小説『魔法少女リリカルなのは〜ちょっと変わった魔導師達の物語〜』
作者:早乙女雄哉(小説家になろう版マイページ)

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第07話:集まり出す者達


Side トーリ

「ふぅ、間一髪だ」

 そう言って俺は額の汗を拭いながら、正面から来た魔力弾の発射ポイントを確認する。まぁ、殆ど正面だったから確認も何もないんだけどな。
 正直、これは少し焦った。ヘリの護衛に全速力で向かっていたら、ヘリの方向に小さいながらかなり圧縮された魔力反応。その方向を探ってみたら、まさかのヘリを狙う魔導師発見、慣れない高速機動とソニックムーヴを重ね掛けして何とか迎撃できた、って話だ。

「まったく、何なんだ、アイツは?」

 そう言いながら俺は湾曲双剣にしたガーンディーヴァについた余剰魔力(魔力弾を弾いたときに使った魔力付与斬撃に使った魔力)を払い飛ばしてから弓形に戻して構える。すると正面の魔導師は、どうやら臨戦態勢に入ったようで、手に持ったライフルを自動式拳銃のサイズに変えてから俺のほうに突撃してくる。

「ちっ、ここは死守する。梃子でも動かねぇぞ!」
(ミストシューター)

 俺はそう意気込んでから弾幕を張る。威力のない魔力弾だけど逃げる隙を作らない弾幕。これなら足が止まる上に時間稼ぎも出来る一石二鳥、のはずなのに―――

「うおぉぉぉぉぉ!!!」
「って、おいおい!?そんなのありかよ!?」

 まさかのまさか、相手はその弾幕の中を突っ込んで来やがった。回避の必要もない、と言わしめるような強行突破。正面突破だから、いくらミストシューターが当たっても関係ない、って感じだ。こいつ、何者だ?
 俺はガーンディーヴァを湾曲双剣の形にしてその場で待機、迎撃戦に備えて交差させて構える。すると案の定、相手は右手に持った拳銃を振りかぶって俺に叩き付けてくる。しかし、俺は交差させたガーンディーヴァでそれを受け止める。
 どうやら銃身の下に刃が付いていたようで、そこがガーンディーヴァの刃とぶつかって火花を散らす。至近距離まで接近したトーリと魔導師。ここならばジャイロシューターで相手を一撃で昏倒させられる自信がある。でも、自信があっても動けなかった。

(何だ。この感覚………?ここで動いたら、逆に殺られるんじゃないかって言う感覚の方が強い………?)

 一歩たりとも動けず、ただ鍔迫り合いを続ける俺と魔導師。すると、不意に魔導師の方が口を開いた。

「貴様は………氷雨トーリか………?」
「………あぁ、そうだけどっ!?」

 相手の答えに乱暴に返答しながら、俺は鍔迫り合いだった状態を強引に押し返すことで振り払い、少し間合いをあける。するとその魔導師は、何か企むような表情になってから、そいつは上を向いた。

「だそうだ、カノン。消し飛ばしてやれ」

 その瞬間、上空に嫌な気配と殺気が集まっていく。俺はその方向、真上を咄嗟に見上げると、そこには一丁のレトロな形状をした六連装リボルバーの拳銃を構えたカノンと呼ばれた少女が、その銃口に膨大な魔力を集束させていた。
 少女が引き金を引くと同時に放たれる黄色の砲撃。俺はそれを足に掠らせながらも回避する。でも、その一瞬の間に目の前の魔導師に対して反撃のチャンスをくれてやってしまった。

「ふぅん!」
「ぐっ」

 腹を抉るようにして放たれた左のボディが俺の腹に直撃した。なんだ、これ、普通の衝撃じゃない、まるで、金属か何かで腹をぶったたかれたみたいな感じだった。
 その直後に背後から飛んでくる回し蹴り、それに俺はそのまま倒れ込むような体勢で回避して、そのまま顎に向けて放った肘鉄で反撃を試みる。でもそれは、相手の反応速度が上回ったようでそれを掌で受け止められる。何だ、こいつ、化け物か?

