小説『魔法少女リリカルなのは〜ちょっと変わった魔導師達の物語〜』
作者:早乙女雄哉(小説家になろう版マイページ)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第02話:模擬戦。氷雨トーリVS高町なのは


 訓練場の上空。正面ではなのは隊長がレイジングハートを構えて俺と対峙している。武装隊員だったら、なのは隊長と戦える事なんて夢のようなことなんだろうけど俺にとっては凄い恐怖でしかない。
 はっきり言って、凄く怖いです。こんなに怖いのは、本気で親父に怒られた時以来だろう。

「じゃぁ、トーリ君。ジャケット展開、お願いね」
「………こうなりゃヤケクソだ。ガーンディーヴァ、セットアップ!」
(了解、マスター。セットアップ)

 相棒―――『ガーンディーヴァ』の一声から俺の体が灰色に光に包まれ、バリアジャケットに切り替わる。上下灰色の軍服に黒の袖付きマント、銀の籠手(手の甲まで守るもの)に膝から足首の少し上までを防護する具足、と言う出で立ちに切り替わり、俺の左手にくっつくような形で黒メインでカラーリングされた弓―――俺の相棒ガーンディーヴァが収まっている。
 俺は中のカートリッジを確認してからもう一度構え直す。体の調子も悪くはないし、全力で動けるだろう。それに、『アレ』を使えば隊長にも一太刀入れられるかも知れない。そんな淡い希望を持って、俺は隊長と対峙する。

「それじゃ、行くよ?」
「はい、お願いします」

 俺の声と同時に、さっきまで居た廃ビルから模擬戦開始のブザー音が鳴り響く。それと同時に隊長がレイジングハートをふるって十個の魔力弾を素早く形成、その全てを撃ち放ってくる。
 着弾したら一撃で落とされる。そう判断した俺は、いつも通り魔力弾を一点に集中。そこから移動しながら、放たれた魔力弾を上手いこと集めて―――

(今です)
「オーライ!」

 ガーンディーヴァの合図と共に、俺は弦を引いて魔力矢を放つ。放たれたのは近距離専用の散弾タイプの魔力矢。近距離まで魔力弾を引きつければ確実に相殺できるとは思っていたけど、ここまであっさり行くとは思っていなかった。これなら、何とか対応できる。そう思って、俺は再び矢をまっすぐなのは隊長に向けた。


Side Another

 空中で、桃色の魔力弾と灰色の魔力矢が縦横無尽に駆けめぐり、時に相殺しあって空間に煙をまき散らす。空中でなのはが足を止めて魔力弾を途切れることなくひたすらに撃ち続け、対するトーリは隙を見つけながらビルの屋上から屋上へと飛び移り魔力矢を放つ、と言う図式が出来上がりつつあった。
 一件端から見ればトーリが優勢のように見えるだろう。しかし、当の本人の額には玉のような汗が浮かび出ており、その表情は焦りに満ちている。対するなのははまだまだ余裕というような表情だ。

「くっそ、流石はエースオブエースですねっ!」

 皮肉めいたことを言いながらも、トーリは飛んできた魔力弾五個を撃ち落としてから、反撃とばかりに魔力矢を三発撃ち返す。しかし、それはなのはの張った障壁によって簡単に防がれてしまう。
 しかし、表情では余裕を見せているなのはだが、内心で彼に対して評価を取りながら戦っていた。それほど、彼の戦い方が正確そのものだったのだ。

(うん、確かにこの子は優秀だ。はやてちゃんが見込んだだけはある。射撃魔法の正確性も高いし、集中力が段違いに高い。終始飛んでいないのは魔力が少ないから、って事で納得は出来るし、あれだけの身体能力があれば今のフォワードの子達なら良い相手になる。それじゃ………)

 なのはがそこまで考えてから、次のステップに移行するために一度魔力弾の全方位射出を停止する。これをチャンスと見たトーリは、飛び乗ったビルで足を止め、ガーンディーヴァをしっかりと固定。一気に魔力を集束して、狙いをなのはに向ける。そして………

「一射必中!」
(フォトンアロー!!)

