小説『魔法少女リリカルなのは〜ちょっと変わった魔導師達の物語〜』
作者:早乙女雄哉(小説家になろう版マイページ)

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第14話:真実と覚醒


「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる、爆ぜる!彼の目の前にあるガジェットが、彼の掌底を、手刀を、回し蹴りを、直進蹴りを、各種打撃技を叩き込まれた瞬間、内部に魔力を送り込まれ即刻爆発する。格闘戦技がすでに本職の弓道と変わらぬほどの実力までになっているトーリの攻撃に、ガジェットがまるで対応できていなかった。
 しかし、本来格闘戦技のみならばガジェットは、その比較的強固な防御力とAMFという反則級のフィールド魔法があるため対応できる。彼の場合、そこにもう一つアレンジを加えている故、ガジェットがあれよあれよという間に破壊されていっているのだ。

(これ、金剛力がデフォで発動状態になってやがる。しかも、接触の瞬間に敵の強度に合わせて適切な威力で。これ、凄い改造じゃねえか?)

 そのアレンジというのが、トーリの固有技術である『金剛力』。まさにガジェット崩しの技とも言うべきその技能は、物体に魔力を通し、物質に魔力を徹す、まさに城壁崩しの一撃である。それが、ガジェットには気持ちいいほど有効なのだ。
 そんなことを思いながら、その改造された相棒―――ガーンディーヴァのついた右掌底をガジェットの胴体に叩き込み、瞬間金剛力を発動。その楕円形の胴体の真ん真ん中をぶち抜く。その流れで、ほぼ射的距離に入ってきている右翼の三型に対して、空中で弓を構えるような構え―――しかし、通常の右利きの型ではなく、左利きの型―――を取り、狙いを定める。

「………これか!」

 何か閃いたかのように、その場でイメージをする。その瞬間、右手の拳の先に合わせるように、自分の魔力光と同じ灰色の光を放つ弓が、左手には、弓につがえるように灰色の矢が形成される。
 そして、右手の指を打ち鳴らす。俗に言う、指パッチンと言う奴だ。その瞬間、打ち鳴らした斜線上に光の矢が射出。その矢は頼んでもいないライフリングを以て空を飛び、三型の胴体に小さな風穴を開けた。しかし、その矢の開けた穴は小さくとも、確実に三型の動力源を貫いていた。
 沈黙後、爆砕。三型の爆発に巻き込まれるように、周囲にいた一型も誘爆、一気に視界が開け、ヒスイまでの道が出来上がる。

「あなたは、何でスカリエッティなんかに付いてるんだ!」

 その道に沿って、今度は右利きの型に構え直して魔力矢を射出。距離は離れているものの、その矢はすぐに音速超過。目にも止まらぬ速さでヒスイへ向かうが、その矢は撃ち落とされる。ヒスイのアドメラレクから放たれた、虹色の単発の魔力弾だ。

「俺は奴と取引をした。だから、俺は奴の望みを叶える。その代価として、奴は俺の望みを叶える。だからさ!」

 ヒスイが引き金を引く。放たれたのは散弾式の魔力弾。トーリは無差別に放たれたその弾丸をサイドステップとアヤネとの訓練で強化した機動力で回避していく。しかし、やはり回避しきれなかったのか、僅かに彼の体を掠め、バリアジャケットを引き千切って赤い血を少しだけ飛び散らせる。
 その一発一発が鉄鋼弾級の威力があるのか、無差別に放たれた弾丸に巻き込まれたガジェットは見るも無惨な姿へと成り果てていた。

「おいおい、そんな弾丸変換も出来るのかよ」
「なめるな、お前の速度は、あいつよりも遅い!」

 そう言って、ヒスイは再びトリガーを引く。しかし、そこから放たれたのは弾丸ではなかった。
 ヒスイとトーリ、二人の間にある距離は10メートル。しかし、そんな距離を無視するような速度で飛ぶのは、抜き撃ちで放たれた七色の砲撃。ノーモーション且つノーチャージで放たれたとは思えないほどの威力のそれは、周囲にいたガジェットすら巻き込んでトーリへ向かう。
 しかし、それをトーリは回避しようとせずに待ち構える。構えた右拳には灰色の魔力光が煌々と輝いて、まるで淡く光る太陽の光のよう。そして………