「なかなかやるじゃないか?」
「お前が言うかよ、それ!」

 受け止められた肘を大きく振って膠着状態から脱し、そこから至近距離でフォトンアローを撃ち込む。でも、それは相手の速い抜き撃ちで相殺され、追撃とばかりに魔力弾が飛んでくる。俺はそれを紙一重で回避してから接近、再び湾曲双剣に戻したガーンディーヴァで斬り掛かる!
 でもそれは、なんと相手の左腕で受け止められてしまった。おいおい、なんだあの左腕?直撃と同時になんか金属みたいな音がしたぞ?
 その時、俺は見た。今の一撃でそいつの左腕の皮が剥げて、銀色の金属の塊が顔をのぞかせていた。まさか、こいつ、左腕を義手で………。どうりであの一撃も人の一撃じゃない感じがしたわけだぜ。

(でも、種が分かればこれで五分五分。こっからは………)

 今、ヘリに近付いてきているガジェットは姉ちゃんとユリカに任せている。ヘリに近付いてきているこいつと、上にいるあの女は、俺一人で抑えなきゃいけない。ヘリの中にいるなのはさん達は、この戦闘で結構消耗したはず、だからこそ、ここは俺が抑える!

「ガチンコ対決だ!」

 そう言いながら、俺は一気に目の前の魔導師に接敵、そのまま胸ぐらを掴むと上昇して上空の女にぶつける。本当はやりたくない戦法、二対一だけど、やるしかない!
 俺は意気込むと、そのまま男の魔導師のほうに突進していった。



Side Another

 正面の魔導師に向かって、トーリは単発のフォトンアローを放つ。しかし、彼の魔力矢はまっすぐ飛んでいって正面の魔導師にはあたらない。それを回避した魔導師は、回避と同時にまっすぐトーリに飛んでいき、そのまま接近戦に入る。
 彼のデバイスである銃『アクケルテ』の銃身の下についた刃で斬り掛かる。しかし、それをトーリは瞬時にガーンディーヴァをエマージェンシーフォルムへと変形させ、防御優先に強化させた拳を交差させることによって防御する。彼の魔力量はもう残り少ない。それ故、決めるなら一発で仕留めたい。その思いの強さ、その『一撃で仕留める』事を具現化させることの出来る魔法を放つために、この形態、つまり接近戦を選んだのだ。
 しかし、彼自身も接近戦は不得手である。しかし、『接近戦』は不得手でも『接近戦時の回避方法』は得手なのである。矛盾していると多くの人に言われてきたが、実際やってみせるとその全ての人が驚いた表情を彼に向ける。それほど、彼は接近戦の回避アクションに光るものがあるのだ。
 男の魔導師の放った左の正拳突きに対して、拳をギリギリまで引きつけてから右側に体を捻るという簡単な行為だけで回避すると、その左腕を掴んでそのまま自分の後方にその勢いを利用して投げ飛ばす。同時に死角から飛んでくるカノンの砲撃に対して、『ただ感覚のみを頼って』回避した。

(おっとぉ!あっぶねぇ………)

 自分でも何で回避できたのか分かっていない様な表情をしながらも、彼はガーンディーヴァを弓形に戻して弦を引き絞り、放つ!
 鋭い風切り音と共に飛んでいく魔力矢。それはまっすぐに男のほうに飛んでいくが、それを男は左腕を振るうだけで弾き飛ばした。まるで、そんなの聞かないといっているかのような表情でトーリを見てから、右手に持った銃でトーリに狙いを定める。

「魔力弾って言うのは、こういうもんだぜ、管理局員!」

 そんな啖呵にも聞こえる声と共に放たれる特大の魔力弾。既に砲撃クラスの魔力弾だがそんなものにいちいち驚いている暇はないとばかりに、トーリは再びガーンディーヴァをエマージェンシーフォルムへと変形させると右拳に魔力を集中させ、その特大の魔力弾に正拳突きを撃ち込む。そして………

「喝ッ!!」
(Breaker!)

