小説『魔法少女リリカルなのは〜ちょっと変わった魔導師達の物語〜』
作者:早乙女雄哉(小説家になろう版マイページ)

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第18話:忍び寄る悪夢


―――新暦75年9月12日・時空管理局地上本部・公開意見陳述会

Side トーリ

 既に会場近くの警備に入っていた俺は、持ち込んだ手元の時計に目をやった。時刻は午後二時半。意見陳述会が始まって、まだ三十分しか経っていないが、今のところ何も異常は無し。このまま何もない、と言う展開で終わってくれれば、俺も万々歳なんだがなぁ。
 ところがどっこい、そうも行かなそうなのが現状だ。その理由は、ここに来ている警備部隊の数。俺たち機動六課メンバーはもちろん、管理局の名だたる伝説や戦績、結果を残してきた部隊の面々がこの会場周辺や内部の警備にいそしんでいる。そして、その中には本局航空武装隊第501統合戦闘航空団、通称『ストライクフォース』のエースと呼ぶべき第一分隊『ラスパード』をも警備に入っていた。それはつまり………

「は〜い、トー君。お久し〜」
「お兄ちゃん、お久しぶり♪」
「まぁ、お前達がいるって事くらい、予想はしていたがな〜」

 俺の姉と妹、エリカとユリカも来ていると言うことである。彼女らの話によると、部隊長であるエイラさんも応援に来ていると言うことなのだが、彼女はどうやら人手の足りなくなった機動六課本部の防衛に言っている、と言うワケらしい。「エイラさん、アヤネ教導官に御執心だからね〜」とふざけながら言っていたが、このこともたぶん本当だろう。訓練の休憩時間中にかなりの頻度で彼女からの連絡が来れば、どれだけ鈍感な奴でも「そういうことなのか」と察することは可能なはずだ。

「で、今んところは何にも異常なし、と。それでは、引き続き警備を続けてください」
「了解しました、氷雨二等空尉」

 そう告げて、俺はユリカと共に警備場所に向かう。たまたまユリカと警備場所が重なっていた、と言うのもあるが、何かエリカとユリカの二人で賭けをやったようで、それに勝利した方が『公開意見陳述会でトーリと同じ警備場所に着く』という訳の分からない景品を付けたようで、それに買ったのがユリカだった。だからこうして同じ警備場所に着いている、と言うわけだ。

「というか、そう言う訳の分からない報酬で賭けをするな。俺の身が保たん」
「は〜い、以後気をつけます」

 てへっ、とふざけたように頭を軽く下げるユリカ。それを横目で見ながら、俺は軽く一つため息をついた。
 再び時計を見る。時刻は三時を回ったところだ。確か、俺の記憶しているところによれば、陳述会終了は六時。後三時間も、よく会議やら報告やらをやっていられるなと感心していた、そんな時だった。

『よいっす、トーリ』
「へ、ダンプさん?」

 不意に通信してきたのは、同じ部隊のダンプさん。頼れるお父さんタイプの彼は、俺の同じ時間に会場入りして警備に付き、今は俺のほぼ真反対の場所で警備している。元々茶目っ気はあるもののしっかりしている彼が、こんなタイミングで連絡してくることはかなり珍しかった。

「どうしました、ダンプさん?」
『ん〜、なんつーか、とりあえずそっちはどんな状況かなぁ、って思ってさ。んで、そこにいるのは妹さんか?』
「はい、妹の氷雨ユリカです。兄がお世話になっています」

 いえいえ、こっちこそ、と互いに挨拶するダンプとユリカ。流石は人見知りの市内妹と、人付き合いの上手いダンプさんなだけあって、すぐにうち解けていた。
 それはともかく、なんの用だろうか?

