小説『魔法少女リリカルなのは〜ちょっと変わった魔導師達の物語〜』
作者:早乙女雄哉(小説家になろう版マイページ)

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第05話:ファースト・アラート


Side トーリ

「はい、集合〜」

 毎度おなじみ訓練場。そこに、スターズ隊長のなのは隊長の声が響き渡った。その声を皮切りに、色々な場所に散っていた俺を含めたフォワードメンバーが一気に集まってくる。
 最初はスバル、次にエリオとキャロ、最後にティアナと俺と言った順番で集まってくるのだが、既に俺たちの訓練服は土だらけ。厳しい訓練をこなしたことが、その服と切らした息で覗える。
 まぁ、実際厳しいなんてものじゃないんだけどね。体力的には限界なんだけど………

「じゃあ、本日の早朝訓練ラスト一本、みんなまだいける?」
「「「「「はい!」」」」」
「うん。じゃ、シュートイベーションやろっか………レイジングハート?」

 まぁ、こんな感じに強がってほかの四人が全開で声を出しちゃうから、まだ訓練は続くわけで。
 俺達の元気な声、というか、俺以外の四人の声を聞いてから、彼女は右手に持っている愛機(デバイス)のレイジングハートに話しかける。彼女の声を聞いてから、レイジングハートはしっかり返答して、彼女の周囲に魔力弾を形成する。その数は十一個。その数を見て、俺たちは息をのんだ。
 だって十一個だよ?まぁ、ティアナとかは結構楽に作れそうなんだけど、一般ピーポーな俺とか、遠距離が苦手なスバルとエリオから見れば、あの数は尊敬と恐怖の念で見るものだ。

「私の攻撃を五分間、被弾無しで避けきるか、一発でもクリティカルを入れられたらみんなの勝ち。一発でも被弾したら、最初からやり直しだよ?頑張っていこう!」
「「「「「はい!」」」」」

 元気よく返事を返す俺たち。でも、この条件はかなり厳しいな、と感じた。さっきまで朝からぶっ続けで訓練をやっていたわけで、体力的にも限界が近いわけでして。

「このボロボロの状態で、なのはさんの攻撃を五分間、捌ききれる自信ある?」
「ない!」
「同じくです」
「こらそこ、最初から捌くこと諦めるんじゃない」
「そう言うトーリは捌く自信あるのかしら?」
「いや、三割あるけど………?」
「オッケー。じゃ、トーリは捌いてね。他のみんなはトーリを囮にして何とか一発入れよう」
「ごめんなさい調子乗りました」

 俺はそんな感じに固くなっていた空気を和らげる言葉を言ってから、一気に作戦を脳内に構築してティアナに念話で伝える。すると、アイコンタクトでその作戦に乗ったような表情で俺を見る。よし、これで何とかいけるでしょ。
 そう思って、俺は一歩前に出る。後ろには戦闘準備万端のスバルとエリオ、サポートの準備に入ったキャロ、すぐ傍にティアナ、と言う布陣が出来上がる。そんな中俺は、その一番先頭に立ってガーンディーヴァの弦に手を添える。

「それじゃぁ、レディー………ゴー!」

 なのは隊長の楽しそうな声と共に、四発の魔力弾がものすごい速度で飛来する。そりゃ、彼女もリミッターを付けてるからそれなりに抑えられているのだろうけど、それでもかなりの速度だ。

「全員、初撃は俺に任せて、残りは絶対回避!二分以内にカタを付けろ!」
「「「「おう!」」」」

 俺の声と共に、他の四人はポジションを取るために一気に移動する。
 これが俺の考えた作戦その一。確実で決定的な攻撃能力を持つメインフォワード陣を一度退かせ、残った俺、つまり、効果的な拡散攻撃能力を持っている俺が………

「ガーンディーヴァ!」
(フォトンアロー・スプレッドシフト!)

 初撃を全て捌く!
 放たれた拡散矢は、飛来した魔力弾を正確に全て撃ち落とし、残った一発がなのは隊長へ一直線に飛んでいく。しかし、それは当たり前のように障壁であしらわれてしまう。

「へぇ、トーリ君一人で囮なんだ。それ、結構危険なんじゃない?」
「それは、これを見てから言ってくださいよ」

 そう言いながら俺はガーンディーヴァに両手を添えて歪曲剣にする。実は、これを部隊のメンバーに見せるのは初めてだ。そのため、まさかの接近戦をこうじてくるとは思わなかったなのは隊長は少しだけビックリした表情で俺のことを見てくるけど、すぐに元の表情に戻る。