『右拳(ライトバレル)、完全充填(フルロード)完了(コンプリート)!』
「ぶちまけろ!ジャイロブレイカー!!」

 放たれた砲撃に向かって、拳を捩じりながら突き出し、砲撃を放つ!その砲撃は、まるでジャイロシューターのような回転を持って突き進み、なんとヒスイの放った砲撃の中央を削ってから相殺した。
 その威力に何かを思い出したのか、ヒスイは少し驚くような、嘆くような表情を作ると、アドメラレクの銃身の下に手を沿わせ、そのラインにかなり大きな刃を作り出す。所謂銃剣と言ったところだ。近接戦闘用のスタイルを取ったヒスイは、構えたと思うとそのまま一気に加速してトーリの正面に躍り出て、アドメラレクを振りかぶる。それに反応するように、トーリは両腕を交差させ、その一撃に備える。

「馬鹿め!!」
「な………がふっ」

 しかし、トーリの体を襲ったのは思いも寄らない攻撃。振りかぶったアドメラレクはフェイク。本命は、飛び上がったときの勢いを利用した空中回し蹴りだったのだ。思わぬ所からの攻撃を受けたトーリは、防御もままならずその攻撃の直撃を受けてしまう。

「ふっ」

 体勢の崩れたトーリを更に追撃するように、ヒスイはアドメラレクの銃口をトーリに向け、引き金を引く。ほぼ零距離砲撃。これは直撃だと思って高をくくったヒスイ。
 しかし、トーリはその常識を180度超えた行動をやってのけた!

「く、っそぉぉぉぉぉ!!」
「なにっ!?」

 ほぼ零距離だったものを回避した。回避されたことと、回避そのものに驚くヒスイを尻目に、トーリは彼の体を踏み台にして一旦距離を取る。その回避方法に、ヒスイは驚いたのだ。

(あの距離で更に懐にダッグインしてくるか!本当にセイジそっくりだ!)

 トーリがやったのはダッグインと呼ばれる行動。主にバスケなどで使われる用語で、バスケ選手が相手を抜くとき、頭を低くして進む方法だが、トーリはそれを回避に使用したのだ。その回避方法が、過去の友であり、自らが手を掛けた氷雨セイジとそっくりだったのだ。

「これで!」
「ぐっ!」

 懐に入られて反応が遅れたヒスイは、カウンター気味に放たれたトーリの左アッパーをアドメラレクの銃身でガードする。しかし、魔力強化と金剛力によって強化された一撃に体全体に衝撃が走り、僅かに体が浮遊する。その浮遊のせいで、次の攻撃の対応に後れを取ってしまった。

「終わりだぁぁぁ!!」

 ほぼ真横から飛んでくるトーリの右正拳。その拳は正確にヒスイの顔面を捉えた。しかし、ヒスイのとっさに放った右正拳も、同じようにトーリの顔面を捉えていた。まさにカウンターのような状態で固まった二人は、そのまま崩れ落ちるかと思われた。しかし、そんなことにはならず、次の攻撃に備えて両者とも同時に後退する。

「なるほど、確かに強くなってるようだな」
「なめんなよ、俺だって、あんたに負けてばっかにゃなれないでな」

 そう言いながらトーリは剣を構えるような格好をとる。すると構えた所に、灰色に輝く魔力で出来た大剣が現れる。それを見て、ヒスイもまたアドメラレクを構える。
 この間に、ヒスイは今トーリが装備している新しいデバイスについての個人的な解釈が完了していた。つまり、あのデバイスは空気中の魔力や自身の魔力を利用して武装を織り上げるデバイス。それそのものが武器となることはないが、魔力を直接武器に返還させることを念頭に置いて作り上げられているのだ。しかも、特殊なコーティングでもされているのか、AMFの効果があまり見られない。つまり、AMFによる威力半減は望めないのだ。

「いくぞ!」
「いくぜ!?」

 ほぼ同時に地面を蹴り、近接戦闘の射程距離に入る。その瞬間から、攻撃に嵐は巻き起こっていた。
 先に攻撃を仕掛けたのはトーリ。両手で持った大剣を大きく振りかぶると回転。遠心力を利用した重量のある回転斬りをヒスイに対してたたきこむ!
しかし、ヒスイもそれを読んでいたのか、アドメラレクの銃身を利用して攻撃を逸らし、出来た隙に向けて打撃を放つ。しかし、その打撃もトーリの素早い判断で防御され、逆に鍔迫り合いの状態に持ち込まれてしまう。
 火花が散り、いつ均衡が破れてもおかしくないと思われる状況。しかし、この均衡は全く破れない。トーリが状況を崩そうとすればヒスイが体重移動で受け流し、逆にヒスイが崩そうとすればトーリが強引に状況をそのままにする。まさに、完全な均衡状態にあった。