「んで、本命の話は?」
『おぉ、そうだそうだ。ちょっとここに来てくれねぇか?』

 そう言って指示されたのは、ダンプさんが軽微に入っている場所にほど近い森の中。そこには、ダンプさんの魔力反応と思われるものと、もう一つ全く別の魔力反応があった。その反応は、彼と同じくらいの魔力量の計測値をたたき出しておきながら、今にも消えてしまいそうなほど微弱だった。
 これは、何かが起きる前兆か?そう直感で感じ取ったトーリは、その場をユリカに任せて空に飛び立つ。この何ヶ月か、訓練してきた垂直離陸からの瞬間加速が上手く起動してくれたようで、一気に最高速まで加速してそのままダンプさんに指示された場所へ向かった。

Side トーリ END



 今までの何倍も速い速度でダンプのもとに辿り着いたトーリは、速度を一気に減速させて彼の元にそのまま着陸する。

「よう、だいぶ早いご到着だったな」
「まぁ、それなりにですけど」

 そんな風に話ながら、トーリはふとダンプが指差した場所を見る。そこには、驚くべき光景があった。
 そこにいたのは、黒いスーツに、左腕をまるまる覆うように付けられたマントを装備した青年。顔の近くにはそれを綺麗に隠すように作られたであろう漆塗りのマスクが、綺麗に真っ二つに割れていた。そして、右手にはどこかで見たことのある真っ白の銃。ゆっくりと記憶の海を彷徨っていたトーリは、そのマスクを服装、そして真っ白な銃を見て、何かがはじけたように一つの結果を思い出した。
 それは、あの時、エイリム山岳地帯で遭遇した黒い魔導師。不意打ち紛いの超長距離狙撃を撃ってきて、その後交戦。だけど、ティアナとスバルが救援に着てから、何故かすぐに撤退した、あのわけの分からない魔導師。確か、名前が………

「こいつ、デュアリス………!?」
「知り合いか?」

 一度、レリックがらみの任務で交戦しただけで、と言うトーリ。そう言いながらも、彼はうつぶせに倒れた彼をとりあえず仰向けに姿勢を変え、呼吸の確認と気道の確保を行う。どうやら、呼吸は安定しているようだったが、それ以外が結構問題だった。
 まず、体全体に受けていたであろう大量の刺し傷。あらかた傷はふさがっているものの、まだふさがり切れていない傷もあり、出血も、服に滲んだ量から鑑みて、それなりに多いだろう。意識がまだ繋がっているのも、ほぼ奇跡のような状態だ。そして、その刺し傷よりも目立つのが、砕けた左腕。最初にトーリが交戦したときに判明していたことだが、彼の左腕は強固な合金で出来た義手だ。それを簡単あっさり砕くほどの威力を持った何かが、もしくは何かと交戦し、更にこの大量の刺し傷を受けて敗走、意識尽きてここで倒れた、と言うのがシナリオだろう。

「んで、こいつどうします?」

 トーリの質問に「とりあえず、簡単な回復魔法はかけたから、すぐに意識は取り戻すはずなんだが………」とダンプが答えたとき、倒れたデュアリスの口元が僅かに開き、くぐもった言葉を漏らす。それにいち早く気がついた二人は、彼を少しでも楽な姿勢をと考え、近くに気によりかからせる。

「う、っぐぅ」
「無理すんな。呼吸を一定に、落ち着いて」

 そう声をかけながら、ダンプがゆっくりと彼に声をかけ続ける。すると、うつろに開いていた両目がゆっくりとしっかり開き始め、完全に開いた。

「うぅぅ、あ、アンタらは………」
「機動六課所属、氷雨トーリ二等空士」
「同じく、ダンプ=ストリーム一等空尉だ。お前、デュアリスと言ったか?」
「フン、流石に、偽名のほうは、割れてるか。だったら、一つ頼みがある。俺の本名を教えるついでだ」

 そう言って、トーリはすかさず時計を見る。時刻はそろそろ四時。陳述会もあと二時間ほどで終わるだろう。しかし、時間はあって無いようなもの。それに、ここでスカリエッティの一味と思われる人物と会えたというのも、今後何かのアドバンテージになるかも知れない。モノの数秒でそのような結論に到った彼は、時計の端に付いたボタンを押し、録音機能を起動させるとそのまま彼の言葉を待つ。

