小説『魔法少女リリカルなのは〜ちょっと変わった魔導師達の物語〜』
作者:早乙女雄哉(小説家になろう版マイページ)

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第08話:やりすぎ注意


―――機動六課訓練スペース

 先日のリニアレール事件から何日か過ぎたある日。あの事件以来、フォワード四名は何か自信のようなものがついたのか、きつい訓練とはいえどもとても熱心に訓練をこなしている。まぁ、その熱心さ故、訓練後はバテバテになっているのは、いつものことだろう。
 さて、そんな中、もう一人のフォワードであり、たった一人の分隊『ストライク』のコールを持つ少年、氷雨トーリは………

「………………………」
「スマン、少しやりすぎた」

 絶賛死亡中だった。いや、この場合半殺しと言うべきか。息はしているものの、瞳に生気が宿っていない。某ロールプレイングゲームのように言うのであれば『へんじがない。ただのしかばねのようだ』とでも言うべきである。
 ちなみに、今死んでいるトーリ(死んだように倒れている、が正しい)に謝っているのは、ライトニング分隊の副隊長であるシグナム二等空尉。右手には相棒であるレヴァンティンが握られており、さっきまで炎を宿していたのか、刀身がほのかに赤く染まっている。しかし、言葉と裏腹に彼女の表情は幸せそのものだ。
 ちなみに言うと、彼らはちょうど模擬戦を終了させたところなのだ。その結果は、火を見るよりも容易い。もちろん、シグナムの圧勝である
 更に言うと、何故シグナムとトーリが模擬戦をしているのかというと、これはなのはの頼みである。
 先日の一件、リニアレール事件で露呈した彼の弱点。それは『近接戦闘に対する対策の少なさ』である。彼が述べた近距離戦の対策(反撃)は、十八番の『ジャイロシューター』と『金剛力』のみ。それも後者は対人用では絶対に使えない代物であるため、実質一つだけ。彼の相棒であるガーンディーヴァにも、近接戦闘用として湾曲双剣に変形も可能だが、これも殆ど使っておらず、近接用の技もない。そのため、意外とバランスの取れた彼の為、なのはは予定していたカリキュラムを大きく変更し、まず長所を伸ばすのではなく弱点である近接戦闘をどうにかしようと決めたのだ。
 そう決まったら、次に考えたのは彼専属のコーチ。これは、その時のシフトで決めることにした。彼の講師として決まったのは、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、スバルの四人である。基本的に暇なザフィーラをメインに組み立て、その都度その都度メンバーを変えていく、と言う方針に到ったのだ。ちなみにスバルが選ばれている理由は、彼女の防御練習に、トーリの金剛力が使えるからである。まさに一石二鳥と言ったところだ。
ちなみに今回はシグナム。『戦闘狂(バトルマニア)』として有名な彼女が模擬戦の相手になってしまったので、こういう結果になっている。

「シグナム副隊長、マジでお強いっすね」
「まぁ、これでも主はやての守護騎士だからな。弱くては、守護騎士の名に恥じだ」
「なるほど」

 そう誇らしげに言うシグナム。正面には疲れ切っているトーリがいるが、彼女は全く疲れていないし、汗一つかいていない。これが経験の差というものだろうか?

「氷雨、まずお前は攻めることを意識しろ」
「いや、意識しろって言われても………」
「何、意識しろ、と言うと難しいと思うが、お前の行動に攻めの動作を組み込め、と言うことだ」
「余計に難しく感じるんですけど」

 まぁ聞け、と言いながらシグナムはレヴァンティンの切っ先で地面に何か書いていく。というか、相棒(レヴァンティン)をそんな使い方で使って良いのだろうか?絶対に泣いている気がする、と思っているのは、トーリだけではないはずである。

「お前の場合、近接戦闘は苦手だが、近接回避は得意のようだな?」
「得意って言うか、感覚ですかね?こっちから来る、って言うのが分かるような気がするんです」

 お前はどこぞのニュー○イプか、と小さくシグナムは突っ込むが、そんなことは気にせずに話し続ける。

「だから、その回避運動に、攻撃を加えるんだよ」
「どんな感じにですか?」

 私はあまり得意ではないのだがな、と言いながら彼女はトーリと距離を離す。そして、「どこからでも良いから、遠慮せずに一発撃ってこい」と言う。既に彼女の体勢は回避する体勢に入っているためか、どこか軽い。そのため、トーリは遠慮無く撃ち込むことにした。

「では、行きますっ!」

 バッと地面を蹴り、トーリは一気に彼女へと肉薄する。既に右腕を引き、右正拳の構えである。そして彼女との距離が縮まり、その右腕を解き放つ、瞬間!

