小さなジェントルマンはそんな乙の表情に知ってか知らずか、明るくこう答える。
「…いいえ。でも僕こうして姉様に会えて嬉しいんです♪
ずっと夢見ていました。
僕の姉様達はどんな声で、どんな人なんだろうって。
執事の今井やメイド達の言う通り優しく素晴らしい方だった。
…よく、解りましたね?」
「え?」
「リンペ・ペールのケーキ…」
「クス…ああ。俺も好きだったからだよ。
それに手紙にもケーキの名前がよく載っていたからな。
あのケーキはリンペ・ペールにしかないオリジナルだ♪」
「…あ…」
「ケーキ・・・好きか?」
「はい♪それに姉様達が、よく食べていたと聞いていたので…」
「…そうか。」
乙は優しく微笑み、ケーキを口にした。
「姉様。お願いを聞いていただけますか?」
「ん?」
「あの!しばらく、こちらにいるんですよね!?」
「…ああ」
「ここにいる間で良いんです!
……あの…一緒に…」
「何だ?遠慮しないで言ってみるといい。」
「僕と一緒に…寝てもらえま…せんか…?」
余程言いづらかったのか、段々と声が小さくなり、俯きながらチラリと小犬の様な不安そうな上目遣いを送る。
「もちろん、構わないよ。
風呂でも添い寝でも遊びでも何でも付き合ってやるよ」
「わぁ♪本当ですか♪」
不安そうだった聖慈の顔にパァっと明るさが戻っていく。
あどけないその笑顔は、やはり小さな子供の顔だった。
乙は慈しむような穏やかな笑顔をつくると、
「聖慈」
「はい?」
「敬語は使わなくていい」
「え?でも…」
「俺達は姉弟なんだから」
「しかし…写真でしか御拝見した事がなかったので…
でも、姉様がそう言うのでしたら…」
「クス…無理にとは言わない。
別に命令しているわけではないから」
「…はい…」
「クス…」
慈愛にも似た乙の眼差しに恥ずかしそうに答え直した。
「…あ…う、うん…」
「クスクス…」
「……///」