「あと一時間半くらいで、スカリエッティの戦闘機人と、彼が雇った殺し屋が地上本部と機動六課を攻撃し始める。一つ言っておくが、その中にはヒスイさん達は含まれていない」
「なんだとっ!?」

 その言葉にトーリとダンプは驚いた。それもそのはずである。今の今まで六課に対抗してきたヒスイ達『暁の死霊』が、今彼の言った襲撃行動に参加しないというのは、どういう事なのか。
 その答えは、すぐにでも彼から聞くことが出来た。理由は、ヒスイ達『暁の死霊』と、スカリエッティ陣営の対立。正確に言えば、ヒスイとスカリエッティの対立からなる諍いだという。
 その言葉を聞いて、トーリは何となく思いついた。ヒスイが戦う理由。それは、未だ眠る妹を助けるため。その妹の治療法をもらい受けるためにスカリエッティ側に付いていたと考えれば、スカリエッティが彼のことをだました、と考えられる。そのため、スカリエッティと対立。今回の襲撃に不参加、と言うあらすじだろう。
 しかし、ここに今彼がいることは謎だ。彼が言ったことからするに、デュアリスはヒスイに全幅の信頼を置いていたと見る。それならば、今の彼の傍に付いているはずだろう。

「それは、簡単なことさ。昨晩、ヒスイさん達が出かけていて、帰ってきたとき、ガジェットの群と、殺し屋二人に襲撃されてな。みんな散り散りさ」

 そこまで言って、デュアリスは咳き込むと地面に赤い塊をはき出した。その塊は、地面に落ちるとベチャッと言う音を立ててゆっくりと広がっていく。どうやら、内蔵まで傷を負っていたようだった。彼の口からはゆっくりと血が垂れ始めていた。

「それで、何でお前はここに来た?」
「ヒスイさんに頼まれて………氷雨の紅槍を、スカリエッティに奪われるな、との伝言だ」

 その瞬間、地上本部のほうで小さくない爆発音が響いた。その音のする方向を見ると、地上本部から黒煙がゆっくりと天に昇っている様が二人の瞳に映った。あれは、確実に何か起こった証拠だ。

「とりあえずデュアリス。お前を来ている医療車両に連れて行く。本名を教えろ!」

 そう言いながらトーリは彼を背負うと、そのまま地上本部のほうへと走り出す。それを追うようにダンプも地面を蹴る。揺れるトーリの背中の上で、彼は小さく言葉をつむいだ。

「俺の、俺の本名は、ティーノ、ティーノ=ランスター」

 その名を聞き、驚きを隠せないトーリだったが、今は驚いている暇はない。そう自分の心に言い聞かせると、いっそう走る速度を速めた。



―――機動六課隊舎前

「防衛ライン形成、急いで!」
「射撃部隊、しかいないのか。防衛隊、三列横隊で射撃準備。メインの攻撃は、私とレンジョウが引き受ける!」
「おいおい、俺も行くのかよ。ま、良いけどよ」

 機動六課前に三人の叫び声が響く。隊長達が不在の間の六課を守るシャマル、保険として六課残留を希望したアヤネ。そして、応援戦力として自らここにやってきたエイラ、この三人だ。エイラとアヤネの後ろには、援護射撃と防衛に徹するため、三列射撃体勢をとった六課の予備戦力と、エイラが連れてきた彼女直属の魔導師部隊。その後ろには、最終防衛ラインとしての役割を担うシャマルとザフィーラの二人。この防衛ラインが、六課を守る最後の砦である。

「来るぞ。正面、距離四百」

 アヤネの声を聞いて、黒い死に装束に黒のボロボロになったマント、と言うバリアジャケットを展開し、右手に黒塗りの日本刀『凶月』を握る。その隣りに立つエイラは、彼のジャケットに対立するかのような真っ白い死に装束に、白のマフラー。右手には白い柄と鍔の刀『サモンジ』の一本が握られており、左腰には更に二本差されている。

「刀神式守護の殺陣・絶対領域。最大出力………!」

 エイラの一言で、彼女を中心として純白の結界が出来上がる。一度だけこれを見たアヤネは、その展開規模の広さに愕然とした。流石は一部隊の長と言ったところなのだろう。今まで展開してきた防衛ラインをまるまる飲み込むほどの大きさの結界だ。

「全力展開だと、ここまでが限界。だから、アヤネ………!」

―――さっさと叩いて!

