小説『アールグレイの昼下がり』
作者:silence(Ameba)

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家に着くと、瀾が乙の所までいそいそと駆け寄ってきた。

「乙様、お帰りなさいませ」

乙がフルフェイスを外し、軽く首を振りながら風を感じる。
瀾に気が付くと、髪を掻き上げチラリと見た。

「瀾、どうした?
こんな所まで出なくても良いんだぞ?」
「ふぁ〜///」

ヘルメットを外し、髪を掻き上げた乙の姿は、瀾にとっては悩殺バリューセットというところだろうか。
瀾は急に腰が砕け、その場に腰を着いた。

「な、瀾!!」

乙は急いでバイクから降りると、瀾に駆け寄った。

「大丈夫か?」
「は、はい…///」

間近に迫る乙の顔に、思わず瀾は目を閉じてキスを期待してしまう。

「こらこら。
こんな場所では誰かに見られてしまうだろ?」
「あっ!!」

瀾の手を取り、立ち上がらせると頭をポフンと撫でる。

「出迎えありがとうな。
じゃあ、またお茶の時間にな」

乙は静かに屋敷に入っていく。
瀾は何となく残念そうに、しばらく乙を見つめていたが仕事に戻るため屋敷に入っていった。



乙は、部屋に戻ると大きな溜め息を吐き、倒れこむようにソファーにドサッと座る。
手の甲を額に添え、目を伏せる。

(「私…貴方の事、本当に愛しているのよっ!!」
「待って!!乙!!嫌よ。乙ぉ〜!!」
)

リアの最後の言葉が聞こえた気がした。

「…っ…」

不本意だったのかも知れない。

「…愛してる…か…」

愛という言葉は乙にとっては、不誠実な言葉だった。
またしても、遠い過去に乙に向けられた言葉が甦る。

(「乙の事を解ってくれる人が、いつか…きっと」)


『…馬鹿馬鹿しい。
愛なんて俺には、芽生えることはない。
本気になったって、俺を見ているわけじゃない事くらい手に取るように解る…』

女達は、乙達の加護とステータスを求めて、声を掛ければすんなり着いてくる。
そんな事が繰り返される中、乙の心の中には常に闇が渦を巻いてモヤモヤと漂っていた。

そういう意味ではある意味、輝李よりも冷酷な一面なのかもしれない。

乙自身が、これから起こる事を事前に頭が回らなかったわけでも、罪悪感が無いわけでもない。
しかしあの時、部屋に留まり、リアを輝李の手元から救わなかった自分がいたのも事実だ。

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