 二人、正確には一人と一気の声が重なり、足を止めたなのはに向かって灰色の直射砲撃が飛ぶ。着弾確実、そう思ったトーリだったが、なのはは彼の想像を180°ひっくり返すような行動を取って見せた。

「ディバイィィン、バスターーーッッ!!」

 瞬時にレイジングハートをアクセルモードからバスターモードに切り替え、お得意の砲撃魔法『ディバインバスター』を放つ。そして、一瞬だけトーリの『フォトンアロー』と拮抗してから、トーリの砲撃を完全に打ち消した。

「なぁ、何つう規格外パワー………」
(感心している場合ではありません。防御を)
「防御できるほど俺の障壁は固くないってーの!!」
(ならば回避運動を)

 ガーンディーヴァの声を聞きつつ、トーリは愚痴りながらも一度回避運動を取る。しかし、彼女の砲撃は着弾せずともその衝撃は凄まじく、衝撃波でトーリは吹き飛ばされてしまう。体勢を崩した目標をみすみす見逃すほど、なのはは甘くなかった。

「もう一発!」

 彼女の威勢の良い声と共に、もう一発追加とばかりに桜色の砲撃が放たれる。完全に回避は不可能。これは直撃する、そう思ったなのはだったが………。

「ガーンディーヴァ、エマージェンシーフォルム!」
(オーライ。衝撃吸収魔法展開)

トーリがそう叫び、彼の握っていた弓形のガーンディーヴァが消え、変わりに両手に灰色のグローブが装着される。そして、次の瞬間トーリは誰も思いも寄らなかった行動に出た。

「だぁぁぁっ!!」
「え、ウソッ!?」

 トーリは、なのはのはなった砲撃を『左手一本で』受け止めた。しかし、その衝撃は驚異的なもので、左腕がミシミシと悲鳴を上げる。しかし、彼はなんとその衝撃を見事に受けきって彼女の放った砲撃を『灰色と桃色のマーブル模様の魔力球』へと変化させた。

「あんな防御の仕方、あり?」
(今まで見たことはありませんが、やろうとする人がいなかっただけでは?)

 彼女の驚きの声に、レイジングハートはあくまで冷静に受け答えする。しかし、それで驚いたり狼狽えたりしては、エースオブエースの名が廃る。なのははいつでも反撃が出来るようにレイジングハートを構え、トーリの一挙手一投足を観察する。
 トーリは受け止めた彼女の砲撃だった魔力球を、左手から右手に軽く宙に放って右手に移動させると、一気になのはと同じ高度に上昇。ほぼ正面に対峙する。

「真っ向勝負?それなら、受けて立つよ?」
「じゃぁ、自分も十八番で行きます!」

 互いにそう言いながら、なのははバスターモードのレイジングハートをまっすぐトーリに向けて構え、魔力をチャージする。それを確認したトーリは、この模擬戦を見ている人を含めたここにいる全員が考えつかないような行動を取って見せた。

「………え!?」

 なのはが驚きの声を上げるのもやむないだろう。何せトーリは、真っ正面にいるなのはに対して、魔力球を右手に持ったまま『大きく振りかぶった』のだから。僅かに右手が輝いているのは、魔力を更に集中している証拠。しかし、彼の場合は『集中』よりも『凝縮』の方が正しいだろう。受け止めた彼女の魔力に自分の魔力を加え、更に密度を増していく。 しかし、その行動に怯むような彼女ではない。彼の行動を見て、どこか面白い、と言ったような表情を見せてから、彼女は彼に向けて叫ぶ。

「ディバイィィィン、バスターーーッッッ!!」

 臨界点を突破して放たれる彼女の砲撃。しかし、それが正面に来ていると分かっていても、トーリは落ち着いていた。
 彼はおおきく振りかぶった状態から、一度合わせたその手を胸のあたりまでゆっくり降ろしてから………セットポジションに入る以上に『体を捻った』。

「ガーンディーヴァ、速度加速!」
(了解。ジャイロシューター、スタンバイコンプリート)
「おっしゃ!いっけぇぇぇ!!」

 ガーンディーヴァの声を聞いて、トーリの表情がちょっとだけ緩む。そして、その捻った体を思いっきり元に戻し、その勢いを利用して大きく踏み込む。そして、右手の右手の魔力球をなのはの放った砲撃に向けて思いっきり投げた。
 そして砲撃と魔力球が拮抗する。それは通常なら砲撃の方がすぐに魔力球を飲み込むという予想を立てるだろう。しかし、その予想は悉く覆されてしまった。
 なんと魔力球の方が僅かに押し始めていた。まさかな展開に驚くなのはだが、驚いたのは一瞬だけ。むしろそのあとは魔力を少しだけ多く流して一気に魔力球を飲み込んだ。
 そして、トーリはそれを防御する術もなく、砲撃に飲み込まれていった。



Side トーリ

 ふと目を覚ますと、最初に視界に入ってきたのは真っ白な天井だった。ゆっくりと体を起こそうとすると、あちこちがズキズキと痛んだ。
 ゆっくりと記憶を遡っていくと………あぁ、そう言えばなのは隊長と模擬戦して、俺の全力の『ジャイロシューター』がはじかれて、そのまま隊長の砲撃に飲み込まれていったんだっけか。全く、我ながらしょうもない負け方だぜ。

(それにしては、結構全力でしたよね、マスター?)
「これガーンディーヴァ。そう言う痛いところ突くんじゃない」
(これは失礼しました)

