小説『魔法少女リリカルなのは〜ちょっと変わった魔導師達の物語〜』
作者:早乙女雄哉(小説家になろう版マイページ)

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第01話:ファースト・コンタクト


Side トーリ

 俺が機動六課の隊舎に入ってから、だいたい五分くらい経った。今俺は、正面にフヨフヨ浮きながら隊舎内を案内しているリインフォース空曹長の後ろをついて行きながら、隊舎内の地図を頭の中に叩き込んでいた。
 しかし、これは覚えるのが大変そうだった。今回の隊舎は、とにかく広い。今まで居た部隊の隊舎の二倍はあるんじゃないかという広さだ。

「………で、ここが食堂です。これで隊舎の中は全部回ったわけですが、覚えましたか?」
「えぇ、広いですけど、何とか。あとでゆっくり確認しますよ、リインフォース曹長」
「あはは、リインで良いですよ〜。みんなもそう呼んでいますですし」
「そ、そうですか」

 この隊の全体的な第一印象は、とにかくみんな仲が良い。今日入ってきた俺にも声をかけてくれる人が何人もいて、正直驚いたくらいだ。今まで回ってきた場所、バックヤードスタッフにしろ、食堂にしろ、とにかくみんな仲が良い感じだった。
 俺はリイン曹長の後ろについて行きながら共に歩く。次に行く場所は、部隊長室。出向の連絡と挨拶のためだ。俺はちょっとだけ緊張の気持ちを持ちながら歩いていると、それを見たリイン曹長が笑顔を浮かべてこっちを見た。

「あまり緊張しなくていいですよ〜? はやてちゃんは、とってもいい人です」
「あ、はい、そうですか」

 そう言われても、緊張の面持ちが抜けない俺。だって相手はあの八神二佐。地球出身の高町教導官と、ミッド出身、地球で生活していたこともあるハラオウン執務官の幼なじみで、総合SS、古代ベルカ式の騎士で、特異な希少技能持ちで広域攻撃魔法が得意、という、まさに移動要塞とも言えなくない存在。数々の難事件を解決に導いてきた英雄が部隊長で、俺はその彼女に挨拶に行くのだ。緊張しない理由がない。

「まぁ、すぐ慣れるですよ。ガンバです」

 そう笑顔で言うリイン曹長。頼もしい言葉ではあるものの、やっぱり緊張は隠せない。歩きながら一回深呼吸をいれようとしたとき………

「ついたですよ………はやてちゃ〜ん。氷雨トーリ二等空士をお連れしたですよ」
『うん、分かった。入って〜』

 ちょっとだけクセのあるイントネーションが扉の向こうから聞こえてきて、その扉が開いた。よし、気張れ俺。ここからが正念場だ。そう自分自身に気合いを入れて、俺は一歩踏み出した。

「失礼します」
「はい、どうぞ」

 八神二佐の返答を待ってから、俺は部隊長室に入る。
 部隊長室は、結構しっかりした作りになっていた。デスクは部隊長とその横に小さいデスクが一つずつ。ソファにラック、それに仮眠用であろうしっかりとしたベッドまで備え付けられていた。これはなかなかに充実している。一泊くらいなら出来るんじゃないかって言うくらいの設備だ。
 しかし、あまり見とれているわけにもいかない。俺は気合いを入れ直してからしっかり八神二佐の方を向き、敬礼をする。

「本局航空隊第111部隊所属、氷雨トーリです。本日付けで、機動六課に出向となります。どうぞよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」

 俺の挨拶に、八神二佐も笑顔で返してくれた。うん、テレビとかで見るときよりも断然可愛い………とかじゃなくて。
 俺は心の中で三度目の気合いの入れ直しをして、八神二佐に一番聞きたかったことを聞いてみる。

「それでは、八神二佐。自分の所属部はどこなのでしょうか?」
「うん。一応前線メンバーの方に入れる予定やよ?あと………」

 人差し指を俺の鼻先に突きつけながら、ちょっとだけふくれっ面になりながら八神二佐は「ちょっと話し方が固すぎや。もう少し緩くなってもいいんやで?」と言った。相変わらずちょっとクセのある話し方だけど、こういう話し方の人は嫌いじゃなかった。