 微かに聞こえたエイラの声。その声に呼応するかのように、アヤネの握る凶月の刀身が、ほのかに赤く染まる。そして、アヤネの口元が僅かにつり上がる。

「さぁて、久々に暴れるとしますか!」

 あまり聞き慣れない口調になっているアヤネは、ぐぐっと腰を落とすとそのまま一気に加速、前方に迫っていたガジェットの群に向かって一気に突撃する。それに反応したガジェットは光弾を連発する。しかし、その弾丸は全くアヤネには直撃しない。直撃の瞬間、もしくは当たる前にその弾道から完全に移動していた。結果、全く彼には当たっていない。
 そして、回避した先にあるのは防衛ライン。向かってくる弾丸を撃ち落とそうと射撃部隊が構えるが、彼らがトリガーを引く前に弾丸は全て斬り伏せられていた。
 彼らの目の前にある光景は、白い結界に弾丸が入った瞬間、一筋の光が弾丸を真っ二つにする光景。無限に飛んでくる弾丸が、白い結界に入った瞬間に何かに斬られていく光景だった。

「絶対に、通さないんだからっ!」

 その光景を実現させているのは、この白い結界『刀神式守護の殺陣・絶対領域』を最大展開したエイラ。彼女の右手には最初から握っていたサモンジ。そして彼女の両サイドには、今の今まで左腰に差していた小太刀二本が中空に浮いていた。
 これが本来の『絶対領域』の力。結界の範囲内―――この場合展開した半径50メートル圏内に侵入した遠距離攻撃の全てを斬り伏せることにより無効化する固有技能である。正面ならエイラが直接、彼女の意識が届く範囲であれば、浮遊している小太刀が斬り伏せる、と言う自動防衛技能だ。それは、今前線で大暴れしているアヤネがいるからこそ、最大限の力を発揮できる。
 前線で暴走とも呼べそうな大暴れをしているアヤネは、狭い六課正面の大通りを駆けめぐりながらガジェットを鉄屑に瞬時に変えていっている。その飛んでくる破片も攻撃対象としてエイラの絶対領域により粉微塵になっている。
 これが、まさに最良の布陣。アヤネが攻撃に専念し、エイラが防御に徹する。まさに絶対無敵の布陣だ。その布陣を見ながら、シャマルはひたすらに通信を通すために尽力していた。
 後ろにはバックヤードスタッフ、それにロングアーチの通信機能もまだ『生きている』はずだ。それならば、クラールヴィントの通信とセンサーを上手く活用すれば、この通信阻害状態も何とか出来るんじゃないか。そう判断したのだ。

(ザフィーラ、バックの避難は………?)
(今完了した。今からそっちに向かう)
(うん、お願い)

 バックヤードスタッフの避難誘導をしてくれていたザフィーラに念話をおくり、再びクラールヴィントのセンサーに視線を向ける。すると、そこには二つの巨大な天と、無数の天がかなりの速度でこちらに近付いてきていた。
 これは拙い。そう判断したシャマルは、今出来る一番速い速度でエイラとアヤネにデータを転送し、そのまま通信を開く。

「エイラさん、アヤネ君、推定ニアSランクの魔力反応が二つ、推定AAランクの魔力反応が………50!?総数52がこっちに接近してきてる!」
『52!?しかもニアSとAAって………!?』
『確実に戦闘機人と、エリーゼからの報告にあった新型だね』
『そうなりますわね』

