小説『アールグレイの昼下がり』
作者:silence(Ameba)

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コンコン…


不意にノックが響く。
ノックにビックリしたメイドは、サッと乙から離れた。

『……ッ。
誰だ…こんな時に?』

残念そうにドアを開けると、瀾がお茶のカートと一緒に立っていた。

「あ、あの!!
それでは乙様、私はこれで…!!」
「…ああ」

メイドは一礼をすると、顔を真っ赤にして逃げるように部屋を出ていった。
乙は思わず目で追っていたが、その横で明らかに目を細めて瀾が疑いの視線を送る。

「乙様ぁ…、お茶のお時間ですけど」
「あ、ああ、そうだったな」

部屋に瀾を入れると、乙はソファーに腰をかける。
静かに乙の前に紅茶が置かれる。

「…どうぞ!!」
「あ、ありがとう…」

瀾の声は明らかに虫の居所が悪いようだ。
乙が紅茶に口をつける。

「ッ!!!お、おい…!!
これ、少し熱くないか?」
「知りません!!」

瀾は、プイッと顔を背け、明らかに不貞腐れている。
乙は、瀾の腕をひっぱると自分の膝の上に乗せた。

「きゃ…!!」
「クス、なんだ?…焼いてるのか?」
「さっきのメイドさんと何をなさってたんですか!!」

乙の膝の上で瀾は、疑いの眼差しを向け不貞腐れている。
乙は、優しく見つめるとこう返した。

「何もしていないよ」
「どうだかぁ!
乙様は≪お華見≫が大っ好きらしいですからぁ!!」
「……。だ、誰がそんな事を…」
「知りません!!」

またしてもプイッと顔を背ける。
乙は笑顔ながら、半ば冷や汗をかいている。


『誰だ…?
余計なことを吹き込んだ奴は…参ったな…』


「瀾…」
「何ですかぁ!!」
「こっちを向いて…」
「嫌ですぅ!!」
「仕方ないな…」

乙は、瀾の頬に手を添え、クイッと自分に向けさせキスをする。

「ン///んん…//」

唇が離れると乙は、クールながらも優しく囁いた。

「瀾のせいで舌を火傷してしまった。
主人を傷つけた罪は重いぞ♪
勿論、看病してくれるんだろ?」

瀾が答える暇も与えず、また唇が重なる。
乙の舌が瀾の唇をなぞり、静かに瀾の中に侵入する。

「んん…///ンウ…//」

瀾の頬は、徐々に赤みをまし、一生懸命に乙を受けとめる。
やがて唇が離れると少し瞳を潤ませて、またしても頭に垂れ耳を生やしたように困ったような、照れているような顔を見せる。

「き、乙様…ズルいですぅ///
こんな時だけぇ…///」
「クス…俺にこうされるのは嫌なのか?」
「うう…///」

惚れた弱みというやつだろうか、瀾は乙の胸に顔を埋め、困ったような甘えた瞳で視線を送った。
乙は、満足そうに瀾の頭を撫でると頬にキスをする。

「主人付きの瀾専用のメイド服、一緒に選ぼうか…?」
「え…///」
「似合うの選んでやるから」
「本当ですか?」
「ああ…、もちろん」

瀾を膝から下ろし、乙がパンフレットを持ってくるとソファーの瀾の後ろに座り、後ろから抱きながらパンフレットを開く。
その態勢に、瀾の中であの別宅の時の素敵な時間が蘇った。

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