小説『俺としつこい女』
作者:ブレイバー()

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三咲「・・・ちょっとこっちに来てくれるかしら・・・」
椅子から立ち上がり、瑞樹もそれに続くように立ち上がった。家を案内させられたどり着いた場所は一階の畳の部屋。部屋の中はお香の匂いが微かに充満していた。
そこに一つ、仏壇があった。そしてそこに裕一の両親であろう二人の写真が立てかけられていた。

瑞樹「・・・・・・」

三咲「この人たちがお兄ちゃんのご両親よ・・・」
三咲は仏壇の前に座ると鐘を鳴らし黙祷をした。

瑞樹「・・・・・・」
瑞樹もそれに習うように三咲の隣に座って黙祷をした。







再びリビングに戻り椅子に座ると話が始まった。

三咲「お兄ちゃんのご両親はね・・・殺されたの・・・」

瑞樹「え?」

三咲「・・・あれはお兄ちゃんが中学3年のときの話よ・・・・・・お兄ちゃんのご両親は二人そろって研究者なの。まだ知られていない未知のウイルスに関する研究ばかりを行っていたわ」

瑞樹「・・・・・・」

三咲「世界中を飛んで様々なウイルス、そしてそれに感染している人のために特効薬を作ろうと日々がんばっていたわ」

瑞樹「・・・・・・」

三咲「そんな時、また二人に海外出張が決まったの。そこはまだ戦争も治まっていないような危険な場所だった・・・にも関わらず二人は危険を犯してまで行ったわ・・・そして案の定・・・その戦場に巻き込まれて・・・亡くなられたわ・・・」

瑞樹「そう・・・だったの・・・」
瑞樹は裕一の過去をまざまざと思い知らされた。

三咲「お兄ちゃんは深く傷付き・・・深く悲しんでいたわ・・・でもそんな時、お兄ちゃんを救ってくれたのが優奈さんだった」

三咲「優奈さんの持ち前の明るさと素直なところにお兄ちゃんの心も次第に元気になっていったの・・・でもまたしてもお兄ちゃんは深く傷付くことになるの・・・それが」

瑞樹「優奈さんの・・・死・・・」

三咲「・・・そう。交通事故よ。優奈さんがいなくなったことでお兄ちゃんはまた元のお兄ちゃんに戻ってしまったの・・・・・・これが二度目・・・」

瑞樹「・・・・・・」

三咲「・・・そして今回・・・お兄ちゃん、その癌だっけ?・・・発見されるその何日か前から様子がおかしかったの」

瑞樹「・・・・・・」

三咲「無理して明るく振舞ってるとでも言ったほうがいいのかしら・・・とにかくあまり元気がなかったわ・・・でも・・・」

三咲「私と久しぶりにに会ったとき・・・また元気なお兄ちゃんを見れてとても嬉しかったの・・・きっとまた誰かがお兄ちゃんの心の支えになっている人が見つかったんだろうなって・・・とても安心してた・・・・のに・・・」
それ以降は三咲は話さなかった。








瑞樹「・・・一緒に緒方のところに来てもらえるかしら・・・」

三咲「・・・・・・結構です」
きっぱりと断っていた。

三咲「お兄ちゃんのお見舞いには行きます・・・でもあなたとは一緒に行ってはいけない。そんな気がするんです・・・」

瑞樹「・・・そう・・・ですか」

そう言って立ち上がる瑞樹。

三咲「・・・ごめんなさい」

瑞樹「・・・気にしないで頂戴・・・全部私が悪いんだから・・・」

三咲「え・・・?」

瑞樹「じゃあ失礼するわね・・・緒方のこと・・・教えてくれてありがとう・・・」
それを最後にリビングを後にした。

三咲「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お兄ちゃん・・・・・・」







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