小説『魔法少女リリカルなのは〜ちょっと変わった魔導師達の物語〜』
作者:早乙女雄哉(小説家になろう版マイページ)

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第03話:正しい評価


 彼―――氷雨トーリが機動六課に合流してから、早くも一週間が経とうとしていたこの日。今日は午前の練習をやったあとは自由待機(オフシフト)らしく、一応それぞれが各々自由に過ごしている時間でもある。トーリ以外の新人フォワード、スターズもライトニングは、書類仕事がだいぶあるらしく、総出でオフィスルームにかっ飛んでいった。忙しそうにしている証拠である。
 ちなみに、その辺りトーリは優秀だ。その日やらなきゃいけない書類仕事を朝起きてからすぐに全て済ませてしまうため、基本的にこういう自由待機に時間は驚異的に暇になる。
 しかし、彼は自由待機だからと言ってダラダラするわけでもなく、今日は別に自主練に励もうとは思わない。いつもなら自主練に行こうと行動を起こすのだが、如何せんまだ自主練用の機材一式が全く揃っていない。最近は自由待機の時間はずっと食堂に籠もりっぱなしである。ちなみに、食堂で何をやっているかというと………

「………むぅ?」

 今の彼の現状を説明しよう。テーブルの上に置いてあるのは彼の固有通信端末。その画面に映し出されているのは、大量の文字列と一つの設計図。それは流線型を取っており、何かの武器のようにも思われるものだった。
 それを見ながら、トーリは文字をタイプしていく。その速度はかなりのもので、事務専門の仕事をしているメンバーにも負けず劣らず、と言ったところである。しかし、少し打ってから文字列を消し、また打って消す、と言った無限ループの状態に陥っていた。

「トーリ君」
「あ、なのは隊長、フェイト執務官。こんにちは」
「うん、こんにちは。トーリ君もお昼?」

 そう言うフェイトに対して、トーリはちょっと不思議そうな表情を浮かべてから自分の腕時計に視線を落とす。今の時刻は二時半過ぎ。彼がここに入ったのが午前の訓練が終わってからシャワーを浴びたあとすぐ………つまり十二時半過ぎだった為、二時間はここに詰めていたと言うことになる。

「いえ、昼食はまだ食べてないです。ここで二時間、ずっとこれ弄ってましたから」

 そう言いながら通信端末を指差すトーリ。するとなのはが、「一緒にお昼食べない?」と誘ってきた。上司のお誘いをむげにするわけにも行かないため、トーリはちょっと恥ずかしそうな表情をしてから「では、ご一緒させていただきます」と返答し、彼女たちを一緒に昼食を頼みに行った。



 二人を上座に、トーリが下座に座り、それぞれが食事に入る。しかし、トーリの食事を見て、フェイトはその量の少なさを不思議に思いながら彼に問いかけた。

「ねぇ、トーリ君。その量で大丈夫なの?」
「………?えぇ、まぁ。自分、かなりの小食でして」

 情けないような声を出すトーリ。彼の目の前に置いてある食事と言えば、シーザーサラダに野菜ジュース、クロワッサンというかなりの小食。フォワードメンバーに入っているから、もう少し量は多いと思っていたようで、その少なさに彼女たちは疑問した。
 しかし、その問いにトーリはいたって普通の表情で答えた。

「自分、元々胃が人より少し小さめで、これだけ食べれば充分なんですよ」
「でも、スバル達と同じトップだよね?フォワード、特に前衛の子達って、結構食べる方だったと思うけど」
「まぁ、ナカジマさんは食事量が異常なんで置いておくとして、エリオと同程度食べようものなら、次の日は動けなくなりますね」
「それは、困るね」

 フェイトの追及から逃れるような答え方をすると、次にはなのはが苦笑を浮かべた。今日まで何回かフォワードの子達と食事を取っているなのはにとって、最初に見たスバルの食事量は『規格外』と取っていたのだろう。今までに教導で見てきた部隊でも、前衛はかなり食べる方、と言う先入観が出来ており、それ故トーリの食事量の少なさが疑問に思ってしまったというところだ。

「まぁ、ナカジマさんはあれだけ食べて全く体型が変わらないのが不思議ですけどね。まさに東洋の神秘ですね」
「「ははは………はぁ」」

 トーリの言葉に、なのは達二人は乾いた笑いを揚げる。それに全く気がつかないトーリであった。



 その後三人で談笑していると、そういえば、と何かを思い出したかのようにフェイトが声を上げてトーリの方を見る。

「トーリ君、さっき何か唸ってたよね?」
「え、あぁ、はい、まぁ」

 トーリはフェイトの方を見ながら、再び自分が座るイスの下に置いてある通信端末を取り出す。その通信端末を見て、なのはは何か思い出したような表情をしてからトーリに言った。