 特大の魔力弾に魔力を撃ち込み、そのままそれを相殺していく。
 先のリニアレール上での戦闘から使っているこの技、これは、彼にしかできない、彼オリジナルの技である。砲撃や射撃、ましてや身体強化魔法とも違うこの技を、彼は『金剛力』と呼んでいる。
 単純に説明すれば、この技は『貫通魔法』。物質に魔力を通し、その魔力を対象に徹す。この場合、拳に魔力を集中させ、その魔力を一瞬にして解放、槍のイメージを以て対象に撃ち込むことで対象を無効化する、と言うものだ。元々殺傷性抜群な魔法であるため、対人では滅多に使わない魔法なのだが。
 閑話休題。
 金剛力で特大射撃を打ち消した後、トーリはそのまま一気に加速。男の砲へ突撃していく。それを見た男は、再び銃を構えて魔力弾を放つ。
 それを回避しようとアクションを起こすが、それより速く視界に入ったのは先ほどまで上空にいた少女。その銃口はまっすぐトーリへと向いており、既に何発もの射撃魔法が放たれた後だった。再び正面を見据えると、そこにも既に魔力弾。万事休す、と思われたときだった。

「………え?」

 自分の背後から飛んでくる衝撃波と魔力弾。衝撃波は正面まで来ていた魔力弾を打ち消し、橙色の魔力弾は側面から来ていた魔力弾を相殺していく。

「トーリ!」
「大丈夫?」

 援護に来てくれたのはスターズの二人、ティアナとスバルだった。空戦の出来ないはずの二人が何故、と疑問を浮かべる前に、その疑問は解消された。二人の足場には空色の道が、この戦闘空域を囲むように縦横無尽に出来ている。スバルの先天系(インヒューレント)魔法のウィングロードだ。
 男に銃口を向けるティアナ。それと同時に彼女に銃口を向ける男だが、先ほどと様子が少し変わっていた。
 仮面の下に存在するであろう本当の素顔。その素顔が、僅かに歪んでいた。その歪みがどのようなものか察しは出来ないが、明らかに何かを―――ティアナのことを疑っているかのような表情となっていた。

「デュアリス、どうしたの?」

 上空から魔力弾を撃っていた少女―――カノンが彼―――デュアリスの隣りに並ぶ。すると、彼はトーリ達に背を向けてそのまま明後日の方向に飛んでいく。

「管理局、覚えておけ。俺の名はデュアリス。管理局に敵対するものとな」
「ちょ、何言って………もうっ。私はカノン=レイナード。また来るね、トーリ君♪」

 そんな意味不明な捨て台詞を残して、二人は消えていった。その後、トーリは追跡しようとしたが一歩遅く、既に反応は消滅(ロスト)しており、追跡は不可能と言うところだった。



―――第三管理世界ヴァイゼン・十三時半

 管理局ヴァイゼン支部とも呼べる場所。正午を回って少しした時間。そこの訓練スペースでは、一人の少女が模擬戦にいそしんでいた。

「はぁぁぁぁあっ!」

 正面にいる最後の仮想敵を、その手に持った真っ赤な槍で貫く。貫かれた敵はあくまでも仮想。そのため、直撃を受けた瞬間に一瞬で霧散する。

(残敵反応無し。ミッションコンプリートです、お嬢様)
「これくらい、何でもありませんわ」

 つきだした槍をクルクルッと器用に回しながら小さな槍のストラップに戻してから、彼女はゆっくりと訓練スペースから出てくる。模擬戦で緊張しっぱなしだった体をほぐすように大きくノビをすると、近くにあった自販機からオレンジジュースを購入し、ベンチに腰掛けてそれにゆっくり口を付ける。

(こう言うところは、やはり年相応の女の子なのですね)
「そういうこと言っていると、また伯父様に頼んで解体させますわよ、グングニル」
(それだけはおやめ下さい、エリーお嬢様)

 少女―――エリーゼ=S=ロベルタは、今の自分の状況を少しだけ滑稽に言った自らのデバイス―――グングニルに対して脅しとも言える言葉を放つ。しかし、この言葉に慣れっこなのか、グングニルは冗談ですと言いながらもそれを回避しようと言う。