「それじゃ、みんなの実力の程、見せてもらおうかな?」
「えぇ、たっぷり見せますよ!」

 そう皮肉っぽく言ってから、俺は足に力を溜めて一気に隊長のもとへ飛び出した。



Side Another

 結果だけを伝えておこう。結果から言えば、その模擬戦訓練は無事に成功した。最初のトーリの囮から、後ろから来たスバルとの挟撃、フリードの強襲にエリオの突撃。これらが上手くかみ合って、なのはに一発当てられた。まぁ、当てたとはいえ、右胸の少し上辺りに、極小の傷跡だったが。

(エリオの全力をあれだけで済ますんだもんな〜。さすが、隊長だ)

 そんな風に思いながらトーリは、横であたふたしているスバルのほうに目をやる。等の彼女は、今まで着けていたローラーブーツを抱きかかえて、情けない声を上げていた。つまり、模擬戦訓練成功の影には、こんな代償が潜んでいたのだ。
 代償の一つが、スバルのローラーブーツの故障。どうやら今までの使用と今回の模擬戦で少し無理をさせたことが祟って、オーバーヒートしてしまったようだ。そしてもう一つが、ティアナのアンカーガンの故障。やはり長年の使用で、所々にガタが来ているようで、根幹の模擬戦でもフォローが間に合わなくなりそうな場面がいくつかあったのだ。

「そろそろ実戦用の新デバイスに切り替えかなぁ」
「新………?」
「デバイス………?」

 なのはの呟きを聞いて、きょとんとした表情を浮かべるスバルとティアナ。その二人の表情となのはの言葉を聞いて、トーリは少しだけ羨ましく思ったのは、彼だけの秘密である。



 隊舎に戻ってシャワーを一足先に浴び終わったトーリは、一人隊舎の屋上に上がっていた。そこには、部隊の移動手段である輸送ヘリ『JF - 704式』がなかなか来ない出番を待ち続ける姿があった。そしてそのコックピットには、同じように暇を持て余すヴァイス=グランセニック陸曹の姿もあった。

「ヴァイス陸曹」
「ん。おぉ、トーリか。何のようだ?」
「ティアナ達が新デバイスの受け取りを終わるまでの時間、暇になってですね。それで、久しぶりに『先輩』と話がしたいなぁ、って」
「なんだそりゃ。ま、俺も暇だから良いけどな」

 そう言いながらヴァイスは、六年ぶりに出会った『後輩』と話すために、コックピットから出てくる。
 トーリが出てきたヴァイスに「ヘリパイが暇持て余してて良いんスか?」と聞くと、ヴァイスは「整備は終わってっから、別に良いんだよ」とドヤ顔で言い放つ。
 二人はそんな会話を交わしてから、トーリが買ってきた缶コーヒーに口を付けながら再び話を再開する。そんな時、ヴァイスはふと彼の右腕を見ながら言った。

「お前、相変わらず無茶やってんのな」
「な、なんの事スか?」
「訓練が終わった後、夜中に一人で自主練してるだろ?」
「………バレてました?」
「まぁ、スコープで見えるからな。お前のお気に入りの場所は」

 トーリがため息混じりに言うと、ヴァイスは少しだけ含みのある表情になって、彼の右肩に手をかけ、一瞬力を入れる。その瞬間、トーリは一瞬顔をしかめた。
 やっぱりな、とヴァイスは呟いてから、彼の制服をたくし上げ、右腕をさらす。
 その右肩は、特に異常はないように見える。しかし、異常がないように見えても、ヴァイスとトーリの二人には分かっていた。

「トーリ、ジャイロを酷使しすぎだ」
「やっぱり、分かります?」
「ったりめーだ。いくら二年しか同じ部隊にいなくても、あれだけお前の自主練に付き合わされたらお前の軽度の故障くらいなら分かる」

 そう、トーリとヴァイスは、一時期同じ部隊にいた。しかし、とある事件がキッカケでヴァイスはその部隊から自主除隊し、本局のヘリパイになった。その時に、ヴァイスのことを慕っていたのがトーリであり、この六課に来て一番最初にうち解けたのも彼、と言うことがあった。そんな経緯があり、ヴァイスとトーリの間にはかなり強い信頼関係があると言っても良い。たとえば、どちらかが故障を完璧に隠しているようでも、片方には確実に分かってしまうような感じで。

「いつからだ?」
「いつからって言っても、結構前ですよ?それに、そこまでキツくはないですし」
「そうか。ま、やばくなる前にシャマル先生のところに行っておけよ?それと、当分はジャイロを使うな。普通のまっすぐなら、そこまで悪化しないだろ?」
「ご忠告、どうもです」

