【野中 瀾 [ノナカ ナミ] 】
部屋を出て、廊下を散歩と同じスピードで歩く。
『使用人も仕事があるからな。
そう簡単には、やはり見つからないか…』
廊下を歩く乙の背後から、足音が聞こえてくる。
その音は若干テンポが早いようだった。
ふと気になり、後ろを振り向くと目の前には白い物体が間近に見えた。
「!!!」
ドサッと覆い被さってくるそれは流石にスポーツ万能な乙でも避けきる事が出来ず、後ろによろめいて踏張る瞬間に思いもよらない重みがかかり、尻餅をついた。
「……ッつ!!」
前頭部を押え、困惑して膝元を見ると体の脇には大きな籠が転がっている。
「…な、何だ?」
次の瞬間、下腹部に掛かっていた白い物体がムクッと盛り上がる。
「なっ…!!!」
いくら普段の過ごし方がああだとしても流石にこの身体には自覚がある。
『そんな事があるわけがない。
それにこの大きさは人間の領域を越えている…』
そうしている間にも、白い部分はムクムクと徐々に成長を遂げていく。
「……う、嘘…だ・・ろ…」
半ば冷や汗をかき、ただ見つめるしかない乙の目の前でどんどん成長を遂げているソレは、遂に乙の目線まで来た。
「…くっ!!」
覚悟を決めたように、気持ち身構えると、ハラリと白い布が流れた。
パサ…
「…!!!」
「うーん…」
人だ…。
しかも、今さっきリストの中にいた野中 瀾[ノナカ ナミ]だった。
安堵と拍子抜けなお約束の展開に驚きの顔で瀾に目線を向けたまま停まっている。
瀾も前頭部を押さえて起き上がると乙と視線を合わせた。
「………」
「……」
一瞬小さな沈黙が二人の間をすり抜けていく。
「あぁああぁあ〜!!!」
「なっ!!!」
相手に指を差し、突然の大音量で叫んだ瀾に、乙はビクッと体を跳ねさせた。
「ま、まさか…き、きの、乙様!!」
「………」
片耳に人差し指を添えると、瀾に言葉を向ける。
「…そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるよ。
それに人に指を差すのは失礼だぜ?」
「あわわわ…」
途端に『しまった!』と我に返る。
余りに突然の事に、少し素を出してしまっていたことに気付いた。