「それでも、やはり上司と部下ですから………」
「それでもや。うちらは上司と部下でありながら、この部隊の仲間で、家族みたいなもんや。あんまり固くなりすぎても、な?」

 なおも食い下がろうとする俺にそう指摘してから、ウインクをする八神二佐。そのちょっと強引だけど納得してしまう論を打ち立てられて………俺は負けた。

「分かりました。ではせめて、敬語で許してください。やっぱり、上司と部下って言う関係ですから」
「まぁ、まだちょうと固い気がするけど、おいおい慣れてな?私の呼び方は、八神部隊長か名前呼びのどちらかでええから。階級付きの呼び方は、公式の場以外却下な」
「えぇ、わかりました」

 その後、俺はそんな風に楽しそうに言う八神二佐………もとい八神部隊長に単独行動用のコールサイン『ストライク01』と言う名前を拝領。そして、彼女の付き添いで今フォワードメンバーが本訓練している訓練場に向けて歩き出した。
 歩いている途中で、いろんな事を話した。得意な戦法とか、射程距離とか、今までの経歴とか。話すことはあるけど、ここでは語らないようにしておく。

「新人フォワードの子達は、一昨日から合流してな。トーリ君で最後なんよ。やっぱり、引き継ぎとか大変だったんか?」
「えぇ、それなりに。でも、自分は下の方ですか、そこまで大変じゃありませんでしたよ」

 ふ〜ん、と納得するかのように頷く八神部隊長。確かに引き継ぎは大変じゃなかった。でも、それ以上に大変だったことがあったんだけど、それはおいおい話すとしよう。

 そんなことを話していると、不意に八神部隊長が「見えたで、あれや」と言ってまっすぐ先を指差す。その指差す先を目をこらしてよく見てみる。
 するとそこには、とても立派な陸戦用の廃ビルタイプの空間シミュレーターが形成されており、その上空とビル群を縫うように桃色の魔力弾、青い魔力の道、時折オレンジ色の魔力弾というように、とにかく魔力攻撃の応酬が繰り広げられているのが見て取れた。

「………確か、ここの教導官って、高町なのは一等空尉でしたよね?」
「そうやよ。管理局のエースオブエース、高町なのは一等空尉。私の幼なじみで、命のおんじ………いや、何でもない。とにかく、親友や」
「そうなん、ですか」

 俺は正直、気圧されていた。あの魔力弾の嵐の中を、生き残れるのだろうか、と。



 俺は八神部隊長に連れられて、訓練場の廃ビルの一つを登っていた。その理由は、この部隊の教導官、高町なのは一等空尉に挨拶するためだ。八神部隊長の予想だと、今は模擬戦形式の訓練の途中、とのことだった。
 そして、一番上まで行く、突き当たりにあった扉を部隊長が勢いよく開けた。ずっと薄暗い場所にいたせいで、急に入ってきた強烈な太陽の光に目が眩む。しかし、それを何とか我慢してから俺はまっすぐ正面を見る。
 そこに彼女は居た。白を基調としたバリアジャケットに身を包み、その右手には10年来の相棒であるというデバイス『レイジングハート・エクセリオン』が握られている。二つに括った栗色の髪が風になびき、その可憐さをいっそう引き立てていた。管理局のエースオブエース、高町なのは一等空尉だ。

「なのはちゃん、頑張っとるね」
「あ、はやてちゃん。お仕事は終わったの?」
「一応今もお仕事中や。それで、この子が」

 そう言いながら部隊長が不意に、少し下がってそのやりとりを見ていた俺の方を指差した。俺はその不意打ちに少々焦りながらしっかりと高町一等空尉の方を向く。

「本局航空隊第111部隊所属、氷雨トーリです。本日付けで、機動六課に出向となります。高町一等空尉、どうぞよろしくお願いします」
「はい、よろしくねトーリ君。あと、私のことは名前で呼んで欲しいかな?その方が私自身も楽だしね」
「そう、ですか。善処します」
「私はシャリオ=フィニーノ。みんなはシャーリーって呼んでます。この部隊のデバイスマイスターやってるから、デバイス関連のことで何かあったら遠慮無く声かけてね」
「はい、よろしくお願いします、シャーリーさん」


