小説『魔法少女リリカルなのは〜ちょっと変わった魔導師達の物語〜』
作者:早乙女雄哉(小説家になろう版マイページ)

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第09話:たまには休憩


―――機動六課隊舎内

 訓練後の夜。一足先に訓練を抜けてシャワーを浴びたトーリは、食堂に一人来ていた。彼の目の前に、少し大きめの鉄板と大量の具材。それにヘラと調味料色々が鉄板の周辺に並べられている。

「氷雨君。本当に今回、任せて良いのかい?」
「えぇ、今回はやらせてください。これ、趣味ですので」

 トーリの心配するように言うのは、六課の料理長。しかし、その表情には心配というような感じは全く以て見えない。
 そう言うトーリの服装は、黒の短パンに白のタンクトップ、頭には捻り鉢巻と言う、まるでどこかの屋台のお兄さんというような格好である。今、彼の両手には鉄板の周りに置いてあるヘラよりも一回り大きいものを持って構えている。
 そんな時、料理長の方になのはが訓練終了の合図が入る。それを合図にして料理長がトーリの方を向いて頷く。それを見てから、トーリは両手に持った得物(ヘラ)を構えた。



―――機動六課隊舎内食堂

 カチャカチャと鳴る控えめな金属音と、それをバックコーラスとして奏でられた大きな焼ける音。さらに食堂内に広がるのは、肉や魚、野菜などが組み合わさって焼ける、食欲をそそる匂い。そのせいで、十分前からスバルの双眸はまるで星が輝いているかのようにキラキラ光っている。

「ふわぁ〜、おいしそ〜」
「こらスバル、よだれ垂れてる!」

 ティアナの警告も耳に入っていないくらいに夢中になっている彼女の目の前には、巨大な鉄板。その上に乗せられて焼かれているのは、手製のタレを絡め、肉や野菜をごちゃ混ぜにして焼かれた地球の料理『もんじゃ焼き』。ちなみにそれを作っているのは、捻り鉢巻に黒短パン、白のタンクトップという下町屋台スタイルのトーリである。彼の額には多少ながら珠のような汗が浮いており、その大変さを物語っている。

「トーリトーリ、もう食べて良い?」
「ちょい待ち………」

 せかすスバルを抑えながら、トーリは自分のヘラでもんじゃの端をちょいとすくうとそのまま口の中に放り込む。少しだけ味わってから、みんなにグーサインを出すと、スバルが真っ先にヘラをもんじゃに付けて、トーリをまねしてそのまま口の中に放り込んだ。

「熱ッ、熱ッ………でも、美味しい〜」

 その瞬間、スバルが完全に落ちた。その美味しさ故に、である。
 その瞬間、傍で見ていたなのは達も口を付け始める。もちろん、ヴィータ達ヴォルケンリッターも同じく、である。

「お、美味いなこれッ!」
「あぁ。素材の味が纏まってタレに絡まることで、良い味を出しているな」

 ヴィータが歓喜し、ザフィーラがまるで料理番組のグルメリポーターのように感想を述べる。周りのシグナムやシャマルも同じような反応である。
 彼女たちの言葉に「ありがとうございます」と礼を言いながら、トーリはまたもんじゃを作り始める。今度の材料は、もんじゃの基本材料に加え、なんとトマトやチーズと言った洋風なもの。その材料の組み合わせに、昔から料理をしていたはやてが怪訝な表情をする。

「トーリ?もんじゃにチーズやトマトは合へんと思うんやけど、そこんところどうなんや?」
「えぇ、そう言われる人は多いですね。でも、これが意外と美味しいんですよ?」

 そう言いながら手早くもんじゃ作りに入るトーリ。タレを殆ど鉄板に零さず具材だけを鉄板に落とし、両手に持った大きめのヘラでそれを一気に細かくしていく。タタタタタ、カンッ、と言うリズミカルな音が食堂に広がり、具材が焼けていく。それを素早く円形に固め、土手を作ると、その真ん中にタレを一気に流し込む!ジュワァァーーといういい音と香りが広がり、その上にチーズを撒いて溶かしていく。
 良い感じになったところで再び端をちょいとすくって味を確かめると、はやてに向かって挑戦的な表情をする。まるで、その表情は「食べてみやがれこの女(あま)が」と言うかのような表情である。(あくまで表現)
 その顔を見たはやては、さすがに黙っちゃいられないと思ったのか、そのもんじゃをすくって口に運び………

