小説『魔法少女リリカルなのは〜ちょっと変わった魔導師達の物語〜』
作者:早乙女雄哉(小説家になろう版マイページ)

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第06話:星と雷


Side トーリ

 俺は今、ヴァイス陸曹の操縦する輸送ヘリ『JF−704』に揺られながらリニアレールの降下ポイントまで移動している。一応、これが機動六課配属後の初任務だ。初任務と言うことで、みんな緊張している表情が覗えるけど、そこまで強い緊張はなさそうだ。ただ………

(ただ一人を除けば、だけどなぁ)

 俺は、不意に視線を斜め前のキャロに移す。キャロはかなりの緊張の面持ちで、隣をフヨフヨ浮いているフリードも心配そうな表情で見ていた。さっき、エリオが話しかけていたけど、イマイチ効果はなさそうだった。さて、どうしたもんかなぁ。
 そんなことを考えていたら、唐突にアラートが鳴った。どうやら、ロングアーチからの警告だった。内容は、航空型のガジェットが急速接近しているとのこと。まぁ、そりゃ来るわな普通。

「私とフェイトちゃんで空を抑えるよ。ヴァイス君!」
「うっす、頼みましたよ!」

 ヴァイス先輩の一声で、後部ハッチが展開する。開いた先には既に大量のガジェットが接近していた。空戦が出来る俺も行こうと僅かに腰を浮かせた時、なのは隊長にそれを制された。

「なのは隊長?」
「トーリ君は、フォワードと一緒に、ライトニングと一緒に行ってあげて」
「………あ、了解です」

 俺は隊長の言葉の裏を上手く汲み取って、再び座る。その意味は、ライトニングの二人のサポート。指示が出来るティアナがいるスターズに行くとライトニングをサポートする人がいなくなるし、空に上がってしまってもどっちにしろ出来ない。それに、まだ実戦経験の少ないライトニングは、何かと危なっかしいところがあると見たんだと思う。だからこそのこの采配だ。
 なのは隊長がハッチのギリギリに立つ。そこで俺に、「キャロのこと、お願いね」と念話で伝えると、そのまま一気に外に飛び出していく。そして、瞬間桃色の光が空一杯に広がったと思うと、そこからバリアジャケット姿の隊長が勢いよく飛び出していった。
 その後、俺を含めたフォワードメンバーも出撃。その際、降下しながらバリアジャケットをセットアップした四人を見て、かなりビビったのは秘密だ。



Side Another

 轟音が鳴り響き、前方にいるガジェットが爆発する。リニアレール内にいるガジェットは、今までなのはとの訓練で対策してきたエリオにとっては赤子の手を捻るくらいに簡単なものだった。とは言っても、それはキャロのサポートが有ってこそ。つまり、この二人はかなりの好パートナーと言ったところだった。

(たしかに、この二人の成長速度は半端無いな。スバルとティアナもかなりのもんだけど、年齢の差の分、こっちのほうが速いみたいだ)

 そんなことを思いながら、彼は上から来るガジェットを魔力矢でぶち抜く。ガジェットの数はだいたい三十前後とは聞いていたけど、今まででたぶん五分の一は潰したくらいである。しかし、それでも魔力量が平凡クラスで、しかもこのAMF内の中では、トーリの魔力の減少量はかなりのものだった。

「あの、トーリさん。大丈夫ですか?」
「………あぁ、大丈夫だ。それより、そっちは大丈夫なのか?」
「はい、トーリさんがサポートしてくれますから」

 彼の後ろにいたバックスのキャロが心配そうに問いかけるが、彼はその問いに笑顔で返すが、その笑顔は幾分か引きつったものとなっている。その表情を見たキャロは、何か決意を新たにしたような表情になってからフリードを連れて彼の隣に立つ。
 何時までも守られてるのはあまり好きではないんです。そう一言言ったキャロの双眸に見据えられるトーリ。その強い瞳に負けたトーリは、ふぅとため息をついてから一歩前に出る。そして、前方で警戒に当たっていたエリオにも聞こえるような声で叫んだ。

