだ」
三咲「でもまだ7時半だよ?早すぎない?」
裕一「だから気分だ」
三咲「ふ〜〜ん。なら私、もうちょっとしたら出るから」
裕一「ん」
それだけを言い残し家を出た。出るとすぐさま凍えるような冷たい風がコートの中をまるで通り過ぎるかのように吹いていた。
裕一「う〜〜・・・今日も一段と寒いな・・・」
そら当たり前。もう季節は冬まっしぐら。12月も入って9日が経っていた。
裕一「・・・あ、そうだった。ノートがもうすぐ切れそうだったんだ。買いに行かなきゃ」
その足で商店街のほうに向かった。
商店街ではもうクリスマスムード全開だった。どこの店もクリスマスセールだとかで大安売りしていたり、サンタの置物や木々には豆電球などの機材が飾られていた。
裕一は目的のノートを買うために雑貨屋に入り、3分もしないうちに外に出てきた。
裕一「さて、学校に向かうか」
そしてまた学校に向かって歩き出した。
裕一「ん?・・・あれは・・・」
ふと前のほうに見たことがあるような横顔が目に映った。瑞樹だった。
瑞樹はある店の前に立って中の商品をずっと見つめ続けていた。そしてなぜか悲しそうな顔をしていた。
裕一「・・・・・・」
声をかけようとしたが裕一はあえて声をかけなかった。物陰からその姿を見ているとやがて瑞樹はその店を後にして学校に向かって歩いていった。
裕一「・・・・・・何を見てたんだ?」
気になりその店の前に向かった。ガラス越しに展示されている商品がそこにあり、その中にひとつ、瑞樹が見ていたであろう商品があった。
裕一「・・・猫のぬいぐるみ?」
??「あの〜〜」
裕一「!!」
後ろから声をかけられ裕一はサッと振り向いた。そこにはエプロン姿の女性店員がいた。
女性「もしかして・・・黒澤さんのお知り合いの方ですか?」
そう聞いてきた。
裕一「まぁ・・・一応」
女性「そうだったんですか」
裕一「・・・あの〜あなたは」
女性「私、前に彼女に助けてもらったことがあるんです」
裕一「あいつに・・・?」
ありえないと裕一は思った。
女性「そうなんです。私、この店で働いてまだ間もない時に・・・店の前で掃除をしていたところを男の人に囲まれてしまって・・・」
確かに彼女はとても顔立ちは綺麗で美人とも言える。
女性「お茶でもどうかと訊かれて、それでちゃんと断ったんですけど・・・無理やりつれていこうとしたんです」
裕一「・・・最低ですね」
女性「はい・・・もうだめだって思ったそんなときに・・・彼女が現れたんです。携帯を片手に『その手を離さないと警察に言うわよ!』って」
裕一「・・・なるほど」
意外な一面を聞いてしまったと思った。
女性「男の人たちは私を置いて立ち去って・・・それで・・・後から怖くなって泣いている私に黒澤さんはハンカチを渡してくれたんです。私、ほんとに嬉しくて・・・いつか彼女に恩返しがしたいと思っていたんです」
裕一「いや、何もそこまで・・・」
女性「で、最近の黒澤さん、ずっとあの調子なんですよ。全然見かけなくなったと思ったらここ1週間前からずっとあの調子でこの猫のぬいぐるみを見ながら悲しそうな顔をしているんです」
裕一「やっぱりこれでしたか・・・」
裕一は猫のぬいぐるみを見る。女性が話を続けた。
女性「私、彼女の悲しんでいる顔を見たくありません。笑っている姿が見たいんです。そして気づいたんです。彼女の心の支えになるこそが私の恩返しになると。で、彼女に話しかけたのですが・・・」
裕一「・・・それがどんな理由でこうなったかを教えてはくれないと」
女性「はい・・・。いつも大丈夫だからといってその場を立ち去るのですが・・・どうしても気になって気になって・・・」
裕一「そうだったんですか・・・(そうわ見えなかったがなぁ・・・あ、でも昨日のあのメール、あの意味深なメールになんか意味でもあったのか?)」
女性「それで・・・あなたに、お願いがあるのですが・・・」
裕一「俺に?」
女性「はい・・・私じゃ彼女の支えになることはできません・・・しかし、友人でいるあなたにならきっと彼女を救うことができると私の中で直感しました!・・・勝手なお願いだとは思いますが・・・どうか彼女を救ってはくれませんか?!」
裕一「・・・・・・」
晃 「よ、裕一。またギリギリだな」
時刻はチャイムが鳴る一分前。
裕一「ちょっとな」
晃 「??」
すると瑞樹が裕一を見ていた、が、すぐさま前のほうに向き直った。
裕一「・・・・・・」
晃 「どうした?」
裕一「いや、なんでもない」
ホームルームを知らせるチャイムが鳴った。