「それにしても、部隊長は何のご用なのでしょう?模擬戦が終わったら部隊長室まで来て欲しいなんて………?」
(またエリーお嬢様が何かやらかしたのではないですか?身に覚えは?)
「もちろんありませんわ。と言うか、本当に解体(バラ)しますわよ?」
(マジでやめてください。ごめんなさい)

 そんなケンカというか、しょうもない言い争いをしながらも、彼女たちは少し離れたところにある部隊長室へと向かう。その部隊長室へと続く廊下を、右に曲がったところだった。

「お、見つけたよ、お嬢様」
「あ、部隊長!遅れて済みませんでした」

 そう言いながらエリーゼは、曲がり角で唐突に出会った部隊長に向かって頭を下げる。黒髪を少しだけ立て、金のネックレスを付けた、ちょっとチャラめの自分の部隊長―――レイヴン=エイルは、ちょっとクスクスと笑いながら彼女の頭の上にポンと手を乗せる。その行動に少し驚いた彼女は、不思議そうな表情をしながらレイヴンの顔を見上げる。

「これから、時間あるか?昼飯、食べてないなら、話ついでに奢るけど?」
「え、本当ですか?じゃ、お言葉に甘えて」

 そう言いながら、彼女は会釈しながら微笑む。そのかわいらしい年相応の表情に、弱冠二十歳過ぎの彼の表情はちょっと赤くなるが、それをすぐに振り払っていつものさわやかな笑顔に戻り、「エスコートいたしますよ、お嬢様」と冗談っぽく言って、そのまま隊舎を後にした。
 ちなみに、その光景を見た数人の男性局員が、何かしら怒りの感情を持ったことは、内緒にしておこう。



―――ヴァイゼン首都

 そこの中央辺りに位置するバーレストラン『クルタナ』。そこの隅の席に、レイヴンとエリーゼはいた。彼の前には、既に半分ほど食べ終わっているカルボナーラ。彼女の前には、その小柄な体型に使わないほどの大きさのオムライスの大皿が、テーブルを大きく占領していた。

「相変わらず、よく食べるね」
「はむはむ………んく。そうですか?他の隊員さんなんて、もっと食べる人いますよ?ほら、レーガさんなんて」
「言うな。アイツは別格だ」
「それもそうですよね」

 そう言ってから二人で笑い合う。端から見れば年齢が少し離れたカップル(とは言っても5歳差)、のようにも見えなくもないが、決してそう言う関係ではないことを先に言っておく。
 再びエリーゼがオムライスに手を付け始め、これは少し戻ってこないなと判断したレイヴンも残っているカルボナーラを平らげにかかる。

(うん、ここのカルボナーラは絶品だな)

 そんなことを思いながら、彼は前を見る。すると、イスに深く背を預け、「もう食べれませんわ」とかとても幸せそうな表情で天を見上げているエリーゼがいた。
 と言うか、速すぎる。どんなペースで食べたら、あの二キロ五百グラムのオムライスをこの短時間で平らげることが出来るのだろうか?そんな疑問が前を向いた彼に付きまとうが、それを今一度振り払うと、今度は真剣な表情をして、エリーゼの方を見る。

「それで、話というのは?」
「うん、話って言うのは………」



―――ミッドチルダ地上本部、首都航空隊第2番隊・隊舎

 そこの部隊長室に呼び出されていたダンプ=ストリームは、今部隊長が言い放った言葉に耳を疑った。
 しかし、自分の聴力は全く問題ない範囲だ。来月で満35歳を迎えるとはいえ、まだまだ現役と思っている。だからこそ、ここの部隊長は自分を使ってくれると思っていたのに………

「まさかの………解雇ですか?」
「ちょっと待てや!何話を飛躍してんだ!異動だよ異動!」

 うん、良かった。自分の聴力は全く問題ない範疇らしい。さすがに年を重ねたとはいえ、今まで大きな病気などにかかったことのない自分の健康状態に安心した。かし、どういう事なのだろう?こんな中途半端な時期に異動を言い渡されると、帰って不安になってしまうのが人間という者である。

