乙はレストランのドアを引き開け、中に入るとドアを片手で支え二人をエスコートする。
「Your welcome」
スマートに決まっている乙のエスコートを見た聖慈はすかさず、
「姉様、後は僕がやります!
紳士らしくですよね!!」
「ああ」
乙と交替すると6歳の少年には予想以上に扉が重かったのか、片手では支え切れず足を使いながらもプルプルとさせて、
「…Your welcome」
すると、その微笑ましい姿に留奈は笑顔で
「Thank You♪」
と答えた。
その小さな紳士の光景に乙は、相手に悟られないように必死で笑いをこらえ、肩をフルフルと震わせていた。
「さ、席につこうか」
「はい、姉様」
そこでウェイターがやってくる。
「いらっしゃいませ、本日は3名様のご来店ですか?」
乙が返事をしようと口を開く瞬間に聖慈がすかさず言い放った。
「はい、3人です」
ウェイターは少し戸惑ったが、すぐに冷静を取り戻し応対した。
「では、お席の方へご案内致します」
「よろしく頼む!」
少し大人振るように強めに返した。
またしても乙は聖慈に先手を取られたのだった。
三人は車の中と同じ位置で席についた。
周りをチラリと見ると、やはり高級レストランだということがうかがえる。
落ち着いた雰囲気。
紳士・淑女が綺麗なテーブルマナーでディナーを楽しんでいる。
留奈は、慣れない雰囲気に聖慈の横で体を硬くする。
これでラフだというのだから堪らない。
他の二人はいたって落ち着いているというのに、自分はといえば、不安で押しつぶされそうだ。
そうこうしている間に、ウェイターがメニューを持って席にやってくる。
「本日のメニューは、こちらになっております」
目の前に開かれたメニューは、留奈の理解を超えたものばかりだ。
乙が静かに口を開いた。
「今日のお勧めはなんだ?」
「鴨肉の香草焼きホイル包みと鯛のムニエルオリーブ仕立てがございますが…」
「じゃあ、俺は鯛のムニエルで。
聖慈は何にするんだ?」
すかさず聖慈は、留奈に同じ事を聞き返す。
「留奈は何食べる?」