「………どうしたの、はやてちゃん?」
「う、う、美味すぎるやん」

 美味しすぎたのか、その場に固まってしまった。ちなみにそのもんじゃは、完成早々すぐに無くなり、その後も作ってばかりのトーリが全く食べておらず、シャマルが持ち込んでしまったジュース(と言うなの酒)を飲んでしまって、皆が人が変わったように馬鹿騒ぎしたのは、また別の話である。



―――同・隊員寮・トーリ・エリオ部屋

 今は夜中の十二時を回ったところ。この部屋にいるのはトーリだけである。
 今エリオはどこにいるかというと、フェイトとなのはの部屋である。訓練疲れと夕食の馬鹿騒ぎのせいで終了際にノックダウン。何とか正気に戻ったフェイトが自分たちの部屋に連れて行って寝かした、と言う話があったため、今夜は彼一人である。
 ちなみに今、彼は夕食中である。理由は前述の通りである。ちなみに今夜は、もんじゃで余った食材を使って簡単に作った焼きそば(ソース)である。

「ふぃ〜。さすがに三時間くらい食わないと厳しいわ」
『そうですか?それにしては元気そうですけど』
「外見は、な。内面ガタガタよ?」
『でしょうね』

 そんなトークを交わすトーリとガーンディーヴァ。ちなみに今彼女はオートメンテナンスの真っ最中で、トーリの机の上にあるメンテナンスポッドの中にフヨフヨと浮いている。そんな彼女を横目で見ながら、トーリは焼きそばをすすって、ちょっと良い表情をする。出来が良かったのか、そのまま一気に食べ続ける。
 ものの五分程度で完食すると、食器を洗ってから再びソファに腰掛ける。そのまま上を見上げて少しの間ボケーッとしていると、突然何かを思い出したような表情になってモニターを展開する。

『どうしました、マスター?』
「いや、ちょっとな」

 そう言いながらトーリは驚異的な速さでインターネット上を移動し、その視線はとてつもない速度で大量の情報を頭に叩き込み………その動きが止まった。

『マスター………?』
「これは………」

 彼女が心配そうな声を上げる中、トーリの視線はとある一枚の画像データに釘付けになっていた。
 そのデータとは、研究所まるまる一棟が消滅した、と言う記事に添付されている、現場の画像。そこは、まるで巨大な隕石か何かが地表に落下したような状況だった。死亡者は何人かいるが、研究員の殆どは軽傷を負ったのみ、と言う不自然な状況だった。
 そして、もう一つ載っていたのが、その研究所が『違法なもの』だということ。配備されていた警備員と称されていた魔導師達は質量兵器を併用使用するという違法っぷり。研究内容も『児童を使用した人体実験』という、まさにツッコミ所と違法だらけの研究所というものがアリアリと出ていた場所のようだった。
 しかし、そんな研究所は一夜にして消滅した、と言うのだ。実験に使われていた子ども達も、近くの森林にある大きめの洞窟に避難されており、怪我は無し。多少の空腹や怪我はあったものの、生存状況はよいものだったらしい。
 その子ども達や、生き残っていた研究員が言うに、『六鏡聖団』というものが関係しているらしいが、その辺りは全く分からない。唯一の証拠と言えば、その現場に残っていた『真紅の魔力光』の余剰魔力。それが唯一の証拠である。

「つーか、真紅の魔力光だけじゃどうにもならないだろ」
『それでも情報になりますからね。捜査部の方は躍起になって調べるでしょう』

 ガーンディーヴァの声を聞きながら、トーリは二段ベッドの下側のベッドに潜り込み、そのまま眠りにつくトーリ。それを確認しながら、彼女はオートで照明を消し、小さく『お休みなさい、トーリ』と呟いて自分も眠った。



―――深夜、管理外世界

 むしろ、その世界は何もない世界といっても良いだろう。数年前に滅びたその世界にあるモノは、ボロボロになった廃ビルの森と、無数に転がる骸(むくろ)たち。まさに、『死んだ世界』と呼ぶにふさわしい世界だ。
 しかし、その世界。細かく言えば、その世界の廃れた都市の一角に、無数の光が走った。
 その光は剣閃。縦横無尽に交差される刀の軌跡が弾けて、暗い空間をそこだけ明るく照らしていた。

「ハァッ!」

 ヒュン、という風切り音をその場に残して、彼の剣閃はむなしく空を切る。しかし、それは空振りではなく、僅かながら相手の皮膚を、かすめたように切り裂いていた。
 ほおに走った赤い線。そこから滴る自分の血を指で取ってからなめる彼女は、自分を傷つけた彼に向かって自らの得物であるレイピアを構えると、一気にその場から跳躍して距離を詰めると、高速の突きを放つ!
 しかし、その突きも青年の卓越した刀捌きで綺麗にいなされ、そのまま鍔迫り合いの状態にされてしまう。