 ちょっとしどろもどろしながら答えた俺。あれか、この部隊はメンバーみんなの仲がいいのか?まぁ、その疑問はまた今度考えればいいか。
 その後、八神部隊長は部隊の副官であるグリフィスさんに呼ばれてこの場をあとにして、そんなことを考えながら、俺はなのは隊長と一緒に地上で行われている訓練を見る。八神部隊長の予想通り、今は最近見かけるようになった自動機械―――ガジェットドローンを相手にした模擬戦形式の訓練途中だった。

「新人のフォワードさん達、みんな凄いですね」
「ん〜?そう?それじゃ、どこが凄いか、言ってみて?」

 なのは隊長はそう言いながら俺を見る。こういう質問は今みたいなことを言えば来るとは思っていた。俺はもう一度全体を見ながら、彼女たちの良いところと悪いところを『あくまで個人の感想として』言っていく。

「やっぱりみんなまだまだ粗いですけどね。
フロントの青い髪の子はスピードもありますし破壊力もなかなか、しいて言うなら、突っ込みすぎるところが難点ですね。
ガードの赤い髪の子は、このメンバーの中で一番スピードがありますけど、やっぱり経験不足で上手く動けていない面が見受けられると思います。フルバックのピンク色の髪の子も同じくです。
センターのオレンジの髪の子は、指示は的確ですけど動きがあまり変わらないところがいけないと思います。状況によって戦況は変わりますから、対応が出来なくなると困ると思います。と、こんなところでしょうか?」

 俺が見た感想を一気に言っていくと、横でなのは隊長が目を点にしてこちらを見ていた。やばい、何か俺悪いこと言ったか? そうちょっとだけ不安になったのが分かったのか、なのは隊長は俺の方を見てからまたフォワードの子達の方を見る。

「トーリ君は悪いこと言ってないよ。むしろ、あの子達のことをこの短時間で凄くよく見てるなぁ、って思って、ちょっと驚いちゃっただけ」

 そう言いながらなのは隊長は微笑む。「褒めてるんだよ?」と隊長が付け足して、少し恥ずかしくなって目をそらす。それを聞きながら、俺はポケットに入っていたカードに手を伸ばしてそれを握りしめる。それを見て、なのはさんが横でなぜか頷いた。その時、ちょうど地上でブザーが鳴って、正面のモニターに『ミッションコンプリート』と記されていた。

「じゃぁ、下に降りよっか。みんなに挨拶しないとね」

 そう言ってなのは隊長は足早にビルから降りてゆっくりと降下していく。俺はそれを追うようにビルから跳んでゆっくりと降下していった。



「はい、みんなお疲れ様」

 地上に着くなり隊長は集合したフォワードの子達に向けてそう言った。俺はその後ろでなるべく静かに待機する。
 すると、すぐになのは隊長が俺の方を指差した。

「で、この子が昨日連絡したもう一人のフォワードの子」
「本局航空隊第111部隊所属、氷雨トーリです。今日から、よろしくお願いします」

 敬礼しながら挨拶。それを見たフォワードの子達も「よろしくお願いします!」と元気よく返答する。なんか、今の一瞬で人数差というものを改めて実感した気がする。
 その挨拶を確認したなのはさんは、俺にとってとんでもないことを言い出してしまった。

「それで、この後私とトーリ君で模擬戦するから、みんなはそれを上で見ててね?」
「え?」
「「「「はい!」」」」

 俺が驚いて変な声を出すのを尻目に、フォワードの子達は元気よく返事をする。
 ちょっと待ってください、これ、確実に俺に死亡フラグ来ましたよね?

「トーリ君、私結構全力で行くから、トーリ君も全力でよろしくね?」
「マジすかぁ〜?!」

 俺は何とか拒否しようとしたけど、会えなく断念。結局、俺はなのはさんと模擬戦をすることになってしまったのだった。
 俺、生き残れるかなぁ?

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