ハイティータイムを終えて、程なくしてノックが鳴りドア越しに声が聞こえる。
「失礼いたします」
執事の今井の声だった。
「どうした?」
「お茶のお時間はお済みでしょうか?」
「ああ。今終わったところだ。」
流石は長年、この[月影家]で仕えている執事だ。
短からず、かといって長からず、ダラダラとしない配慮のある時間の間隔でやってくる。
ドアを開け一礼をし、部屋の中へ入ってくると聖慈にこう告げた。
「聖慈様。お夕食前のお勉強のお時間です。
すでに教育係がお部屋におりますのでお急ぎを」
「…あ、うん。」
まだハイティーの余韻が残る中少し残念そうに答えると乙に視線を向け
「それでは姉様、またお夕食の時に♪」
「…ああ」
笑顔の乙に、パァと嬉しそうにお辞儀をすると聖慈は部屋を後にした。
「乙様、こちらが編入先の学園資料になります。」
「ああ、すまないな」
パラリパラリと渡された資料に目を通していく。
「今回は何日間のご在宅で?」
「…一週間だ。」
資料を見ながら答える。
「かしこまりました。」
メイドがお茶のセットを引き払い、部屋を出ていくと乙は静かに口を開いた。
「…今井。留守中に何か変わったことはあったか?」
「いえ、これといってございません。ただ…」
「ただ?」
「強いて言うのであれば以前、乙様のお着きのメイドが2名ほど辞めざるをえなくなりまして」
「そういえば、今日は見なかったなぁ。で、辞めた理由は?」
「一人は家庭の事情で、もう一人は結婚退職いたしました。」
「…そうか。他には?」
「何人かメイドが入ったという事ぐらいでしょうか…」
「ほぅ…。メイド、ねぇ…」
チラリと執事に視線を向けるとクールに笑みを浮かべながら手を差し出した。
「な…何か?」
少し困惑した様子で、執事の今井が答えた。
「……リスト。」
「は、はぁ…。かしこまりました」
一瞬、困った顔をしたが、そこは長年、執事として勤めあげた男。
今井は、すぐに冷静さを取り戻し、半ば諦めてリストを取りに向かった。