「私が、何かやらかしました?」
「違うってんだろ!八神二佐の依頼だよ」
「八神二佐の?」

 その言葉『八神二佐』という言葉を聞いてから、彼の記憶のデータベースを検索し始める。しかし、それはあまり時間を掛けずに見つかった、つまり思い出したのだ。
 八神二佐。本名八神はやて。管理局随一の、真性の古代(エンシェント)ベルカ式の使い手。膨大な魔力とその頭脳で数々の事件を解決に導いた、あの八神はやてである。

「でも、何で自分がなんですか?ほかにも適任者はいるのではないですか?」
「いや、八神二佐はお前をご指名だそうだ」
「なんですとっ!?」

 そんなリアクションをとるダンプ。リアクションが面白かったのか、部隊長は呵々大笑しながら机を叩きまくる。その行動を見て、ダンプ自ら殴りたくなったのは秘密である。

「と言うか、指名したのはリンディさんだけどな」
「あ、そうなんすか。それなら何となく納得できます」

 そう言いながら、手をポンと叩くダンプ。昔彼女と縁があった彼で、六課の後ろ盾である彼女なら、確かに彼を指名するだろう。魔導師歴19年。適性がないと言われたにも関わらず、5年前に飛行魔法を自力で会得。その前例の無かったことを成功させたこと故、彼はこう呼ばれる。『努力の天才でありベテラン』と。
 リンディが自分を指名した、と言うのにも、何となく納得がいく。確か機動六課は、試験運用という名目で作られた特別部隊。そのメンバー全員がまだ若く、部隊長ですら未成年(地球での尺度であるが)。そんな中に自分が入る理由など、一つくらいしか考えられない。
 つまり、経験豊富なメンバーが一人いることで、何かあったときのサポートをして欲しい、と言うことなのだろう。そういう風に納得して、彼はその後二つ返事で六課への異動を了承した。



―――第一管理世界ミッドチルダ・首都クラナガン

 首都の繁華街とも言える場所、サードアベニュー。そこの中心部に位置する場所に、魔導兵器メーカー『パラディメント』は存在した。
 外見は他のオフィスビルと何ら変わりない。しかし、その中身が問題である。ひとたび足を踏み入れれば、そこは慌ただしく開発チームが歩き回り、何かを話し合い、時に言い争ったりしながらも仲良く開発にいそしんである。
 その忙しそうなパラディメント本社ビルの最上階。そこに、彼らはいた。

「あなた、本当に間に合うの?」
「それは、僕自身も分からないさ。間に合う、と言うのを信じるしかないだろう?」

 イスに座って最上階からの景色を眺めているのは、黒銀色の髪の男性。瞳の奥からは、少々の焦りと達観したような何かが混じり合ったような瞳をしている。その男性を心配するのは、白銀の髪に碧眼という、一見すれば『お嬢様』という単語がとても似合う女性。彼女の表情には、彼のことを心配するような表情がにじみ出ていた。
 しかし、そんな彼女の心配事を払拭するかのような表情で、男性は振り向く。

「大丈夫だよ。レイカ。トーリ達なら、きっと大丈夫。もうすぐ、トーリ専用支援武装………『アゲハ』の開発が終わり、『クラウド』と『フリーガー』も開発に入る。そうすれば………」
「それでも、心配なのよ」

 彼女―――氷雨レイカはその表情に「私はとても心配しています」とでも言うようなことが一目見て分かってしまうほどの慌てぶり。だが、その心配事を吹き飛ばすのが、彼―――夫である氷雨センリの役目である。

「大丈夫だ。いくら相手が『暁の死霊』でも、ウチの子ども達は負けない。それに、いざとなったら………」

 そう言ってセンリは室内に置かれている神棚を開けると、そこから小さなブローチを取り出す。
 そのブローチは、血のように赤く、太陽の光を反射して更にその輝きを増しているようにも見える。そのブローチを以て、センリはレイカに向かって大きく頷いてみせる。

「いざとなったら、セイジとエリス、それに、キアが守ってくれる」

 そう言うセンリの表情は、どこか痛々しげなものだった。まるで、その時のことを思い出しているかのような、そんな表情だった。

「もしも、ヒスイが相手でも、トーリは負けない」

 そう呟くセンリの背中は、完全に『漢(おとこ)』としての彼と、『父親』としての彼が混ざっている背中だった。

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