「あ・あの…」
何が良い?と聞かれても、こんなもの頼んだ事がない。
すると、乙が口を開く。
「肉は平気か?」
「あ、はい…」
「じゃあ、彼女には鴨肉のほうを。
聖慈は何にするだ?」
「僕は留奈と同じものがいい!」
「彼にも同じものを」
「かしこまりました。
それでは、鯛に合ったワインをこちらで選ばさせていただきます」
「よろしく頼む」
「では、お食事の後でお二方には、紅茶とオレンジジュースでもお持ちいたします」
「僕も紅茶がいい!」
「じゃあ、ミルクティーにしてくれ」
「子ども扱いしないでください」
「一応、ミルクティーは大人の飲み物なんだが・・・。
じゃあ、オレンジティーで」
「かしこまりました」
一礼をするとウェイターは、テーブルを離れた。
聖慈と乙の間で他愛のない話が続く中、留奈は慣れない雰囲気に少し顔を曇らせ俯き加減でいた。
そんな様子を乙が気付かないはずもなく、聖慈と話しながら聖慈にアイコンタクトを送る。
乙の合図にやっと留奈の表情に気が付くと、そっと留奈の手を繋ぐ。
留奈は少しハッと聖慈を見たが、笑顔で乙と話している。
不意にこちらを見て話をふってきた。
「ねぇ、留奈」
「え!?あ、あの…」
話が分からず少し俯いてしまうと聖慈の握っている手が優しく力が入った。
ふっと聖慈を見ると柔かく微笑んだ。
まるで包むような自分の不安を理解してくれているその瞳は、6歳の少年のものではなく紳士の瞳そのものだった。
一瞬ドキッと胸がなる。
乙に目をやるとクールの中にも穏やかに笑顔を作っていた。
二人の紳士は、彼女の不安を和らげるように緊張を少しずつほどいていく。
その温かさに留奈は、本当のエスコートとは、こういうものなのだろう。
自分を思い、恥をかかないようサポートする二人の紳士に何も不安になる必要はないのだ、と安堵にも似た笑顔を見せた。