乙はスッとドアの方に歩く。
「乙!!」
リアの声にもう一度振り向き、自分のしていたペンダントをプツっと引き千切るとリアに放った。
「俺からの餞別だ…。
今まで可愛がっていた情けで最後に忠告しておいてやる。
一刻も早く、さっさと日本を立ち去れ!!
…そして、輝李の前から姿を消すんだな…」
「待って!!乙!!嫌よ、乙ぉ〜!!」
リアの必死の叫びも虚しく、乙は部屋から静かに出ていった。
廊下を歩く乙は、諦めたかのように静かにもう一言付け加えた。
「…最も…間に合えば…の話だ…」
ロビーを出てバイクを走らせホテルの駐車場から出た瞬間、黒塗りの高級車とすれ違う。
フルフェイス越しにチラリと運転手を見ると眼を細めバイクを止める。
高級車は、乙に気が付く気配すらなくホテルの駐車場へ不気味なほど静かに吸い込まれていく。
「やはり来たか…。
第8機関特命SP特殊部隊 通称、8−(エイトアンダー)…」
乙は、外観からホテルのリアの部屋を見上げ、ポツリと言葉を付いた。
「間に合わなかったな…リア…」
乙は再びバイクを走らせ、街の中へ溶けていった…。
乙の忠告通り、急いで着替えチェックアウトの電話を済ますと、リアの部屋のドアが勢いよく開き黒服の男達が数人入ってきた。
「!!!!」
男達の後ろから、スラリとスマートな人物が入ってくる。
身の丈は165ほど。
栗色のサラサラのショートヘア。
瞳は大きく少年とも少女とも、見分けのつかない中性的なキャットフェイス。
その人物は不適に笑い、リアに向け口を開いた。
「…やぁ…リアレイン。
最後のお別れは済んだかなぁ?」
「月影…輝李…」
乙の双子の妹で、[踊る妖艶Doll]と呼ばれる人物だった。
何を考えているのか解らない、その笑顔の瞳には凍り付くような光を放っている。
「…あ…あぁ…そんな…」
リアは、恐怖のあまり声を失う。
「わざわざ君を迎えに来てあげたんだ、嬉しいだろう?」
「どうして…ここが…」
「クスクス…解るさ、君の事なら【何でも】ね。
さぁ…行こうか…リア」
次の瞬間、輝李は不気味な悪魔の微笑みを浮かべ静かに言った。
「クライアントがお待ちかねだ。
君には、まだ教える事がたっぷりあるんだから…」
「…ああ…き、乙…」
「あははははは…連れていけ!!」
「い、いやぁあ〜!!」