「っらぁ!」
「っ!?」

 右のフェイクを見せ、一気に体勢を低くする。しかし、正拳での攻撃を予測していた彼女にとって、右回し蹴りへの対処は遅れていた。これなら入る、そう思った矢先だった。

「まだまだ甘いな」

 その右回し蹴りをレヴァンティンの刀身ではなく『鞘』で受け流すと、そこから体を上手く滑り込ませて剣本体の峰打ちでトーリの背中を打つ。
 見事命中させた峰打ちは、バコンという音を立てながら直撃。トーリはさながらカエルが潰れたような声を上げてその場に叩き伏せられる。
 今の攻防で、トーリは何となく理解した。相手の攻撃を利用して相手の死角に入って攻撃しろ、と言う事なんだろう。

「っつつ、副隊長、本気だったでしょ?」
「まぁな、遠慮せずにと言ったからな。こちらも本気で行かせてもらった」

 そう言いながら剣を鞘に収めるシグナム。しかし、トーリは今の攻防で何か思いついたのか、すぐさま起き上がって考え込む仕草をする。それを見てシグナムは、当分戻ってきそうにないと判断すると、「思いついたら通信で教えてくれ」と言い残し、彼女はなのはの元へを戻っていった。



 その少し離れたところになのは達はいた。どうやら、ちょうど休憩時間のようだったらしく、フォワードメンバー全員、少し前のトーリのようになっていた(もちろん、彼の何倍もマシだが)

「あ、シグナム。トーリの方、どうでした?」
「テスタロッサも参加していたのか。トーリの方は、今は考え中だ。何か思いついたようでな、少し一人にさせて置いた」

 そう言いながら、彼女はフェイトが手渡してきたスポーツドリンクを受け取ると、ゆっくりと口を付ける。少し飲んだ後、ふぅと一息入れると、前でへたり込んでいるフォワード四人に視線を移す。

「まぁ、どちらもあまり変わらんな」
「と言うかシグナム。お前、教えんの苦手とか言ってなかったか?」
「何の事だヴィータ?」

 ちょっと驚くシグナムの横にいるのは、先ほどまでスバルにつきっきりで教えていたロリ年増………もとい、スターズの副隊長であるヴィータである。

「………ん?」
「どうしたのヴィータちゃん?怖い顔して」
「いや、なんか失礼なことが聞こえた気がして」

 グラーフアイゼンをぐるぐると振り回しながら周りを警戒するヴィータ。これ(ロリ年増)は禁句なので、言ってはいけないと言うことを肝に銘じておく。

「話は戻るけどよ、シグナム。お前教えんの苦手って言ってたよな」
「あぁ、教えてないぞ?実際は、なのはの模擬戦に近いな。とにかく模擬戦でぶちのめして、気になったところを私が伝えられる範囲でアドバイスする。近接戦闘オンリーだから、何かとやりやすくてな」

 そう言ってから肩を回すシグナム。どうやら本気で楽しんできたことがアリアリと伝わってくるため、ヴィータ達は表情がちょっとだけ引きつっていた。
 その時、彼女の後ろの茂みからガサガサという音が鳴った。その瞬間、ヴィータはグラーフアイゼンを振り上げてその茂み目掛けて殴りかかる。しかし、その何かには当たらず、鉄槌は空振りに終わる。
 その茂みから出てきたのは、トーリだった。かなり嫌な汗をかいて、間一髪というオーラがにじみ出ていた。

「ヴィ、ヴィータ副隊長………殺しに来てましたよね?」
「う、うっせぇ!お前がそんなところから出てくるからだろうがッ!」

 再び鉄槌がトーリに降り注ぐ。それを紙一重で回避すると、トーリは一気に距離をとって回避の体勢に入る。ヴィータはまだちょっとお怒り気味で、再び突撃体勢に入る。フェイトがそれを止めようとしたが、彼女の動きを先にシグナムが止めた。

