【想いのひととき】
外出するのに、さすがにメイド服と言うわけにもいかず普段着に着替えた留奈は、やはり普通の女の子らしい、少し落ち着いた服装でやってきた。
二人を車に乗せ、向かい合わせに乙が座る。
3人が乗るのを確認すると車は発進した。
「また姉様とお出掛け出来るなんて嬉しいなぁ♪
それに今日は留奈も一緒だし。
ね♪留奈♪」
「クス…はい♪
あの、でも、私なんかがご一緒してよろしかったんでしょうか?」
「…ああ、構わない。
その方が聖慈も喜ぶ」
パァっと聖慈が笑顔になる。
「そうだよ♪姉様、ありがとう♪」
「いや」
「でも、姉様。急に外でご飯なんてどうしたの?」
「嫌だったのか?」
「そんなはずないよ♪ただ、どうしてかなって思って」
「フッ…ただの気紛れだ」
本当はただ、
[今は屋敷に居たくなかった]
[一刻も早く外に出たかった]
と言うのが理由だった。
2人をだしに使ってしまった事は悪かったが結果的にそれは幸となした。
車の中は、半ばはしゃぐ聖慈と他愛のない話。
舞緋流以外にも母親に似ている人間はここにもいた。
最も、その真はしっかり[月影]の血を受け継いでいるが。
母の忘れ形見…聖慈。
[父親の子]と言うよりは[母親の子]という感覚だった為、乙にとっては、掛け替えのないものの一つだった。
車がレストランに停まる。
ドアが開き、乙・聖慈・留奈の順に車を降りた。
「少しラフな所だけど」
「うん。いいよ♪」
「…ラ・・ラフ…これで…?」
ラフな所…。
留奈は二人の会話に耳を疑った。
そこは明らかに高級レストランだったからだ。
「いってらっしゃいませ」
執事の言葉を合図に3人がレストランへ入る為、歩いていると小さな声が耳に入った。
「まぁ、可愛らしい♪
親子かしら…?
男性の方も素敵ねぇ…」
「ええ…」
「フッ…」
乙はその言葉にクールな笑みを浮かべ、聖慈はと言えば、その言葉に何となく面白くなさそうに膨れっ面をし、留奈の手を強く握った。
「聖慈様?」
「ぷぅ…」
そんな聖慈を横目でチラリと見ると乙は、優しく声をかけた。
「クス…、解ってるよ。
留奈の王子様はお前だ♪
周りの意見なんかに翻弄されるな、紳士ならもっと堂々としてろ」
「解ってますよ」
少し膨れながら突っぱねるように聖慈は言葉を返した。