 噂をすればと言うかのようなタイミングで通信に割り込んできたエリーゼ。今までどこで何をしていたのかというと、つい先日遭遇した新型ガジェット―――ガジェット四型と命名された―――の解体と内部の調査、及び装備武装の魔法仕様の改造やら何やらを、自分の家であるロベルタ邸で行っていたのだ。そのため、彼女は一週間ほど出張扱いの休暇を取り、自分の屋敷で色々作業を行っていたのだ。その作業の証拠が、今の彼女の装備に現れている。
 バリアジャケットは今までと替わらない赤い騎士服で、右手には彼女自慢の紅の剛槍『グングニル』が握られている。しかし、それよりも目立つ『異質な武器』が、彼女の背中には背負われていた。
 彼女の背中から伸びるのは真っ黒い銃身。腰に付けたショートポケットには、その巨銃に装填できる弾丸七発分が二組入れられている。そして、その銃の横には、彼女の家の印である紅薔薇に槍のマークが小さくペイントされていた。
 『PGM・ウルティマラティオ・へカート?』。先日のロベルタ邸前の戦闘で、危うくエリーゼを撃ち抜くかと思われた対物(アンチマテリアル)狙撃銃(ライフル)だ。彼女はそれを魔導師要支援武装として改造し、この場に持ち込んだのだ。

「エリーゼさん!?間に合ったんですね!」
「えぇ、ほんっとうにギリギリでしたけど。これの改修も済みましたわ」

 シャマルの隣りに降り立ったエリーゼは、そう言いながらポンッとへカート?の銃身を叩く。そして、一度その巨銃を背中から下ろすと、右手のグングニルをグルッと回してから防御も攻撃もやりやすい、最も自然な構えをとってから、風のような速さでガジェットの群に突撃していった。
 それを見送ったシャマルは、もう一度防衛ラインを見渡し、合流したザフィーラと共に指示を飛ばし始めた。



―――地上本部周辺

Side ダンプ

 リインフォース空曹長からのデータが、私のバリアジャケットに送られてくる。意識だけでその内容を確認すると、それは先程言っていた毒ガスの防御データのようだった。この術式だと、致死性の毒ガスではなく瞬間麻痺性の毒ガスのようだった。これなら、確かにこのデータとフィールド防御魔法を常時展開していれば防げ無くない。
 しかし、状況は悪い。隊長達は地上本部の会議室周辺に取り残されているし、ガジェットはウヨウヨ出てくるし、そろそろ俺の神経が一、二本ぶち切れそうなくらい怒れそうだが、ここは抑えないといけない。

「ダンプさん、私たちはなのは隊長達との集合場所へ向かいます」
「おう、了解した。じゃ、俺もそっちに………」

 走りながらティアナの言葉に返答した私の目の前に、ガジェット一型と三型の群が現れる。総数は多くないが、動きが全開遭遇したときよりも若干速くなっていた。まぁ、相手はあの変態博士だ。今までの戦闘データをガジェットや戦闘機人に組み込んで、動きをよくするくらいの所行はやってのけるだろう。それくらいはやってくると想定していたが、やはりこうやって対面すると何となくやばい雰囲気が溢れてくる。
 地上本部と六課に戦闘機人達が襲撃してくる、というデュアリス―――ティーノの情報が本当であれば、地上本部と六課、そして地上本部が援軍として呼んだ魔導師を迎撃する空中、この三つに分けてくると私は予想する。そのために、私は早い内にその対策のための手を打っておく!

