慶太「緒方さ〜ん。嬉しい来客が来てますよ〜」
裕一「・・・・・・」
裕一はベッドに横向きになって外の景色を眺めていた。
慶太「黒澤さんで〜す!」
少し裕一の体がビクついた。
瑞樹「・・・・・・」
慶太「ねぇねぇ緒方さん。黒澤さんが緒方さんを心配してきてくれましたよ!」
裕一「・・・そですか」
しかしずっと外を眺めているだけ。少し棒読みに言った。
瑞樹「・・・・・・」
慶太「・・・緒方さーん、外ばっかり見てないでこっちも向いてくださいよ〜」
裕一「・・・慶太さん」
慶太「はい、なに?」
裕一「・・・俺少し小腹が空いてしまいました。駅前にあるケーキが食べたくなってきたんで少し買ってきてもらってもいいですか?」
慶太「え〜〜?!でもあそこ少し遠い・・・・・あ、ああ〜!!なるほどね」
裕一「・・・・・・」
慶太「ふふふ。了解しました。なら『ゆっくり』買ってきますから待っててくださいね」
そういい残して慶太は病室を後にした。
病室には外の景色を眺めている裕一と、そんな姿をずっと見ているだけの瑞樹だけになった。
瑞樹「・・・・・・」
裕一「・・・・・・」
慶太がいなくなったせいか一気に病室が静かになってしまった。このままじゃいけないと思った瑞樹は・・・
瑞樹「・・・・・・あ、あの・・・」
裕一「・・・何しに来たの?」
外を見ながら裕一は冷たく言った。
瑞樹「何しにって・・・あなたの・・・お見舞い・・・」
裕一「余計なお世話だ。今すぐ帰ってくれないかな」
瑞樹「・・・え」
裕一「君がここにいるだけで・・・馬鹿だった頃の自分を思い出しそうで・・・爆発してしまって・・・何をしでかすかわからなくなりそうだから・・・」
瑞樹「っ!」
裕一「君と一緒にいるのも嫌だし、特に君の顔を見るのは一番嫌なんだ・・・帰ってくれ・・・」
裕一はいつもみたいに『黒澤』ではなく『君』と言っていた。それが瑞樹に対する裕一の気持ちというのが大いにつかめる。
裕一「帰ってくれ・・・」
瑞樹「・・・嫌だ」
裕一「・・・何故?好きでもない男のところに来ても意味ないだろ?前みたいにまた男でも作って楽しい冬でも過ごせばいいじゃないか」
瑞樹「・・・・・・」
裕一「・・・もう一度言う・・・帰ってくれ」
瑞樹「・・・嫌」
裕一「帰れってんだよ!!」
瑞樹の顔を見てきつい顔をして言った。とてつもない怒りの感情が感じられる。
瑞樹「っ・・・」
裕一「・・・・・・」
そしてそのまま布団を頭から被った。
瑞樹「・・・・・・わかった」
裕一「・・・・・・」
瑞樹「・・・“今日”は帰るわ」
裕一「二度と来るな!!俺の前にも二度と現れるな!!」
瑞樹「・・・・・・・・・・・じゃあ・・・・・・・また」
目に涙を溜めた瑞樹はそのまま病室を出た。
裕一「・・・・・・何なんだよ・・クソッ!」
布団を強く握って言った。
車に戻ってきた瑞樹。
瑞樹「・・・・・・」
男 「お帰りなさいませお嬢様。次はどちらに向かわれますか?」
瑞樹「・・・今日はもういいわ・・・屋敷に戻ってちょうだい」
男 「・・・かしこ参りました」
車を発進させた。病院に来るときと同じスピードで進めていると
瑞樹「大急ぎで車を進めなさい!!5分で屋敷に着かせなさい」
男 「むむ、無茶ですよ!」
瑞樹「早く・・・早く・・・!」
ルームミラー越しに瑞樹の顔を見た男。
男 「!・・・・・かしこ参りました」
そのままどんどんスピードを上げた。
そう言ったとおり5分で家にたどり着いた。車から降りると屋敷に走り入っていった。
男 「・・・お嬢様・・・」
部屋に戻った瑞樹はベッドに飛び込み・・・そして
大声で泣いた