────数週間前…
リアは、高校のキャンパスのベンチで一人淋しくたたずんでいた。
最後に乙に会ったのはいつだっただろうか…。
遠くない過去のはずなのに淋しさから、その期間(とき)が遠く感じる。
「勝手な人…」
いつの間にか、ポツリと言葉が声を誘導していた。
割り切った関係だった事位は、充分解っていた。
しかし、乙はあまり感情を出さないが会うたびに優しく、二人の時間を大切にしてくれた。
[ラブペット] ではなく [恋人] と勘違いしてしまうほどに…。
自分は沢山いる [ラブペット] の一人でしかない。
しかし、いつの間にか、リアの中では乙の存在は大きくなっていたのだ。
コツコツ…コツコツ…
一つの足音が近づき、リアの前で静かに止まる。
「…淋しそうだね」
優しい声の持ち主。ナンパ…?
そんな風に思った彼女は、今のこの心境の中で遊ぶ気にもなれず俯いたまま、その足を無視することにした。
声の主は、めげずに再びリアに向けて声を発した。
「乙に会えないのが、そんなに淋しいなら僕が代わりに相手をしてあげるよ?」
乙は手が早く、沢山のラブペットがいることは有名な話だ。
その時、呼ばれていた通り名が [沈黙のseduction] だった。
故に乙のお下がりを狙い、こんな風にナンパを受ける事も珍しくはなかった。
今回もその類だろう…。
「僕なら君の望みを【確実】に叶えてあげる事が出来るよ」
声の主は自信に満ち溢れている。
『何をぬけぬけと…!
清純そうなお坊っちゃまみたいな声をしているくせに、よく言うわ。
コイツも他のくだらない連中と何も変わらない!』
「貴方なんかに乙の代わりが…!!」
リアは半ば苛立ちながら、相手を睨み付けようと顔を上げる。
陽射しを背負い顔はよく見えないが声の主は、手を差出し低い声でこう言ったのだ。
「俺の腕の中でずっとお前を見ていたい。
…おいで、もう二度とリアを離さないと約束するから」
「!!! …きの…」
リアは耳に入って来た声にハッと息を飲み、思わず耳を疑った。
それは…まぎれもなく 【乙の声】 だったからだ。
しかも、乙なら絶対に口にしない言葉ばかりだ。
声の主が自信に満ち 【確実に】 と言った理由が解った。
それは、乙の声が出せるからだ。
「リア…愛してる・・・」
声の主が発したその言葉にリアは思わず、無意識に相手の胸に飛び込んでいたのだった───