「ほう、なかなかやるようになったじゃないか」
「この状況は崩させない。その間に俺の問いに答えてもらう!」

 トーリが一旦離れ、そこから回転斬りを放つ。それに合わせるかのように、ヒスイはアドメラレクの重心の下に刃を展開し、再び鍔迫り合いに持ち込んだ。

「なぜ、お前は兄貴を殺した!」
「それは、俺の目的のために、あいつが邪魔だったからさ!」
「目的だと!?」
「そうさ!俺は、俺の目的のためさ。確かにスカリエッティとは取引をした。そう………」

 幾合も刃と刃が重なり合い、火花とツンと響くような金属音を周囲に響かせながらも、二人は会話と止めない。
 ヒスイが振りかぶった。それに対して再び一合合わせようと、下から振り上げるように構えたトーリだったが、次の言葉を受けて、その行動は完全に止まってしまった。

「妹を助けるって言うなぁ!」
「なっ………!?」

 思いもよらない言葉に驚いたトーリは、不意にきた衝撃に吹き飛ばされ、地面を転がりそうになる。しかし、なんとか体勢を保ったまま構えなおしたトーリは正面に自分に向けて重厚を構えたヒスイを確認して、再び大剣を構えなおす。

「妹を、助ける………だと?」
「そうさ!妹は、局の任務で意識不明になった。ロストロギアのせいで!でも、局はそれの黙殺して、何事もなかったかのように事故だって公表しやがった。分かるか、この気持ちが!たった一人の家族を、組織の陰謀まがいの行動で殺されるのを、指をくわえて見てなくちゃいけない、この悲しみを!!!」

 怒りのまま、ヒスイは再びトーリへと飛び込む。トーリはその攻撃を防御するだけで攻撃には移らない。その代わり、ヒスイとの間合いを殆ど開けずにひたすらに攻撃を受け流す。

「だから俺は、スカリエッティの策に乗った。揺り籠を復活させれば、あいつは妹を助けると言った。だから、俺は………!」

 その瞬間、ヒスイの体から黒色の光が迸った。その光に不意を突かれたのか、トーリは鍔迫り合っていた状況から強引に引き離され、彼は数メートル吹き飛ばされる。

「俺は、助けるためなら、何だってやる。たとえ、この身に死の黙示録を宿そうとも、必ず助ける。だから、俺は………!」
『黙示録の黒龍、封印解除。黒龍外装展開』

 瞬間、ヒスイの叫び声と共に彼の体から黒い魔力光が竜巻のように吹き荒れ、一瞬で周囲を飲み込んでいった。むろん、戦闘宙域に入っていたトーリもろともである。
 暗い結界の中、照らされているのはトーリのいる場所と、先ほどとはまるで違うバリアジャケットを装備したヒスイのいる場所のみ。ヒスイは、最初に装備していた黒い甲冑ではなく、本物の龍を纏ったような、禍々しい鎧を装備していた。とげとげしい外観に、背中に生えた黒く巨大な翼。まさに、『黒龍』を名乗るにふさわしい鎧である。

「俺ハ、妹ヲ助ケル。ソノ為ナラ、コノ力ヲ使ッテデモ!!」

 ヒスイの正面に魔力球が展開される。その色は、黒。元々のヒスイの魔力光である虹色とは反対に、暗く禍々しい色だ。しかも、その大きさは今までの戦闘の比でない。つまり、馬鹿でかいのだ。
 あんなの食らったらひとたまりもない。そう判断したトーリは瞬間判断。自分が今、何をすべきであるか思い出し、すぐさま自分の胸の辺りに右手を置く。

「来い、キア・エウクス・ヘル!!」

 瞬間トーリからあふれ出る灰色の魔力光。しかし、その光は徐々に薄くなり、光がはじけると、アグスタの時に持っていた斬刀槍が、彼の右手に現れる。
 トーリは斬刀槍を自分の上で大きくぐるりと振り回すと、そのまま刺突の構えを取り、視線を一点に―――ヒスイが収束させている黒い魔力球に向ける。そして―――。

「喰ラエェェェェ!!!」
『ブラック・ナイトメア』

 ヒスイの叫びと共に放たれる黒い巨大な魔力弾。それは轟音を伴いながらトーリに迫っていく。しかし、そんな危機的状況に陥っているにもかかわらず、トーリはあまりにも冷静すぎていた。

「やることは決まっているんだ。キア、魔力を槍の先端に集中させろ!」
『了解しました』

 斬刀槍の主であるキアにトーリがそう伝えると、斬刀槍の先端、つまり槍の切っ先に魔力が集中していく。トーリはその高まりを体全体で感じると、次の瞬間には体全体で突撃していけるような構えを取り、そして!