「それ、ノートパソコン?」
「あ、そう言えば高ま………なのは隊長の出身は、地球でしたね。それならこれを知っていますよね」
「うん、知ってるけど、何でそれ使ってるの?」

 そう、トーリが持っていたのは地球製のノートパソコン。それも、地球では近年出来たタッチパネル付きの新型である。
 しかし、それを見てフェイトはなのはと同じように疑問した。管理局の通信端末の方が、地球のものよりも性能は数段上。それを分かっていて、彼がこのノートパソコンを使っている理由が、彼女もなのは同様分からなかった。

「何でって………単に使いやすいからですよ」
「でも、管理局の通信端末の方が高性能なやつあるよね?」
「そうなんですけど、自分的にイマイチ使いにくくて」

 その言葉を聞いて、なのははなるほど、と何となく納得した。確かに管理局の通信端末は地球のものよりも高性能なものが多い。しかし、高性能だが時たまピーキーな性能なものもあるため、局の端末ではなく、自前の端末を使う局員も今までにも何人か見てきて、そう言う人達も少なくなかった。トーリは、そう言う人の一人なのだろう。

「でも、何で地球製のやつなの?」
「あぁ、それは、曾祖父が地球出身なんですよ」
「ひいお祖父ちゃんが。へぇ〜」

 驚くような声を上げるなのは。その声を聞き流しながら、彼は端末の電源を入れて再びタイプを開始する。その彼を見て、フェイトがその画面をのぞき込んだ。

「これ、デバイス?」
「デバイス、って言うか、両親の会社の新商品です。まぁ、魔導師専用の魔法戦支援武装ですね」
「会社って?」
「アレ、言ってませんでしたっけ。自分の両親、パラディメントの社長と秘書なんです」
「「嘘ッ!?」」

 まさかのトーリの告白に、信じられないといった表情を浮かべる二人。それほど、彼の言ったことが驚けることだったのだ。
 『パラディメント』。それは第一世界ミッドチルダ、第三世界ヴァイゼン、第五世界ライバーンの三世界に支部を置く、今一番注目されている魔導端末メーカー『カレドヴルフ』に次ぐ注目度を持つ魔導端末メーカーだ。その独創的な機構と性能には、多くの人物が賞賛を送っている、と言う情報をきく。

「凄いね。両親が社長さんと秘書さんなんだ」
「えぇ、二人ともそう言う地位にいながら管理局員。父が提督、母がその副官。姉と妹が二人とも同じエリート部隊で魔力量もランクも階級も自分より上。二人とも優秀で、俺だけが凡人なんですよね」

 なんか、それが虚しくて笑えるんですよ、と乾いた笑みを浮かべながら言う彼の表情は、何となく曇り空。その表情を見て、なのはとフェイトは、彼の言った言葉に驚きながらも彼の今の表情で何となくその意味を察した。
 確かな実力と力を持つ家族の中で、一人だけ平凡な能力の自分。これほど嫌なことはないだろう。つまり、それが彼のコンプレックスになっているのだ。でも、それを知っていても、彼はそのことを『仕方ないこと』として受け入れてしまっているのだ。
 でも、とトーリは少し間を空けてから続ける。

「さすがに凡人のままって言うのは嫌なんですよね。だから、無茶してでも強くなりたい、早く父や母、姉や妹に追いつきたい、って言うか、今まで守られる側だったんで、守る側につきたい、そんな願望があるんですよ」

 そのことをきいて、なのはは納得した。この一週間の訓練全てを通して、彼の一生懸命さと、少し無茶っぽい行動など、今の彼の言葉で全てつじつまがついた。
 家族に追いつくため、家族を守るために、早く強くなりたい。そんな願望を持って、今まで訓練に打ち込んできた。そんな気が込められていた。

「そっか。それじゃ、いっそう頑張らないとね」
「えぇ、頑張りますよ」
「それと、無茶はダメだよ」
「無茶しないように頑張ります。お二人とも、ありがとうございます」

 なのはとフェイトの波状攻撃を受けて、そうお礼を返すトーリの表情は、先ほどよりも格段に明るくなっていた。その笑顔を見て、不覚にもフェイトとなのははなぜがドキッとしてしまった。