 頼れる先輩であるヴァイスの忠告に、いつも通りに返答するトーリ。そして、そろそろかと思って屋上を後にしようとした瞬間………

『ヴィー!ヴィー!ヴィー!』
「………マジ?」
「マジっぽいぜ?」

 突然屋上に鳴り響いた赤い警報と、各々の正面に現れるモニター。そのモニターには、ただ一言『Alert』の言葉のみが、赤く踊っていた。
 そして、トーリとヴァイスの正面にもう一つモニターが現れ、そこに六課の副長とも言うべき人物、グリフィス=ロウラン准陸尉が現れる。

「おう、どうしたよグリフィス」
『ヴァイス、それにトーリもそっちにいるか。ちょうどよかった、聖王教会から出動要請だ』
「内容は?」
『エイリム山岳地帯を走る、レリックと思われる貨物を輸送中のリニアレールを、推定三十体以上のガジェットが強襲したようだ。すぐに出れるか?』
「もちろんだぜ?」
『じゃ、すぐに準備してくれ。シフトはA−3。僕は隊舎から指示を出す』
「了解しました」

 こうして、不意に始まった緊急任務に、トーリは身を投じるのだった。

【改ページ】

 クラナガン湾岸部の郊外に、その部隊はあった。
 普通のアパートを三、四倍の大きさに巨大化させた様な、あまり豪華ではない本部。その隣に隣接している四つの隊員寮。
 管理局本局所属であり、その類い希なる実力を持つと言われ、解決不能と言われた事件や犯罪者を捕まえてきた伝説とも言われる部隊。それが、ここ『本局航空武装隊第501統合戦闘航空団』、通称『ストライクフォース』である。
 そしてその部隊に、彼女たちはいた。

「全く、エイラさんは相変わらず強引なのよねぇ。せっかく休暇をもらったからトー君のところに出かけようと思ったのに」
「あはは、まぁ、仕方ないんじゃないかな?ウチの部隊だって、緊急任務はいつものことでしょ?」
「だからってねぇ、ユリカ?わざわざ私たちを呼びつけなくても良いんじゃないかって話!」
「まぁまぁ、落ち着こうよお姉ちゃん」

 青みのかなり入った銀髪を後ろで一つに纏めた少女は、黒っぽい銀髪をツインテールにした少女に愚痴るように言う。それをツインテールの少女がなだめようとするが、もう既に行動するタイミングにしては遅すぎた。

「失礼します!」
「し、失礼しま〜す」

 扉を勢いよく開けたポニーテール少女―――氷雨エリカは入るなり早々荒々しく、後ろから着いてきたツインテール少女―――氷雨ユリカは、逆に少々焦ったような感じで静かに入ってくる。
 入って正面にいるのは、白い長髪を無造作におろした女性。エリカを見据える赤い瞳は怒りに染まっているわけでもなく、「あぁ、またか」と言ったような、あきらめのような表情になっていた。

「どうしたの、氷雨姉妹」
「どうしたはこっちよ。なによ、緊急任務って?」
「あぁ、そのことね。ちょっと待ってね」

 そう言いながら白長髪の女性―――エイラ=ユークステッドは、素早くモニターを操作していくつかモニターを出す。そこには、先ほど機動六課で写し出されていたモニターとほぼ同じものが写し出されていた。

「エイリム山岳地帯のリニアレールがね、あのポンコツ機械に強襲されたみたいなの。それを、六課のメンバーと協力して排除して欲しいの。正確には………」
「六課の援護、ですか?」
「ご名答、ユリカちゃん。まぁ、あっちには二人が御執心の『彼』もいるみたいだし、ちょうど良いわよね?」
「それなら問題ないわ。六課に協力確認はしてあるのよね?」
「えぇ、もちろん」
「じゃ、行ってきます」
「え、ちょっと………」

 待って、とユリカが言い切る前にエリカが光の速さで部隊長室を飛び出していく。それを見てから少しおろおろとして、しっかりエイラのほうに振り返ってから「失礼しました」と一礼して部隊長室を後にする。
 再び静寂が訪れた501の部隊長室。そんな中、一人残ったエイラは虚空を見つめながら呟いた。

「さて、六課に連絡入れておきましょうかね。さっき咄嗟にもちろんなんて答えちゃったけど、連絡入れてないのよね〜」

 凄く楽しそうな表情のエイラ。その顔は、楽しそうな感じともう一つ、してやったりといったような表情も混じっていた。本当に、サプライズが好きな部隊長である。
 ふと部隊長室から外の光景を見ると、そこには一機のヘリが空に向かって飛び立っていたところだった。

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