「へぇ、アンタ、やるじゃない。あんたみたいな部下を、私はほしかったわね」
「ぬかしていろ。俺は、貴様のようなやつとは金輪際仲間になるような気は………ない!!」

 青年―――ガイウス=ローゼンが素早い太刀捌きで鍔迫り合いを脱し、横の大振り一閃で女―――ウィネス=ファンソートとの距離をあけると、その場で構える。その瞬間、空気が震えた。まるで、地鳴りが起きているが如く、大きく震えている。
 その原因は、ガイウス。彼が刀を上段で構えて、彼の周りに纏われているのは『真紅の魔力光』。その光が彼と、彼の持つ刀を中心に渦巻くように輝いている。

「まさか、アンタが噂の『真紅の剣豪』………!」
「真紅の剣豪、か。確かに、俺にふさわしい異名かもな」

 そう言いながら、ガイウスはゆっくりと刀『烈天』の切っ先を上段から下げ、斜め上に振り抜けるような構えを取る。その瞬間、真紅の魔力光がいっそうその輝きを増す。その輝きを見てか、ウィネスは狂ったように笑い出す。その原因は、目の前にいる輝きを持つ者のせいなのだろうか?

「はははぁっ!おもしろいじゃん!よ〜し、その輝き、もらったぁ!」
「もらえるモノなら、取ってみるが良い!!」

 ウィネスが吼え、それにわざわざ呼応するようにガイウスが挑発する。その瞬間、ウィネスの周りに魔力が爆発するように加速する!

「シェルダス!切り刻むよ!」
『イエス、サー!』

 ウィネスのかけ声と共に一歩踏み出し、その瞬間から最高速に到達。一気にガイウスとの距離を縮めていく。ガイウスは逆に、上段の体勢から一転して彼女を待ちかまえるかのような体勢。今まで抜刀し、上段で構えていた大太刀を鞘に収め、腰を低くして構える。その構えは、東洋の技術『居合い』によく似た体勢だ。

「狼漸(ろうぜん)御流(おんりゅう)………」
「チャージソニックぅぅぅッッ!!」

 まるで音速の弾丸のように突撃するウィネス。しかし、それに動じないガイウスは、ゆっくり瞳を閉じて空気を読む。一瞬のチャンスを、僅かな風切り音のみから読み、カッと瞳を開く!!

「瞬刃(しゅんは)!」
「きぃぃえぇぇぇぇいいぃぃぃ!!!」

−斬!−

 金属と金属が交差したときに起きる耳障りな音が響き渡る。鋭い叫びと、狂ったような叫びの不協和音が響いてから、ゆっくりと静寂が訪れる。
 そんな中、先に動きを見せたのはガイウスだった。緊張の糸が途切れたようにゆっくりとその場に膝をついて右手の刀を手放し、そのまま左肩を押さえる。そこからは太い一筋の赤い線がゆっくりと滴っていた。しかし―――

「………ぐぅ!」

 その直後、崩れ落ちるようにウィネスが膝をつく。その腹部は真っ赤に染められており、表情は苦悶の表情そのものである。まさか彼女は思っていなかっただろう。自分の高速の突進で狙った部分は左胸。つまり心臓を狙ったのだが、その一撃は居合い斬りの一閃で逸らされ、逆に相手から一太刀受けてしまうなんて、思いも寄らなかったはずだ。

「くっ、くくく。面白いじゃないか、アンタ」

 しかし、ウィネスはしぶとかった。腹部の傷なんて無いですよとでも言うかのような表情で振り向き、デバイスを構える。その瞬間、彼女の隣りに赤茶色の髪をした黒いドレスの少女が現れた。彼女の登場に、手放した刀を痛みで震える右手で再び掴んで構える。

「まったく、ウィネスは相変わらずだね。ちょーっと強いやつにあっちゃうとすーぐそうやって熱くなっちゃう。目標は回収出来てんだから、ちゃっちゃと帰ってくればいいのに」
「黙りなローズ。アタイの邪魔するから、捻ってやろうと思ったんだ」
「まぁ、それがこの結果と」
「言うな、悲しくなってくるから」

 あきれながらも笑顔を浮かべるローズに治癒魔法を掛けられながら、少しだけ虚しい表情を浮かべるウィネス。そんな彼女たちに対して、ガイウスは問答無用に斬り掛かる!しかし―――