(へぇ、トーリ君って、こういう表情も出来るんだ。なんか、可愛いかも)
(なんか、久々にこういう事言われたかな?エリオ達にはしょっちゅう言われてるのに、なんかトーリ君から言われると感じが違うなぁ)

 そんな不思議な感覚にとらわれながら、二人はトーリが真剣な表情で見つめている画面の上を見る。その画面上では、先ほどと全く変わらない速度で文字列が右往左往している。その速度は、ロングアーチのメンバーの速度をも上回っているかも知れない速度だった。

「これ、魔導師専用の魔法戦支援武装なんだよね?」
「えぇ。開発主任は母なんですけど、設計とかは自分がやらされています」

 そう言いながらため息をつくトーリ。その言葉を聞きながら、フェイトは彼がデスクワークや訓練後の夜中、一人オフィスルームに残って何かやっていたのを思い出した。それが、これの設計だったんだ、と納得した。
 そのあと、トーリは今設計しているものの中に六課の隊長陣全員に新武装を提供するかも知れない、と言ったようなことを言ったりして二人を驚かせていたのは、また別の話。



 そのあと、訓練もなくそのまま自室に籠もろうとしていたトーリ。ちょっと歩く度にあくびがこぼれるのは、最近寝不足だからだろう。なのはの訓練に加えて、昼にもやっていた新武装の設計に夜を費やしているため、かなりの寝不足なのである。

「ふわぁぁ、さすがに四時間睡眠は厳しいな」

 そんなことを言いながら大きくのびをするトーリは、とりあえず仮眠を取るためにそのまま自室を目指すことにした。
 ゆっくりと自室を目指して、次の曲がり角を曲がってあと十メートルで自室のドアノブに手がかかる、と言うときの瞬間―――

「―――がっ!?」

 彼を、突然の頭痛が襲った。本当に予期していなかった激痛が、彼の頭から一気に体を駆けめぐる。その激痛で、彼は近くにあった壁に勢いよく寄りかかる。もうなりふり構っていられないというか、そう思えるくらいの痛みだった。

(マスター!?)
「ガーンディーヴァ、俺は大丈夫だから、シャマル先生を」
(もうとっくに呼びました………って、マスター!マスター!?)

 ガーンディーヴァがマスターに声をかける頃には、トーリの意識は既に彼方へと飛び去っていた。



Side トーリ

 ふと目をさますと、そこは真っ白い空間だった。病室でもなく、自分の部屋でもない。全ての空間、上も、下も、右も、左も、視界内のどこもかしこも『白』という一色で染められた、まさに何もない空間。そんな中に、俺は居た。

「ここは………」

 どこだ、と言う前に、俺の頭の中に何かが走った。俺は、この空間を知っている。そのたった一つの確信的な情報が、俺の脳内を駆けめぐった。

―――来ましたね

 ふとそんな声がした。聞き覚えはないはずなのに、なぜか知っている。その声の主を見たことはないのに何故か知っている声が、その空間一杯に響き渡った。

「誰だ!」

 俺は周りを見渡す。しかし、周りにはもちろん誰もいない。あるのは、ただ白い空間だけ。

―――あなたに、まだ私は見えません。声が聞こえるのは、私とあなたが細い糸で繋がっているからこそなのですよ、氷雨トーリ。
「だから答えろ!お前は誰だ!何故俺の名前を知っている!」

 俺は一気に問い詰める。しかし、その声はその問いに答えなかった。むしろ、その問いに『まだ答えたくない』というような感覚まで感じさせるほどだ。

―――氷雨トーリ。あなたに忠告しておきます。あなたは、近い未来ある人物に命を狙われるでしょう。
「はぁ!?ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ?」
―――ふざけてなどはいません………。

 そう言ってから、少しの間声が途切れた。まるで、何かを感じ取っているように、何か危険なものを感知したように静まりかえった。

―――どうやら、もう時間のようです。またお会いしましょう。
「待て、お前は誰だ!?名前くらい聞かせろ!」
―――私の名前は………

 キア。そう言い残して、その声の主はその空間から消え去った。何故分かるのかは知らないが、何となく感覚で感じ取ったのだ。
 そして、どうしようかと考えていた瞬間………

「………?うわッ!」

 俺は再び真っ白い光に包まれて、その空間での意識を手放した。
 なんか、俺凄い災難な事になってませんか?



