【猫遊戯 [ネコジャラシ]】
次の日、朝のミーティングが終わると留奈達新人メイドが心配そうに瀾に近寄り、留奈が口を開いた。
「瀾、大丈夫だった?」
「え?」
「親戚が倒れて、お見舞いに行っていたんでしょ?」
そこへ舞緋流も口を開く。
「買い物の途中で、乙様が通りかかって病院まで送って行ったって聞いたわ。
乙様、連絡を聞いた後、買い物に行った瀾を追い掛ける為に車を用意してたもの」
「う、うん…」
瀾は、状況も解らず気のない返事をする。
「やっぱり、乙様ってメイドにも優しいんですわね♪
お休みまで手配してくださったって聞きましたわ。
私は、まだお話した事はありませんけど」
おっとりとした同期のメイドが、感心して言った。
ふと、昨日ベッドの中で乙が言った言葉を思い出す。
いつの間にか、こちらにもちゃんと連絡を入れていてくれたのだろう。
留奈が瀾の肩をポンと叩き笑顔を作る。
「いつまた病院に呼び出されても良いように、乙様のお付きメイドになるんだって?」
しかも、瀾の立場が危うくならないように手筈まで整えて。
瀾はただ、相づちをうつしかなかった。
パンパン!!
不意に手を鳴らす音が聞こえ、皆が視線を向けるとメイド長が立っていた。
そんなに年配ではないが落ち着いていて、まるで学院長のようなドラマに出てくる婦長さんのイメージがピッタリだ。
「さぁ、皆さん。
お喋りはその位にして仕事に取り掛かってくださいね」
メイド達に対して、決して怒っていたわけでもなく促しただけだが、相手はメイド長だ。
皆、慌てて持ち場に急ぐ。
するとメイド長が瀾を呼び止めた。
「野中さん。貴方には用がありますから私についていらして」
「は、はい!!」
メイド長に呼び出されるなど初めての経験だ。
瀾の緊張は一気にピークまで高まる。
メイド長が使っている仕事部屋に案内されるとメイド長が穏やかに口を開いた。
「本日より野中さんには、乙様の専属お部屋番のメイドとして働いて頂きます。
今までやっていた業務とは異なってきますから、くれぐれも粗相のないよう乙様にお仕えして下さい。
こちらがお部屋番の簡単なマニュアルですから目を通しておいて下さいね」
「は、はい!!」
「そんなに堅くならなくても大丈夫ですよ。
ただし乙様から何か申し使った場合は、そのお仕えを最優先に心がけてください」
「はい!!」
「それでは野中さんの一番最初のお仕事は、まず乙様にご挨拶をして、用があるか伺い、何もなければマニュアルに従って業務をこなしてください」
「はい!!」
瀾は、一例をすると乙の部屋へ向かっていった。