「もう、今話しているんだから、邪魔しないでくれないかなぁ?」

 その刃は届かない。ローズがすっと伸ばした右手から巨大な障壁が現れ、ガイウスの放った一撃を簡単に受け止めた。彼女の左手には、いつの間にか展開した一冊の魔導書が乗せられており、開かれたページから薔薇色の光を放っていた。その魔導書を一目見て、ガイウスは瞬間戦慄した。

「その魔導書は『魔霊の黙示録』………貴様、御剣の手先か!?」
「ふふふ、手先じゃなくて―――フィアンセ、だよ?」

 ローズは可愛くウインクしながら、障壁を張っていた右手に『障壁を張りながら』魔力を高速集束、砲撃に変化させて解き放つ!その一瞬の出来事に全く反応できなかったガイウスは砲撃に飲み込まれ、数メートル先に吹き飛ばされてしまう。

「さて、帰るよウィネス。一応、レリックは回収出来たんだし」
「あいよ。おい、真紅の!今度はアンタの命をもらうよ!」

 そんな台詞を残して二人は消えていく。その声を吹き飛ばされた先で聞きながら、ガイウスはゆっくりと立ち上がろうとする。しかし、かなりのダメージだったのかなかなか立ち上がれず、刀を杖代わりにして立ち上がるのが精一杯だった。
 震える足で何とか立ち上がったガイウスは、その場に転移魔法陣を展開してその場から転移する。その表情は、まさかの敗北を知った表情だった。



―――機動六課・部隊長室

『と言うことで、一人預かってもらえねぇか?』
「いや、ちょう意味が分からないんですが………?」

 部隊長室で、はやてはモニターに映る上司―――ゲンヤ=ナカジマ三佐の言葉に苦笑いを浮かべるしかできなかった。何せ、彼が行ったことを簡単に纏めると、異動で一人預かってくれないか、と言うことである。普通なら、はやては内容を聞いた後、すぐに頷いたり、分隊長達と話し合って決める、などの結論を出せただろう。しかし、今回ばかりは別だった。
 何せ今の六課の戦力は異常すぎる、と言うことを、はやてはしっかり認識していた。先日までに来た追加要員を入れて、リミッターをかけているとはいえオーバーSやニアSランクのメンバーが多い。ここで更に一人加えるとなると、さすがに上層部や陸の本部から査察が来ること間違い無しだ。どれだけ上手く隠せたとしても、厳しい陸の査察ならすぐにさらされてしまい、各種異動を食らうだろう。どっちにしろ、六課にとってはピンチである。

「ナカジマ三佐、こちらとしては断りたいんですけど………これ以上戦力を加えるとなると、こちらとしてもかなり不安でして………」
『おいおい、いつ誰が戦力なんて言ったよ』
「………はい?」

 モニター越しのゲンヤの表情を見て、不思議な表情を浮かべるはやて。彼女の表情を見ながら、ゲンヤは湯飲みに口を付けてからゆっくりと追加要員について口にした。

『預かって欲しいのは、非常勤講師みたいなやつだよ』
「非常勤………ですか?」

 はやてが言葉を聞いて、パッと思い出したのは中学時代の体育教師。その人も確か非常勤で、授業のない日は来ていない人だった。つまり………

「臨時の教導官、って事ですか?」
『あぁ。一応、階級は二等陸尉、魔導師ランクは陸戦のA。教導官オンリーの登録をしておけば、当分の間は陸本部の目を誤魔化せるだろ?しかも、そいつは教職資格持ちだ』

 ちょっとした座学とか教えられるから、一石二鳥だ、とか言うゲンヤ。彼の言葉に、なんちゅう裏技なんや、と驚愕の表情を浮かべるはやて。確かにそれなら、少しの間なら曲の目を欺ける。しかし、局に所属していて、尚かつ三佐なんて階級を持っている人が、そんなことをして良いのだろうか、なんてはやてが考えていると、ゲンヤはそれを察したのかぐっと親指を立てる。どうやら、問題はなさそうだ。

『しかも、異動させるやつは、六課に行きたい、っつーリクエストだ』
「ウチに、ですか………」

 ちょっと考えてから、はやてはうんと頷いた。彼女の仕草を見てから、ゲンヤは『ありがとうなー。今度なんか奢ってやる』と言い残し、更に置きみやげのように異動してくる人のデータファイルを送りつけてからモニターから消える。
 なんだか勢いで頷いてしまったはやては、ちょっと困り顔だがどこか嬉しそうな表情で送られてきたファイルを確認し始めた。

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