 その後目を覚ますと、今度は見覚えのある白い天井―――機動六課の医務室の天井が目に飛び込んできた。首だけを動かして時間を確認。今は三時か。食堂を出たのが二時四十分くらいだから、二十分気を失っていたのか。失神初体験。予想以上に怖いな。
 そして、俺は体を起こそうとする。しかし、何故体が動かなかった。そして、何かお腹のあたりに乗っかっている感覚があった。
 俺は首だけを動かしてそのあたりを見ると、そこにはランスターさんがうたた寝をしながらイスに座っていた。膝の上には本が乗っかっていて、どうやら本を読んでいる途中で寝てしまったのだろう、と言う構図が浮かび上がった。ちなみに何でお腹のあたりが重かったかって言うと、彼女の手がそこに乗っかっていたからだ。

「………看病してくれたの、か?」

 彼女を起こさないように小さく呟く。俺はゆっくり上半身を起こして彼女の手を退けると、そのまま医務室にあるソファまで抱きかかえて(お姫様抱っこってやつで)移動させる。とりあえず、風邪を引かないように使ってなかったタオルケットを掛けておいた。これで大丈夫だろう。
 そんなことをしてから俺は一応シャマル先生が来るのを待った。処置してくれたのはたぶん彼女だし、一応話を聞いておきたかったからだ。

「ん〜〜、んんぅ?」
「お?」

 医務室のベッドで上半身だけ起こして外を眺めていると、不意にランスターさんが変な声を上げて目を覚ました。タオルケットを剥いで大きくのびをしてから体をほぐすと、不意に目があった。

「………」
「………体、大丈夫?」

 無言からのちょっときつめの口調でそんな事言ってきた。心配してくれているんだろうけど、なぜだか、彼女はこの一週間俺にずっとこんな態度で話してきていて、はっきし言ってかなり怖い。
 でも、それじゃ何かあったときに困る。訓練とか実戦とか書類仕事とか、その他色々なことで何かあったときに、こんな状態じゃ困るからな。
 だからここは、ちゃんとした態度で答えてあげようか。

「うん、特に異常は無いっぽい。もしかして、ここまで運んでくれた?」
「そうだけど、何で分かったの?」

 そう言いながら、俺は彼女の額の当たりを指差す。その行動にハテナを浮かべる彼女に、一応の補足説明をしておく。

「額の汗。大の大人、って言うか、同年代の男子を運ぶと、さすがの災害担当でも汗くらいかくでしょ?それでさ」
「………よく見てるのね」
「そりゃ、一応ポジション的にはセンターだし」
「………」

 そう言うと、また彼女は俺のことをキッと睨む。凄い怖いから勘弁して欲しいんだけど、とにかく何でそう言う態度なのか聞かなきゃ話にならないよな。
 俺はキレられることを覚悟して、とにかく聞いてみた。

「なぁ、何で俺のこと睨むんだ?」
「………」
「………はい?」

 何かぶつぶつ言っているけど、イマイチ聞き取れなかった。野暮ったいかも知れないけど、ここは根負けしたらいけないときだと思う。だから、もう少し粘ったみた。

「単純に、アンタみたいな才能あるやつが羨ましいだけよ。この部隊で、凡人って私だけでしょ?」

 すると、案の定すぐに答えをくれた。なるほど、だからあのとき『単独行動用』の言葉に反応した訳か。
 俺が何か言おうとしたとき、それを遮るかのようにランスターさんが話しはじめた。別に邪魔する気はないから、とにかく話を聞いてみる。

「私はね、ちょっと幻術が使えるくらいのどこにでもいる射撃型。特に才能もないし、ずば抜けて良い点もない。それに比べて、他の人達は………」
「はい、ストップ」
「え?」

 もう我慢ならなくなって、俺は無意識かで彼女の話を止めてしまった。もう分かっている。ランスターさんは、自分のことを過小評価しているんだ。この一週間で、自分より他のフォワードの子達の方が上なんだ、って思いこんでしまっているんだ。
 そういう風に思うのは悪くない。でも、度を過ぎてしまえば俺みたいになる。そうなるのは俺だけで十分だ。だから、俺は彼女を諭す。

「ランスターさんはさ、幻術使えるじゃん。それに、たぶんフォワードの中で一番視野が広い。これって、才能って言うか、ずば抜けて良い点じゃない?」
「それは、訓練すれば出来ることだし」
「むぅ、まだ言うか。大丈夫、自信持てって。ランスターさんなら大丈夫だって」

 そう言うと、彼女は目を見開いて驚いた表情をしてから、不意に笑い出した。
 え、え?何か俺、変なこと言ったか?