「ゼロヨン!」
『All right!system formula start up!』

 トーリの足下が爆発するように魔力が溢れ、トーリの体を一気に飛ばしていく。その速度は、今まで使ってきたゼロヨンの三倍ほどあるだろうか。使った本人ですら驚くような速度で彼の体を吹っ飛ばし、音速超過で突撃する!その技の名前は………!

「ストレート・フルクラム!!」

 咆哮と共に彼の体は灰色の魔力光に包まれ、ヒスイの放った魔力弾とぶつかり合う。バチバチと火花が散りながら、体を大きくスイングして魔力弾を打ち返す!
 しかし、跳ね返った魔力弾をヒスイはモノともせずそれを龍の尾を振ってぶちこわす!しかし、流石に自分の攻撃を受けたのは厳しかったのは、はたまた別に理由があるのか、突如咆吼し自分の張った結界を完全に消滅させ、ヒスイはその場で膝をついて息を荒くする。しかし、トーリも限界が近付いているのは、両手に持ったキア・エウクス・ヘルを地面に落とし、肩で息をしていた。地面に斬刀槍が落ちた瞬間、それは灰色の粒子となって消え、再びトーリの体の中に何かが戻るのを感じた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ―――」
「く、っそ………黙示録め。勝手に俺に入り込みやがって………」

 そんなことをヒスイは言いながら、地面に何か刻むとすぐにその場から消え去った。どうやら、即席且つ使い捨ての転移魔法陣を使ったのだろう。使い捨てなら後手に回ってしまえば追跡など不可能だからである。

「………こちらトーリ。御剣ヒスイと接敵。何とか撃退しました。しかし、こちらもかなりダメージを受けてしまいました
『了解です。お疲れ様です、氷雨二等空士。一応、検査入院と言うことで、そちらに向かうヘリに乗って聖王教会の病院に行ってもらえますか?』
「了解しました。それでは、お願いします」

 それだけ伝え終わると、通信相手だったルキノからの連絡は途絶えた。通信が終わった瞬間、彼の体に溜まっていた疲れがどっと出たのか、トーリはその場に倒れ、一定の呼吸速度で眠り始めた。



―――???

「全く、本当に使い物になりませんわねぇ」

 一人の女性が、モニターを見ながらそんなことを呟いた。モニターに映っているのは、バラバラの残骸と化したガジェット一型と三型。半分だけ原形を止めているものから、もはや原形すら止めていない悲惨な状態のものまで幅広くそろえてあった。

「それにしても、彼の力は少々厄介ですわねぇ」

 再び映るのは、青みを帯びた銀髪の少年の姿。当初持っていた弓形のデバイスではなくグローブ型のデバイスとなっているものの、その戦闘スタイルや魔力を弓形に固体化させての弓術、それに一度だけ見せたあの斬刀槍から判断して、彼と間違えることはなかった。

「氷雨トーリ。かなり厄介な相手ですわねぇ。あの『半分だけ本気を出した』御剣にあそこまで対抗するなんてねぇ。まぁ………」

 そう言いながら、彼女………戦闘機人No,4『クアットロ』は、幾つものモニターを同時に操りながら、一つの設計図を組み上げていく。その設計図は、巨大な人型のような形をしている『何か』だった。その組み上げの速度を見ながら、彼女は自己陶酔のような表情を浮かべて更に速度が増していく。

「この新型が出来てしまえば、あの方達は用無しですしね。………ブライ?」
「はい、ここに」

 クアットロが一言呼んで現れたのは、白スーツに白マント、白のロングヘアーで赤い瞳の美少女顔の少年だった。小柄な体の割には、全く合わない巨大な戦斧―――ハルバードが背負っている彼は、彼女のそばに行くとその場に膝をつき、指示を聞く態勢に入った。

「ブライ、次の出撃のときは、確実に六課のメンバーを減らしなさい」
「誰でもいいのですか、クアットロ様」
「えぇ、もちろんですわ。お好きにやりなさい」
「それでは」

 それだけ言うと、ブライの姿は影のように消えていく。それをクアットロは見送ると、すぐさま再び作業に戻った。確実に、機動六課を落とすための切り札を作るために。

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