「シグナム?」
「ちょっと待て。トーリの考えの成果を見たい」

 そう、彼女には聞こえていたのだ。トーリが距離をとったとき、彼女にだけ聞こえていた念話。
 『無い頭捻って考えたこと、お見せしますよ』という、ちょっとだけ自信ありげな言葉に、彼女は掛けてみたくなったのだ。しかも、よく見るとヴィータもヴィータでちょっと楽しんでいるような表情である。
 彼女は、今二人がやっている模擬戦もどきの一挙手一投足を見逃さないようにしていた。トーリは相変わらずの回避優先の立ち回り。しかし、さすがのヴィータも気がついているのか、その回避行動の先に攻撃を撃ち込むような動きに変わってきている。
 ここまでは、さっきからずっと行ってきた模擬戦と同じパターンである。しかし、ここからトーリの動きが変わった。

 一度大きく距離をとる。それをヴィータは追いかけ、アイゼン振りかぶって脳天に一撃を叩き込もうとする。それをぐっとトーリは見て、直撃の瞬間に動いた。

「なっ!?」
「え?」
「ウソ!?」

 ヴィータはおろか、なのはやフェイトまで驚く行動に、シグナムはちょっとだけ感心していた。今、トーリはヴィータの鉄槌の一撃を右腕一本で受け流したのだ。
 デバイスは起動しており、グローブ型になっている。たぶん、今彼がやったのは普通の防御魔法であるプロテクション。しかし、それを局所で発動させ、強度を通常の何倍にもふくれあがらせたのだ。簡単に言うと『局所防御魔法』とでも言うべき魔法である。
 通常発動するプロテクションは広範囲防御を目的に発動させるため、なのはクラスの強度を持つプロテクションは珍しい。しかし、それはその目的を変えれば、誰でも硬いものが作れるのだ。
 それが、今トーリが行った局所発動。少ない面積で発動すれば、同じ魔力消費量でも強度が異なる。つまり、通常張ったものよりも何倍も硬いものが出来るのだ。
 今の攻防で完全にバランスを崩したヴィータ。ここから反撃しようと体を捻るために動き出すが、既に遅かった。

「はっ!」

 ひねり終わった瞬間に突きつけられる湾曲剣型に変形済みのガーンディーヴァ。このポジションではチェックメイト。そう決まっていた。

「へぇ、やるじゃん」
「シグナム副隊長との模擬戦の賜物ですよ。まだちょっと使うには不安ですけど」

 「防御が元々硬くないんで、硬い防御を作ることを考えてから反撃することを考えてみました」と、ちょっと自信ありげな表情をするトーリ。その表情に、その場にいた全員は驚かされていた。何せ、ヴィータの一撃をギリギリだったが受け流したのだ。
 額に一筋の汗を垂らしながら、トーリはそうヴィータに言う。さすがにぶっつけ本番でやったのはかなり怖かったのか、表情はまだちょっとだけ強ばったままだ。しかし、強ばった表情の中にも、何か嬉しそうと言うか、そんな表情が混ざっていた。

「氷雨、今のは良かったが………」

 ズイとシグナムが乗り出し、トーリにレヴァンティンを突きつける。彼女の目はとても楽しそうなものとなっており、彼女の中で何かのスイッチが入ってしまったのは明白だった。トーリは何とか逃げようとするが、その前にレヴァンティンの第二形態『シュランゲフォルム』で捕まえられてしまう。

「もう少し詰める必要があるな。良し、もう少し模擬戦をしようそうしよう」
「ちょっとシグナム副隊長!?落ち着いてくださいってちょっとぉぉぉ〜〜〜」

 彼の最後に残していった彼の言葉は「ヘルプミーーっっ!」という嘆きの声。彼のその声にその場にいた全員は合掌し、彼の無事の帰還を祈った。もちろん、その祈りは届くはずが無く、夜中にボロボロになって帰ってくるのだが、それはまた別の話。



