【秘密の部屋】
「はぁ…」
瀾の口から、うっとりとした甘いため息が零れた。
「どうしたの?瀾」
不意に舞緋流が話し掛けて来たので、瀾は慌てて答える。
「えっ!!な、何でもないよ…」
「そう?」
「う、うん…///」
実は昨日あの後、結局瀾は帰してもらえず乙の部屋に泊まってしまったのだ。
まだ寝ている乙に、そっとキスをすると見つからないように誰よりも早くメイドの休憩室に来て、モーニングコーヒーを飲んでいたのだ。
昨日の乙との事を思い出すだけで、体が勝手にピクリと反応してしまいそうになる。
「二人共、もう少しでミーティング始まるってさ」
二人を呼びに来たのは、留奈だった。
「そういえば今日は、ガーデンパーティーがあるって言ってなかったかしら…」
「そうそう!!忙しくなるよぉ♪」
舞緋流と留奈の言葉に、乙も昨日そんな事を言っていたのを思い出した。
パーティー…
乙と行ったパーティーは、今でも鮮明に思い出される。
しかし、今回はメイドとして、パタパタと動かなくてはならない。
乙の世話係として、服を用意したり…。
身の回りの事をこなし…。
まぁ、一番疲れるのは、乙の方であろうが…。
ミーティングが終わると、モーニングティーと朝食を乗せたカートを押して乙の部屋へ迎う。
ふと見ると留奈も同じようなカートを押している。
「あれ?留奈、その格好…」
「え?ああ、これ?実は私も、主人付きになったんだ。
聖慈様のね♪」
「そうなんだぁ」
「申請しなきゃいけない事、知らなかったみたいなんだ。
乙様に言われて慌てて申請してたらしいから…」
「へぇ、良かったねぇ」
「うん。とりあえず、メイドキャップだけカチューシャに変えて、メイド服は落ち着いたら選ぶつもりなんだ。
瀾はそのままなの?」
「え?そ、それが色々あって…、まだ選んでないんだ…」
「へぇ」
「聖慈様も、今日はお部屋で朝食なの?」
「うん。ガーデンパーティーの準備もあるから、お部屋で食べるらしいんだ。
じゃ、アタシこっちだから」
「あ、うん」
留奈と別れると瀾は乙の部屋へ急いだ。
留奈も主人付のメイドになった。
瀾は一番仲の良い留奈が自分と同じ立場になった事をうれしく思い、何となくクスクスと笑顔になったのだった。
瀾は、乙の部屋のドアを一応ノックし、静かに中に入る。