「エリオがトップ、俺とキャロが双方から援護攻撃をかける」

 その言葉を聞いたエリオは、しっかり頷いて進み出す。それに合わせて進むトーリは、僅かに後ろを向いて、キャロに一言告げた。

―――ここからが本番だ。着いてこれるか?―――

 彼のその言葉にしっかり頷いたキャロは、そのまま彼の隣を共に歩き出した。
 その後、順調にガジェットを叩いていく三人。しかし、彼らの足は唐突に停止した。
 前方に見えるのは巨大な円形のガジェット。今までの楕円形のものの二倍ほどの大きさで、両サイドには鉄のアームが着いている。明らかに新型と見えるものだった。

『トーリ君、それは新型です!注意して当たってください!』
「そんなこと言われなくても!エリオ、俺が牽制するからその間に強襲!キャロは上に上がってサポートに!」
「はい!」
「了解です!」

 トーリに言葉を聞いてから、キャロは指示通りに上に、エリオは一度下がってトーリの射撃を待つ。全員が持ち場に着いたのを確認すると、トーリは思いっきりガーンディーヴァの弦を引く。そして………

「ガーンディーヴァ、弾幕!」
(オーライ!ミストシューターファイア!)

 弦を離すと同時に放たれる弾幕。『ミストシューター』と命名されたそれは、あくまで魔力弾としては零に等しいような威力。しかし、それでも相手の行動を制限するにもトーリの魔力消費を抑えるのにもちょうど良い、まさに一石二鳥の攻撃なのだ。
 無数の弾幕を受け、ほぼ完全に動きが止まる新型ガジェット―――ガジェット三型。その動きが止まったところを見計らって、キャロのサポートを受けたエリオが突撃する!

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 気合裂帛と共に振り下ろされる彼のデバイス『ストラーダ』の刃が、正確に三型の胴体を捉える。しかし、その胴体を切断することはなく、ただ虚しく火花が散るだけだった。

「くっ、硬い………!」

 苦渋の表情を浮かべてから、もう一度キャロのサポートを受け直すべくエリオは三型から距離をとった………その瞬間だった!
 三型から発せられる波動が、彼らの魔力を纏めてかき消していった。近くで弾幕を張って足を止めていたトーリの魔力弾はもちろん、サポートのために下がったエリオが使おうとしていた魔力も、キャロが使おうとした強化魔法も、その全てを纏めてだ。

「まさか………!?」
「AMF………!?」
「こんなに遠くまで………!?」

 三型の驚異的な性能に驚く三人だが、その一瞬が命取りだった。弾幕が止まった事を良いことに、三型はその狙いを一番近くにいたトーリに絞る。それに気がついたトーリは、防御態勢に入ろうとしたが、時既に遅し。

「がはッ!」

 ドゴンという鈍い音と共に、三型の振るったアームは正確に彼を捉えリニア内の内壁に強く体を打ち付けられる。防御態勢に入っていた分ダメージは減らせたが、それでも直撃に近かったそれは、かなりのダメージだ。

「トーリさん!」

 危険を察知したエリオが、自分がダメージを受けることを覚悟したのか一歩踏み出して突撃しようとした、その瞬間―――

(System Formula start up!)
「………!」

 エリオの一歩よりも速く、トーリが動き出した。それは追撃にきた三型のアームを回避するためだったが、その動きは先ほどダメージを受けたものとは思えないほど速い。左右から押し潰しにきた三型のアームを前に突っ込むことで回避、そのまま三型を中心において円を描くように後ろに回り、三型を足場にして上に上がる。

「トーリさん、怪我は………?」
「あぁ、重めに見て全身打撲とか、それくらいだ」

 キャロの簡易治癒魔法を受けながら、トーリはそう答える。その間にも、彼の回復時間を稼ぐためにエリオが突撃していった。しかし、それをあまり長く持ちそうにない。そう判断したとき、キャロが不意に口を開いた。

「トーリさん、私………」
「この事態を切り拓く、一番手っ取り早い手。それは………」
「私の龍召喚、ですよね?」
「あぁ、でも、キャロ自身がそれに自信がないことくらい、分かっている。でも、やるしかない」
「はい。でも、私………」