―――機動六課隊舎内・部隊長室

 そこに、一人の男性が気をつけしたままの態勢で待機していた。彼の正面にいるはやては、彼の情報である履歴書にザッと目を通しながら、「うん」と満足げに頷いた。

「うん、オッケーや。じゃ、これからよろしくな、ダンプ=ストリーム一等空尉」
「はい。こちらこそよろしくお願いします、八神はやて二等陸佐」

 ビシッと敬礼するダンプ。こう言うところの辺り、やはり経験というか、そのようなものがかいま見える。純粋にはやては、この人は『頼れる人』という第一印象を持つことが出来た。
 直後、はやてが言った「階級呼びとか苗字で呼ぶのはちょう堅いと思うんで、名前で呼んでもええですから」という言葉に対して、四月に入ってきた新人(トーリ)とは違い、すぐに対応する辺り、さすがと言うべきだろう。
 彼女と共に部隊長室を出て、案内を受けるダンプ。年齢差がありすぎるカップル(年齢差15歳)と見れば良い方であるが、はやてもダンプもそんなこと思っていないだろう、たぶん。

「それにしても、この部隊は変わっていますね」
「そうですか?」

 独特のイントネーションで答えるはやて。その言葉の裏には、どんなところが変わっているのか、と言う疑問も隠れていることに、ダンプは見逃さない。

「初めてあった僕なのに、バックのスタッフもみんな優しくしてくれて、しかも全体的に仲が良い。仲が良い部隊は結構ありますけど、こんなに新参者の私に優しくしてくれる部隊はそうそう無いですよ?」
「それは嬉しいなぁ。褒め言葉として受けとっときます〜」

 ぺこりとお辞儀をするはやて。それを見ながらダンプはのんびりと外を見る。ちょうどそこからは外の訓練場がよく見える場所で、彼の視線はそこに釘付けになっていた。
 それを見て、何かを感じたはやては彼の前に行くと、訓練場の方を指差す。

「行ってみます?」
「良いんですか?」

 唐突な言葉にちょっと戸惑うダンプ。しかし、そんな彼をはやては「大丈夫です」と笑顔で返す。その笑顔に負けてしまったのか、ダンプは「では、お言葉に甘えて」といって彼女と共に訓練所を目指す。
 ダンプは、はやてと目的地である訓練場を目指している間、彼はずっととある事を考えていた。それは、ここにいるある局員のことについて。その局員と彼の妻は同じ部隊にいて、とある事件の時を境にダンプは妻を失い、とある局員はもう飛べなくなるかも知れないほどの重傷を負い、復活して見せたエースオブエース。

「………高町なのは、一等空尉」

 ゆっくりと前から歩いてくるフォワードメンバーと、共同に参加していた隊長陣。ダンプの視線は今、無意識のうちに彼女に集中してしまっていた。そう、なのはにである。

「あ、はやてちゃん。彼が新しく入った人?」
「そうや、ダンプさん言うて、入局19年のベテランや」
「よろしく」

 彼が挨拶すると、フォワードメンバーも挨拶を返す。隊長陣もそれに同じだが、ただ一人、なのはだけは何故か固まったままだった。ダンプを見たまま、何かに気づいたような表情のまま固まってしまっている。そう、何か、思い出したくない出来事を思い出してしまったかのように。

「まさか、アミィさんの………?」
「そうだよ、私がダンプさ」

 そのことを聞いた瞬間、なのはがその場でゆっくりと涙した。まるで、何かずっと固めていたものが、今の一瞬で全てぶち壊れてしまったかのように、彼女の涙の堤防が決壊した。
 終始聞こえるのは、彼女のごめんなさいという謝罪の言葉。そんな、今まで見せなかったような彼女に動揺する他の面子だが、ただダンプだけは冷静、と言うか、そんな彼女を見てやることを決めたような表情をしていた。
 彼はゆっくりなのはのところへ向かうと、近くでおろおろしていたフェイトにこっそり耳打ちをする。

「ちょっと高町隊長宥めてくるから、あのこと話しておいてくれないか?」
「え………でも、ダンプさんは………?」
「まずは、こっちが先だ。よろしく頼むよ」

 そういって、訓練場の方へ行く二人。フェイトは「良いのかなぁ?」と小さく良いながらも、フォワード達に問い詰められる前に今の理由を話し出した。

「なのは隊長ね、一回飛べなくなるくらいの重傷を負ったことがあったんだ」



―――隊舎外れの森の中

 気に腰掛けたまま、最初よりは泣きやんだなのは。彼女の隣にいるダンプは、いつ手に入れたのか自販機から取ってきたと思われる缶の紅茶を二本持っていた。
 ほいっ、とダンプが差し出す紅茶の缶を素直に受け取り、ゆっくりと口を付けるなのは。しかし、その表情はいつもの彼女とはかけ離れている暗く沈んだ表情だ。そんな彼女を見て、何から話せばいいかと考えていると、不意になのはが口を開いた。