「ティアナ、地下のロータリーで隊長達と合流したら、六課に行くのと、地上本部の防衛に参加するのとで分けてくれ」
「分かりましたけど、何故です?」

 流石は技巧派センターガード。しっかり理由を聞いてきた。その理由私は答えることは出来ないが、ただ視線だけで彼女に伝える。何か、嫌な予感と違和感がする、と言うことを。そのことを何とか理解してくれた彼女は、「分かりました」と言って再び走り出す。その横では、ヴィータ副隊長がリイン曹長とユニゾンして空に飛んでいった。先程ロングアーチから通信のあったアンノウン魔導師の迎撃に出たのだろう。アンノウンの姿を私は見ていないが、推定魔力量オーバーSと言うだけで、それだけの実力者、と言うことが覗えた。
 でも、今の私にはそんなことは関係ない。俺はティアナ達が走り去った方向を一瞥してから、ガジェットと交戦している魔導師達のほうへ走りながらジャケットを展開。戦列に参加する。
 右手にドリアードを握り、スピンさせながら三型の胴体へと突き出す。流石にエリーゼほどの貫通力は持たないが、しっかりと魔力を纏わせた突きは完璧に三型の胴体を貫いた。だけど、私はこの一撃だけで終わらせる、なんてエリーゼみたいな『華麗に美しく戦う』なんて言うのは趣味じゃない!
 三型を貫いたまま、自分の体を軸にして回転を始める。そして、その回転を保ったまま少しずつ移動を開始!つまりこれは、私オリジナルの広域打撃攻撃、名付けて『独楽潰し』!
 ネーミングセンスがない、というのは、私にとっては褒め言葉なのである。元々名付けに関してはセンスがないと昔から言われてきているので、もう気にしないことにしている。
 ぐるぐると回転したまま土埃を上げ、周囲にいるガジェットを突き刺した三型の胴体で殴り飛ばしていく。そして………!

「フィニーーッシュッ!!」

 最後は突き刺したままぼこぼこになった三型を上空に大きく投げ飛ばす。投げ飛ばした三型は少し先に固まって出てきたガジェットの群の真ん中に落ちそのまま爆発。群ごと消滅した。おぉう、何というラッキー。
 私はドリアードに付いていた余剰魔力を振り払うと、後ろで待機している魔導師達に檄を飛ばす。すると、押され気味だった魔導師達も何とか落ち着きを取り戻してくれ、ガジェット達の対処に入る。その時だった。

「うわぁぁぁぁっっっ――――――」

 一人の魔導師の断末魔の叫びが戦場に響いた。一瞬だけ静まるその場の空気を無視して、私は声のした方向へ走り出す。
 年齢のせいか息が切れるのが早くなっているが、そんなのはもうお構いなしだ。今の悲鳴は途中から完全に途絶えた。そんなことがあるのは、人が一人死んだ証拠。そんな現実を信じたくないせいなのか、私は必死に走った。そして、走った先で見たものは………。

「何だ、これは………?」

 もはや地獄絵図だった。警備に入っていたであろう魔導師の殆どは死んでいる。生きていても、死と隣り合わせのような状態の重傷者が数名、と言ったところだ。その負傷者も、互いに守りあい、補い合って何とか生き残っている。そんな風に見えた。
 場所は私が警備していた場所からそう離れていない。ここには、ロングアーチから貰ったガジェット反応のレーダーには入っていなかったはずだ。しかし、何故地獄絵図のような状況になっているのか。それは、正面にいる人物が、その答えである。

「まったく、上級魔導師がウヨウヨ来るって聞いて少し楽しみにしていたのに。これじゃ、期待はずれにも程がありますよ」

 そう言うのは、身の丈に合わない巨大な斧槍(ハルバード)を背負った少女―――じゃない。少年だ。白のロングヘアーに赤い瞳。黒い甲冑とマントに身を包んだ彼は、斧槍の刃に付いた血を払うと、まだ生きていると思われる足下の魔導師に向けて、その穂先を向けた。その先は………心臓!?

「弱いのにそうやって強い力に立ち向かおうとする。そう言う精神は認めてあげますけど、はっきし言って、大っっっ嫌いなんですよねぇぇっ!!」

 そう言いながら、斧槍をゆっくりを上に上げ、小さなテイクバックでその穂先を下に振り下ろす。その光景を見ていた私は………

「止めろぉぉぉっっ!!」

 いつの間にか叫びながら、ドリアードを展開して少年に突撃していた。

Side ダンプ END

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