 そこで口をつぐんでしまうキャロ。彼女自身、今までの龍召喚での成功率はほぼゼロ。成功したとしても、完璧な制御までは至っておらず、毎回暴走させてしまっている。それに、自分の力が他人を傷つけてしまうかも知れないことをよく分かっている。だから、彼女は自信がない。でも………

「キャロ、俺はキャロを信じる。だから………」

 キャロは、お前を信じる俺を信じろ。そう彼が言うと、彼女の瞳が大きく見開かれる。その目を見て、何かを感じ取ったトーリは、すぐにエリオの方を向く。
 彼のほうもかなり、と言うか、非常にピンチだった。三型の一撃を受けて、ストラーダを握っているもののほぼ気絶している。そして三型は、彼をリニアレールから外に向かって投げ飛ばした。

「エリオ!」

 トーリが先に飛び出そうとした瞬間、それに先走ってキャロが飛び降りる。一瞬助けに向かおうとしたトーリだったが、とあることを思い出してその場に踏みとどまり、上にはい出てきた三型と相対する。

「んじゃ、龍召喚成功までの間、俺がお前を傷だらけにしておきますか!」

 トーリはガーンディーヴァを通常形態からジャイロシューターなどを使うときの形態『エマージェンシーフォルム』に変更すると、腰に差していたナイフを抜き去って構える。
 三型が振り上げたアームがトーリを狙う。しかし、それは彼のギリギリながら正確な回避行動で避けられ、彼を懐に入らせてしまう。
 懐に入られた三型は、レーザーで迎撃するためにエネルギーチャージする。しかし、それより速くトーリが動いた。

「うらぁ!」
(System breaker start up!)

 彼が三型の三目を狙ってナイフを突き立て、それを思い切り押し込む。すると、その目が暴発したようにはじけ飛んだ。爆発に巻き込まれかけたトーリは、ナイフを高速で回収してなんとか受け身をとるとそのまま10mほど後退して再び構える。
 その瞬間、リニアレールの外で、桃色の光が溢れ、彼の視界内に巨大な白い龍と、それに乗ったエリオとキャロがこちらに向かってきていた。
 トーリはその龍が近づいてくるのを確認すると、三型の攻撃をひらりと回避して空へ飛び上がり、龍の隣に並ぶ。

「キャロ、出来たんだな」
「はい!」
「うし、畳み掛けるぞ!」

 その声と共にフリードが咆吼、その口に巨大な火球を形成する。そして………

「フリード、ブラストレイ!」

 キャロのかけ声と共に放たれる灼熱の炎の奔流。それがまっすぐに三型へと向かうが、それは三型の丸い形状によって受け流されてしまう。

(避弾経始か。まさかとは思っていたけど、やっぱり面倒なことには変わりない、な)

 避弾経始とは、装甲などを傾斜させることにより砲弾等の運動エネルギーを分散させ、逸らせて弾く―――跳弾させるという概念である。これにより、装甲の厚さや重量を殆ど変えずに、『装甲を傾斜させる』という事のみで垂直の装甲よりも遙かに高い防御力を得ることが出来る、と言うものである。地球では、これは実装したものが傾斜装甲と呼ばれるが、ここではあまり関係ないので余計な説明は省くとする。
 閑話休題。その硬い装甲を目撃したエリオは、フリードの上で一歩前に出る。どうやら、あの装甲だと砲撃では突破しにくいと判断したのだろう。その考えにトーリは頷くと、彼がフリードの前に出る。

「キャロはエリオの強化、エリオは………」

 そう言いながら彼は三型のある一点を指差す。そこには、先ほど彼がナイフによる傷を付けた場所であり、そこに火花が僅かにバチバチとちっていた。

「あそこ目掛けて突っ込め。サポートは任せろ」
「はい!」

 良い返事をしながら、エリオは一気に三型に目掛けて突撃する。その後ろを追いかける形でトーリも飛ぶ。
 少ししてから、トーリの真横を二つの桃色の光が駆け抜け、ストラーダの刃に吸収されていく。それは、キャロの強化魔法だった。

(二重強化、なかなかやるでない)