「ふふっ。ホント、アンタって面白いのね」
「面白いってなぁ」
「まぁ、それは良いわ。それより、ありがと」
「はい?」
「自信、持ててないだけだったのね、私。だから、自信持たせてくれてありがとう、って事」

 そう言って目を伏せてからまた顔を上げる。するとそこには、満面の笑みを浮かべた彼女の姿があった。その表情を見て、俺はちょっと恥ずかしくなって顔を彼女からそらしながら言う。

「え〜っとさ。まぁ、自身持てたなら良いんだけどな。ランスターさんは………」
「ティアナで良いわよ」
「へ?」

 自分を過小評価しすぎなんだよ、って言ってってあげようとしたら、不意に謎なことを言ってきた。何だ、これ、どっかで体験してことあるような………デジャヴってやつか?

「ランスターさん、って、他人行儀過ぎない?普通に名前で良いわ。スバルにもそうしてあげて」
「え〜、あ〜、んじゃぁ、善処するよ、らん………ティアナ」
「うん、よろしくね、トーリ」

 また名前呼びしなくちゃいけないやつが増えちまった。何だろう、この部隊、非常に調子が狂う。
 でも、こんな部隊も良いかな。そう心の底で思っている俺であった。

【改ページ】

「うぁぁぁぁぁッッ!!」

 ミッドのとある山中。その木々が生い茂った森の中で、一人の管理局員の絶叫が響き渡った。彼の目の前には、既に息絶えた同僚達が、彼等が作り出した血の海の中に沈んでいた。

「ふん。管理局のエリート部隊とはいえ、実力はこの程度ですか。まったく、ヒスイも面倒な任務を押し付けるものです」

 そう言ったのは、彼の目の前にいる青年。風にゆったりとなびくサラサラな黒髪のロングヘアー。虚空を見つめるその瞳は、まさに闇のように真っ黒な漆黒。そんな青年が両手に持っているのは、青と緑の小振りな双剣。切っ先をしたに向けたその刃には、重力に逆らうことなく血がポタポタと垂れていた。

「う、うぁぁぁぁっっ!!」

 自分達の仲間が殺されて気がふれてしまったのか、生き残った局員は逃げようとせずにその場で応戦しようとしてデバイスを構え、魔力を収束する。
 それを一瞥した青年は、「全く、無駄なことを」と呟きながら、局員と対峙し、正面を向き合う。 逃げる気は無し、好都合だ。そう判断した局員は、その場でグッと腰に力をため、更に魔力を収束し―――

「あぁぁぁぁぁっっ!!」

 咆哮とともに砲撃を発射する。それは直撃コースだ。当たれば落ちる。そう確信した、瞬間だった。

「アーリエル・ヴェルデ」
(イエス。ユア、マジェスティ)

 それは一瞬だった。直撃コースのはずだった彼の放った砲撃が、青年の正面に行った瞬間『有り得ない角度で逸れた』。まるで、そこには当たりたくないと、砲撃が自ら意志を持っているかのように、青年を逃げたのだ。
 全身全霊で放った砲撃が外れ、その場に立ちすくむ彼。そんな彼を、青年は冷めた表情で上から見下ろしていた。

「愚かでしたね、貴方。僕、『イリス=ラステル』と神霊デバイスである『アーリエル・ヴェルデ』に単身挑もうという勇気は買ってあげます。しかし………」

 青年―――イリスがそう言うと、両手に持っていた双剣を空中に手放す。すると、双剣はその場で重力に逆らうかのように浮遊していた。

「いくら圧倒的数量による人海戦術で来ようとも、貴方達は『風』には敵わない。行きなさい、アーリエル」
(イエス)

 彼の短い言葉が終わると、その空間に膨大な力を持った風が押し寄せ、すべてを薙ぎ払っていく。
 数秒後、風がやんだ後には、既にそこには肉塊となった管理局員の死体すら、細切れになって見えなくなっていた。唯一最後に残った局員の右腕だけが、彼の血溜まりに沈んでいた。

「これで終わりですね。上層部直属部隊の殲滅、完了。戻りましょうか、アーリエル」
(はい、イリス卿)

 先程とはまるで違う声で話し合う二人は、一迅の風が吹くと同時に姿を消していった。

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