「ありがとうございましたぁ」
「…ああ、また頼むよ」
ドアの前まで送りに出た店員に目を細め微かに笑顔をつくる。
アルバイトだろうか、女性店員はまだ若い印象を受けた。
少女は少し頬を赤らめる。
じっと見つめ、乙はスッと相手の首元に手を添える。
「…っ///」
ピクンと小さな体が震えた。
「いつ来ても君はこの店にいる。
もう居ないかと思っていたのに」
少女は眼をおよがせながら
「あ…あの…、風の噂で…留学をしていたとか…///」
「ああ…。もしかして待っていてくれていたの?クス…可愛い…」
頬を真っ赤にして俯くと少女は、こう言った。
「ご、ご迷惑…でしたか?」
「いや。そんなわけない…」
優しく怪しく見つめながら微笑むと少女はさらに顔を赤くした。
見つめ合う二人…
その顔の距離は、段々と近づいていく。
目を閉じ、この後の甘美に期待をし身を任せる。
やがて二人の唇は…
「乙様」
背後からの声に寸前でピタっと動きが停まる。
少女は顔を今以上に赤らめ恥ずかしそうに俯くと一歩後退る。
「クス…残念。時間切れみたいだ。」
「……////」
少し残念そうに見つめる少女に乙は
「また、いつかね」
と耳元で囁いた。
小さな緑色の紙袋を手に車へと歩きだすと、また表情は堅くなる。
黒服の男が乙に小さく話し掛けた。
「乙様。あまり、おふざけが過ぎないようお気をつけを」
「…ッ。お前には関係ない」
「私は旦那様に道中問題を起さぬ様にと申し使っておりますので」
「……」
乙は、黒服の男に冷たい視線を向けると車の前までやって来た。
目の前でドアが開かれた。
乙が乗った事を確認すると、最低限の音でドアが閉まる。
「出してくれ」
「かしこまりました」
そこから屋敷へ着くまでの間、乙が口を開く事はなかった。
窓を見ると、ビルや雑踏がいくつも後ろへ流れていく。
しばらく行くと大きな門が自動で開く。
車が門を過ぎると、また門は静かに閉じていった。
少し長い林道を抜けると大きな
屋敷が遠くから見えて来た。