 キャロの器用な二重強化を目の当たりにしつつ、彼は一度エリオを抜き去って先に三型の前に立つ。予想通り三型はトーリを狙ってアームを振るってくる。しかし、再びトーリは急加速して三型の正面にはいると、再び腰のナイフを抜いて三型に突き立てる。

「ガーンディーヴァ!!」
(Breaker start up again)

 瞬間、再び三型のど真ん中に小さな穴が空いた。今の一撃で、三型に魔力を『徹した』のだ。しかし、致命傷になっていないのか、三型はアームを振るってトーリを追い払おうとする。そのアームを避けたトーリは、かかったと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべ、背後から来るエリオに道を譲る。
 飛んでくるエリオ。彼は強化されたストラーダを振るって迎撃に出た三型のケーブルをなぎ払うように切り裂いてリニアレールの上に降り立つ。

「一閃必中!!」

 ゴウッ、と唸りを上げて点火するストラーダのブースター。加速と同時に三型の胴体、正確には、先ほどトーリが開けた小さな穴にその強化された刃を突き刺し、体を捻って持ち上げるように斬り上げる。

「おりゃあぁぁぁぁぁっっ!」

 気合裂帛と共に爆発。三型は木っ端みじんに散っていった。それと同時に、ロングアーチから知らされるレリック回収の知らせ。これで任務が終了と思われた、次の瞬間―――

『………っ!!南南西の方角から熱源反応!………これは………航空型ガジェット!?総数二百!』
「何だって!?」

 唐突に来た航空型ガジェット―――ガジェット二型の増援。スバル達はその報告を聞いて焦ったような表情になる。しかし、そんな中一人だけ―――トーリだけは落ち着いていた。
 向かっていた輸送ヘリの方向ではなく、その正反対の方向。二型が飛んでいる空を見つめて、スバル達に指示を飛ばした。

「スバルとティアナはヴァイス陸曹のヘリで退避。もしもヘリのほうに二型が行ったら、それを撃ち落として欲しい。エリオとキャロはレリックの護送。頼める?」
「はい!」
「それじゃ、トーリは?」

 心配そうな表情をしてトーリを見つめるスバル。そんな彼女に彼は背を向けて、崖のほうへ向かう。

「俺は空に上がる。心配すんな、さっと終わらせて戻ってくるよ」

 そうスバルに言い残してから、彼は跳躍力を生かして飛び上がり、その勢いを利用して一気に飛行に入る。そのままなのは達と合流して、近くの二型を二機纏めて射抜いて撃墜する。

「なのは隊長、フェイト執務官、どうします?」
「どうするって、全部落とさなきゃヘリのほうが危ないと思うんだ」
「それじゃ、各自散開して………」
「それが良いと思う。フェイトちゃんは?」
「同じく」

 そんな短い作戦会議を済ませて、三人は三方向に同時に飛び出し、二型を落とし始める。
 魔力量も充分、と言うわけでもないが、なのはとフェイトはその自慢の魔力量のため、まだまだ余裕が感じられている。しかし、一方のトーリは少々ピンチと言ったところだった。
 元々魔力量もそこまで多くなく、いままで技術で何とかカバーしていたところがあるが、こういう人海戦術で来られてはその技術もなかなか発揮できない。それ故、先ほどからトーリはほぼ全力攻撃の砲撃魔法で纏めて落とす、と言う方法をとっているのだ。魔力量は何とか節約できているが、結構ピンチだ。
 しかし、負担が大きくなれていない砲撃で、彼はかなり疲労がたまっていた。

「くっそ、これじゃやばいだろっ!」
(フォトンバスター)

 弦を放し、矢のように速い砲撃を放って二型を六機纏めて落とす。しかし、この連戦のせいで彼の動きがほんの少し鈍っていたことに、なのはやフェイトはもちろん、彼自身ですら気がついていなかった。
 後方から接近する二型の五機小隊。その戦闘の一機が砲門にエネルギーを集束する。普段の彼なら難なく気がついて、迎撃に入れただろう。しかし、この連戦で、それがコンマ五秒ほど遅れてしまった。

(やばっ、迎撃)

 そう思ってから振り返り、そのまま弦を引き絞り、解き放つ。しかし、中途半端な力で射った四発の魔力矢の内、三発はエネルギー弾を相殺できたが、一発は相殺できずにそのままトーリに向かっていく。
 やられる、そう思った、その瞬間だった。

「シャイニー、サン・ブラスター!」

 戦場に響く鋭くも可愛げのある声。その直後に、彼の正面に極太の黒金色の砲撃が走り、弾丸を消滅させていく。

「セブン!」
(了解!)