 そんな調子の乗ったことを良いながらケラケラと笑う俺の相棒。これ、確実に中のAIの設定間違えたんじゃないか担当者。今度開発局を訪ねてAIだけ変更させてもらおう。

(マスターそれだけはやめて下さいまし)
「何でそんな変な喋り方なんだよ」
(可笑しいでしょうか?レイカ様にはこう言えと言われたのですが?)
「あの馬鹿母ぁ………」

 こいつ(ガーンディーヴァ)の開発担当である俺の母親に聞こえないだろう文句を言いながら、俺はベッドから降りて傍のラックにかけてあった制服の上を羽織って病室を出る。その瞬間だった。

「きゃっ」
「あっ、とすみません」

 急に病室の扉が開いたから、驚いてしまったのだろう。白衣を着た女性が、俺とぶつかりそうになっていたが、俺はその一歩手前で立ち止まり、尻餅をつきかけている彼女の手を取って起こす。
 確か彼女はこの部隊の主任医師で八神部隊長固有の戦力『ヴォルケンリッター』の一人、シャマルさん。この部隊では『先生』の愛称で知られる名医、らしい。

「大丈夫ですか、シャマル先生?」
「うん、大丈夫よ。ありがとうトーリ君」

 それより、体は大丈夫?と先生は聞いてきた。たぶん、先ほどの医務室で処置をしてくれたのは、やっぱり彼女なのだろう。だからこそ、今の俺の状態を心肺しているのだろう。
 とりあえず俺は「大丈夫ですよ」と答えておく。すると先生は「よかった。何かあったら一声かけてね」と言ってくれた。うん、やっぱりこの部隊には優しい人が多いなぁ。
 俺はそのまま医務室をあとにして、その先の廊下を歩く。すると、不意に後ろから声をかけられた。

「おい、氷雨」
「はい?」

 かなり高圧的な声に、俺はビビリながらも振り向く。そこには、ある意味俺の憧れの魔導師、いや、ベルカの騎士である彼女がそこにいた。
 シグナム二尉。シャマル先生と同じく八神部隊長の固有戦力である『ヴォルケンリッター』の将で、『烈火の将』の名を持つ騎士。愛剣『レヴァンティン』と共に戦場を駆け抜けた、歴戦の騎士だ。
 そんな大物に出会ってしまった俺は、かなり固くなりながら振り返る。

「何でしょうか、シグナム二尉」
「む、私の名前を知っているのか?」
「それはもちろん。管理局最強の騎士、その名前を知らない者は居ませんよ」
「ふ、褒めても何も出ないぞ?」

 そんな冗談を言いながら俺にほほえみかけるシグナム二尉。何だろう、ここだとあの彼女のイメージが崩れるような気が………。気のせいだと言うことにしておこう。
 そのあと、俺は彼女について行くようにして歩く。シグナム二尉は俺のことを迎えに来たようだった。どうやら、前線メンバーの俺を含めた顔合わせを行っておきたいから、らしい。
 あと、やっぱり彼女にも階級付きで呼ぶのを拒まれた。理由は、『堅苦しい』との、もう一つは八神部隊長と同じ理由だった。何とか妥協し、ライトニング分隊の副隊長と言うことなので『シグナム副隊長』で許してくれた。

「それより氷雨」
「なんでしょう?」
「顔合わせが終わったら、私と模擬戦しよう」
「・・・はい?」

 そんな突拍子もないことを言い出すシグナム副隊長。あの、俺さっきまで病室にいたんですけど?それ分かって言ってますか?

「もちろんだ。それを承知で言っている。どうだろうか?」

 俺はちょっと考えてから、すぐに了承した。もちろん、この顔合わせが終わって、明日からなら、って言う条件を付けてもらった。すると彼女は、渋々ながらその条件をのんでくれた。もしも今日からだったら、たぶん明日には俺はボロ雑巾みたいになっていただろう、割と本気で。
 そのあとは、彼女と共に顔合わせの場所、ブリーフィングルームへと向かう。その間の会話と言えば、やっぱり今まで戦った相手のこととが、自分の戦闘スタイルについての考察とか、バトルに関するものばっかだった。やっぱり、噂通りシグナム副隊長は戦闘狂(バトルマニア)でした、姉さん。



 その後、ブリーフィングルームについた俺は、前線メンバーとの再びの挨拶を交わしていた。

「えっと。さっきも言ったけど、本局航空隊第111部隊所属から出向してきた氷雨トーリです。コールサインは単独行動用の『ストライク01』。今日から一年間、みんなと一緒に仕事をしていくことになるけど、まぁ、固いこと無しによろしく」