「ダンプさん、私のこと恨んでます?」
「ん、何故私がキミのことを恨まなくてはならない?」
「だって、私のせいでアミィさんが亡くなってしまいましたし………」

 また瞳に涙が溜まり始めるなのは。その話は、8年前の話。なのはが初めて撃墜されたときに殉職した彼の妻の話である。しかし、そのことを聞いてもダンプは小さくため息をつくと、彼女の頭に手を乗っける。そう、ちょうど、彼女の頭を撫でるような感じである。

「別に、恨んでない、と言えば嘘になりそうだが、アイツはアイツで成すべき事をやったんだ。みんなを守る、それだけのためにな」

 それでも、死んじまっちゃ意味ないだけどな、と、先ほどより暗い表情で語るダンプ。しかし、彼はすぐに明るい表情になって、なのはに笑いかける。

「だから、キミも成すべき事をやるんだ。アイツは死に際に言ってたよ。私の思いは、きっとキミが受け継いでくれる、ってな」

 その言葉を聞いて、再び泣き出してしまうなのは。そんな彼女を、ダンプはまるで父親のように少しの間宥めていた。



―――とある管理外世界

 その管理外世界には、とあるテロリストと、それを隠れ蓑にした違法研究者の研究所が砂漠の中に存在した。その研究所では、子どもを対象とした魔改造の研究をしており、ミッドチルダでも時折報道されることもあった。
 しかし、その砂漠の研究所は、既に地獄と化していた。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!???」

 どこからともなく聞こえる断末魔の絶叫。そのたびに消えていく命。しかし、その中に誘拐されていた子ども達の姿はない。子ども達は既に避難させており、今は違法魔導師と研究者、そして、それらだったものの死骸しか残されていない。

「撃ちまくれ!何が何でもデータの移行までの時間を稼ぐんだ!」

 指示しているのはテロリストの親玉と思われる人物。彼が今、正面にいる敵対勢力に向けての発砲を許可した。テロリスト達が持つのは、ミッドチルダで言われる質量兵器を言われるハンドガン。その無数の銃口を、敵対勢力である正面突破してきた一人の男に向けて、引き金を引く………その瞬間だった!

「うおぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」

 突如後ろから聞こえた咆吼。巨大生物の声かと思われたその咆吼の主は、巨大な槌を担いだ男。彼が後ろにある脱出用のシャッターを一振りで粉砕したのだ。
 その一瞬で、動きが止まるテロリスト達。その一瞬の停止を、正面にいる男が逃すはずなかった。
 腰に差している刀を鞘からゆっくりと引き抜く。引き抜いた刀身は、天窓から入る月明かりを反射して妖しく光り、その空間を光りで照らし………次の瞬間真紅の魔力波でその一室が満たされる。
 まるで荒ぶる虎か龍のように踊り狂う真紅の魔力波。その波動は刀身からでなく、彼の体から直接あふれ出ており、テロリスト達のことを圧倒する。そして………

「覇道………滅封」

 次の瞬間、その研究所は赤い魔力波動で蒸発していった。
 研究所があった場所に立つ男。彼は構えたままの刀を鞘に収めると、ゆっくりと辺りを見渡す。研究所は蒸発しているものの、最後まで抵抗したテロリスト達は死んでいない。脱出しようとした違法研究者達は他の仲間が捕まえて管理局に突き出すらしいから、これにて今回の任務は終了である。

「ガイウス、相変わらずやり方が豪快じゃのう。研究所ごと蒸発させるやり方なんて、聞いたことないぞ?」
「それは、俺が初めてだからな。それよりもジャルガ。お前のシャッター破壊の方が驚いたぞ。どうやったらあの強化シャッターが壊せるんだ?」

 そんなことを話ながら、二人はその場から姿を消した。この時、彼らはわざと自分たちのことをさらしていた。
 テロリストと違法研究者達に制裁を下すために立ち上がった非公式レジスタンス『六鏡聖団』であると。

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