小説『アールグレイの昼下がり』
作者:silence(Ameba)

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リアの記憶の回路を現実に戻したのは乙の声だった。
乙は、静かに口を開く。

「俺達は、女を共有しない」
「きの…」
「リア、青髭というグリム童話を知っているか…?」

【青髭】
シャルル・ペローが書いたと言われる話で、グリム童話にも紹介されている有名なおとぎ話だ。
 
≪ある金持ちの男は、青い髭を生やしたその風貌から『青髭』と呼ばれ恐れられていた。
青髭はある美人姉妹に求婚し、その妹と結婚する事になった。
ある時、青髭は新妻に鍵束を渡し
「どこに入っても良いが、この鍵束の中で金の鍵の部屋だけは絶対に入ってはいけない」
と言って外出していった。
しかし、新妻は『その金の鍵の部屋』を開け、その中の青髭の先妻の哀れな姿を見つけてしまう。
新妻は青髭によって殺害されそうになるが、すんでのところで二人の兄によって青髭を倒し、新妻は青髭の遺産を手に入れて金持ちになった。≫
という内容の話だ。

「その話と何の関係が…」

リアは、聞き返したがその顔は、徐々に色を失っていく。
乙は、さら口を開く。

「俺は、≪リアが他の誰と遊んでいても構わないが、俺の声を発する事の出来る人間には近づくな≫と言ったはずだ…」

リアの顔からサァーっと、血の気が引いていった。

「[踊る妖艶Doll]と呼ばれる輝李に目を付けられて、玩具にされた人間が最終的にどうなるのか、知らないわけじゃないだろ…」

乙の言葉にリアは、そのままの姿で駆け寄り抱きついた。
顔色一つ変えず佇む乙に、捨てられるという恐怖なのか、不安なのか、半ば引きつった笑顔で乙を見上げ必死で訴えた。

「そ、そんな…乙、待って!!
私…貴方の事、本当に≪愛して≫いるのよっ!!」
「お前がこうして日本に来て、最後に俺に抱かれる事は輝李にとっては計算済みの事だ。
お前には目をかけていたつもりだったが…」
「で、でもっ…青髭の新妻は…最後に救われる…のよね?ね!!」

半ば薄ら笑いを浮かべ必死にしがみ寄るリアに乙は、眼を伏せフッと微かに物悲しそうに言葉を放つ。

「リアレイン。残念だが…
今、この瞬間からお前は俺の者じゃない」
「き、乙…」
「Game Overだ…」
「ッ!!!!」

Game Over…。
[沈黙のseduction] [踊る妖艶Doll] の2人が共通して使うソレは一切の守護と責任を断つ最後の…戦慄を示す言葉だ。

リアは、ガクッ…と腰を砕けさせ、その場に崩れ落ちた。

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