 その直後、二型一個小隊が一気に真っ二つになっていく。それを分断してから、その爆発を背負うのは、二人の少女。一人は青銀ポニーテールに碧眼、もう一人は黒強めの銀髪ツインテールに黒の瞳。二人ともそっくりのバリアジャケットを纏っている。
 その二人の顔を見たトーリは、驚きの表情に満ちていて、次の瞬間に驚きメインで叫んだ。

「エリカ姉に、ユリカ!?何でここに?」
「ん〜?一応、ウチに部隊長さんにね」
「トーリの援護に行ってらっしゃい、って言われて」
「エイラさんが………全く」

 そんなあきれたような声を出すものの、トーリの表情は先ほどの切羽詰まったような表情とは打って変わって、どこか安心というか、そんなような表情になっている。

「なのは隊長、二人が援護に来てくれたんですけど………?」
「うん、今、はやて部隊長から連絡が来たよ」
「トーリは、二人を連れて二型の掃討に。なのは隊長と私は、ヘリの護衛に向かうから」
「了解しました!」

 そんな会話をしてから、なのはとフェイトはヘリのほうへ飛んでいく。それを見送ったトーリは、一気に急上昇、それを追うように、エリカとユリカも急上昇する。

「じゃ、ここからはトー君に指揮を任せるよ?」
「え、エリカ姉が指揮んじゃないの?」
「任せるよ、軍師さん?」

 エリカのそんな任せた、と言う言葉。ちらっとユリカのほうを見るが、助けは来ない様子。ふぅ、と息を吐いてから、トーリ達は急降下する。その向かう先は、二型が彼らを捜して旋回飛行する戦闘区域。

「各員、ダイビングマニューバから散開。敵機を掃討する!」
「嫌がりつつもやるのよね………了解!」
「分かったよ、お兄ちゃん!」

 急降下しながらフォーメーションを作る三人。フロントがエリカ、ガードがトーリ、センター兼フルバックにユリカが入る、彼ら三人のいつものフォーメーション。その隊列を全く崩さずに、一気に二型の群に突撃していく。
 二型が三人を捉え、突撃、弾丸を放っていく。その向かう先は、もちろん先頭(フロント)のエリカ。しかし、その弾丸は彼女に届くことはない。

「ガーンディーヴァ、弾幕!」
(了解)

 トーリがエリカの上に飛び出て、ミストシューターによる弾幕を形成する。その弾幕で放たれた弾丸は全て撃ち落とされ、残った何発かが突撃してきた二型の十二機単位の二個小隊の足を止める。
 そして、いっそう加速するエリカ。双剣である相棒のセブンスターズを逆手に持って、二個小隊の全機に………

「セブン、バインド!」

 十二機単位の二個小隊、つまり二十四機全てに即効性のあるバインドをかけ、一ヵ所に纏める。その瞬間、彼女は一気にその場から離脱する。その理由は至極簡単、そこにいては可愛い妹の邪魔になってしまうからだ。

「シャイニー、魔力圧縮までは?」
(それほどかかりませんよ、お嬢様)
「うん、分かった」

 両手で盾と大砲が複合したデバイス『シャインルーラー』を構えるユリカ。その砲門には、既にかなりの魔力が圧縮されている。
 そして―――

(お嬢様、魔力圧縮完了しました)
「うん、ありがと………圧縮魔力全面解放………!」

 砲門に満ちあふれる黒銀色の輝き。それが最高潮に達したとき、ユリカは空に響き渡るようなよく澄んだ声で叫んだ。

「サン・ブラスター、フルバーストモード!!」

 戦場を分断する黒銀色の砲撃。それがまず二型二十四機全てを撃墜する。
 しかし、そこで終わらないのが彼女、氷雨ユリカ。放たれたサン・ブラスターを、シャインルーラーを動かすことで軌道変更。周辺にいる二型を纏めて撃墜していく。総撃墜数百機。なのはとフェイトが先に二十機ほど落としていたため、残るは六十五機である。

「妹ばっかに良い顔させっかよ!」
(フォトンアロー・スパイラルシフト!)