 俺はとにかく手短に挨拶を済ませる。こう言うときに長い挨拶をするやつほど嫌われている、と言う方程式が成り立つからな。
 その挨拶を済ませると、不意に一人の少女が手を挙げた。オレンジツインテールの子は、俺の方をキッときつい視線で睨んでからなのは隊長の方を見た。

「単独行動用、って、どういう事ですか?」

 そう聞いた彼女に対し、なのは隊長は「そのままの意味だよ。主に前線メンバーのサポート役、何かあったときに単独行動権を持っているの」と答える。その答えを聞いて、何となく納得したような表情をするも、俺の方を見ると異様に不服感アリアリな表情で見てくる。なんか、苦手だ、こういうやつ。

「じゃぁ、紹介していくね。スターズ分隊の、スバルとティアナ。スバルがフロントで、ティアナがセンターね」

「スターズ分隊、スバル=ナカジマ二等陸士です。よろしくね!」
「同じく、ティアナ=ランスター二等陸士よ。よろしく」

 さっき睨みをきかせてきたオレンジツインテール―――ティアナと青髪短髪―――スバル。とりあえず名前呼びはあっちも抵抗ありそうだから、苗字で呼ぶことにしよう。

「で、こっちがライトニング分隊のフォワード、キャロとエリオ」
「ライトニング分隊、エリオ=モンディアル三等陸士であります」
「同じく、キャロ=ル=ルシエであります。こっちは、飛龍のフリードリヒ」
「キュクル〜」

 そう言ってピンク髪の子と赤髪の子を紹介したのは、本局随一を誇る敏腕執務官であるフェイト=テスタロッサ=ハラオウン執務官。彼女が紹介して二人―――キャロ=ル=ルシエとエリオ=モンディアルは、ハラオウン執務官の保護児童で親代わりだそうだ。キャロはフルバックの龍召喚士として、エリオは高速型のガードとして、将来の有望株だそうだ。

「で、あたしがスターズの副隊長のヴィータだ。まぁ、111のやつならあたしのことくらい知ってるとは思うけどな」
「えぇ。その節はお世話になりました」

 そう言うヴィータ副隊長。実は、俺が前居た部隊―――111で、ヴィータ副隊長が一週間だけ教導のために派遣できたことがあって、その時にちょっとだけ知り合った。その時に話はまた今度語るとしよう。

 一通りの挨拶がすんだあと、俺は嬉々とした表情で向かってくるシグナム副隊長に連れられ、訓練場に向かった。さっきの模擬戦の約束だ。明日やるって言う約束は、と彼女に聞くけど、彼女は「そんなものレヴァンティンのサビになった」とか言い放った。んな無茶苦茶な。
 結果?そんな無意味なこと聞くなよな、もちろん惨敗したよ。
 そのあと、「近接戦闘なら私が直々に鍛えてやるからな!」と凄くスッキリした表情でそんなことを言い残し、訓練場を去っていった。なんか、この部隊で確実に死亡フラグが立った気がするのは、俺の気のせいだと信じたい。

【改ページ】

 ちょうどその頃

「やっと見つけた」

 真っ暗な空間に、そんな声が響き渡った。彼の正面には、一つのモニターが映し出されている。そのモニターには当たり前のように、一人の少年の姿と一人の少女の姿が写し出されていた。
 そのモニタに映る二人を見ながら、彼は妖艶な笑みを浮かべる。しかし、その笑みは直ぐに消え、彼は自身の胸に手を当てた。

「あぁ、わかってるさ黙示録。アイツを殺せば、全て終わらせてくれるのだろう?」

 彼のその質問に、胸がわずかに紫色に光り、彼の言葉に呼応するように答える。それが答え。彼にしか聞こえない言葉で放たれた答えを聞き、彼はその表情を厳しいものとする。

「ふっ、まぁ良いさ。貴様は俺に、やつが殺せないと思っているようだがな」


 彼がそういうと、再び胸の辺りが怪しく輝く。その輝きに、再び薄笑いを浮かべてから、彼はゆっくりと歩きだし、ある一点で止まると、そこで巨大な翼を広げた。

「俺に出来ないこと。いや、俺とお前が揃って、出来ないことなぞ、何もない。あの時の襲撃だって、完璧だったのだからな」

 彼を中心に、そこからいっきに魔力が溢れ出る。歯止めを知らないかのように、暴走しているかのようにも見える膨大な量の魔力によって、彼の翼は彩られていく。
 その色は―――虹色。

「確実に、殺して見せる。『虹の邪剣士』、御剣ヒスイの名において」

 大きく叫んだ彼は、その空間から一瞬で消え去った。

-3-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




魔法少女リリカルなのは StrikerS 高町なのは バニーVer. (1/4スケール PVC製塗装済み完成品)
新品 \11175
中古 \9080
(参考価格:\17800)