 トーリとガーンディーヴァの息のあったコンビが放つ、渦状に回転する一発のフォトンアロー。それが空域を通過すると、周囲にいた二型十機が回転に巻き込まれて撃墜されていく。これで、残り五十五機。

「ラスト、エリカ姉よろしく!」
「了解トー君!」

 トーリの指示に澄んだ声で返答するエリカ。彼女が持っているのは一本の巨大な大剣。先ほど持っていた双剣型のセブンスターズをくっつけた、セブンスターズの最強形態である。

「セブンスターズ、魔力解放!」
(スターブレイド!)

 纏わせた魔力により巨大な大剣を形成する。両手持ちの巨剣に、二型を逃すような死角はない。つまりこれで―――

「チェックメイトだ!スターライザー!!」

 巨剣を振り下ろし、轟音と共に二型五十五機を纏めて消滅させる。その光景を見て、トーリは町長あきれたような感じの笑いを零していた。
 しかし、まだこれで終わっていなかった。トーリは、この空域に接近する二つの魔力反応に、辛うじて気がついていた。気がついているのはエリカとユリカも同じで、まだ武装を解除せずに三方向を向いて警戒態勢をとっている。

『………っ!トーリ君、三時の方向から二つの魔力反応が高速で接近中!他の熱源反応があるから、たぶんガジェットもいる。ヘリのほうに向かっています!』
「………ッ!?了解、今から合流してヘリの援護に向かいます」

 通信が切れ、エリカとユリカの方を向くと、二人は無言で頷いてからヘリのほうに向かっていった。

【改ページ】

 ちょうどその頃、ヘリに向かっている二つの反応。少数でありながら、ガジェットを引き連れている二人がいた。
 一人は青メインの制服にテンガロンハット、プラチナブロンドのロングヘアーが風になびいて、その不思議な様相をいっそう引き立てている。もう一人はオレンジの髪のロングヘアー、黒いスーツにマスク、左腕が隠れるようにマントを纏っている。

「デュアリス、初任務だけど、いけるよね?」
「もちろんだ。それより、カノンこそどうなんだ?」
「私は大丈夫だよ〜?」

 そんな会話を交わしながら、オレンジロングヘアーの青年―――デュアリスは少女―――カノンと視線を合わせ、彼女を先行させると彼はそこで停止する。そして、腰についた白塗りの銃を取り出すと、下についている折りたたまれたバレルを銃口に取り付け、スナイパーライフルに変形させ、その銃口を前方を飛行する機動六課のヘリに向ける。

「ヘリの飛行力を無くす。ヒスイが言ったことは、レリックの回収。なら………」

 そう一人で呟きながら、彼は銃口をヘリのメインエンジンに向け直す。ゆっくりと引き金に指をかけ、そして―――

「アクケルテ、スナイプショット!」

 その声と共に、濁った橙色の魔力弾がヘリ目掛けてかっ飛んでいく。それは確実にヘリのメインエンジンに直撃すると思われた。しかし、その弾丸は途中で妙な角度で跳弾し、森の中に消えていく。

「なに………?」

 不審の声を上げるデュアリス。彼の正面、正確には狙い撃とうとしたヘリの正面には、黒い湾曲双剣を持った少年がこちらを見据えており、臨戦態勢に入っていた。
 それを見たデュアリスは、一瞬不敵な笑みを浮かべてから、マスクを着けたその顔に明らかな敵対の表情を浮かべて、右手に持ったスナイパーライフルのバレルを折り、自動式拳銃の形にして叫んだ。

「管理局員、邪魔するなら、ここで死ねぇ!!」

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