【Present For You…】
一日の授業も終え、HRも終わる頃…
乙が廊下に目をちらりとやると、いつも通り廊下には多数の女生徒が集まっている。
女生徒の目的は様々で、部活の勧誘に来ている者。
プレゼントを渡すために来ている者。
ミーハーな取り巻きとして見物に来ている者。
乙は、そのウザったさから、ため息をつく。
「編入早々1ヶ月だってのに相変わらずの人気だな?
月影 乙」
「……」
話し掛けてきたのは、同級生の木田 神流[キダ カンナ]だった。
乙は、神流に口を開く。
「あの半分は【お前の】だろ」
「フ…何言ってんだよ。
私達、学院じゃあreal elementalって呼ばれてるんだぜ?」
「real elemental?何だそれ?」
「乙は編入して間もないから解らないのも無理ないか。
私と乙、その他にも生徒会長とか、学院の五本の指に入る王子様的な存在をそう呼ぶらしいぜ」
「…へぇ。
…し、しかし凄いネーミングだな…」
乙が、チラリと廊下を目にしていると神流の手が乙の首元にスルリと伸び、自分の方を向かせると顔を近付け、口説くようにそっと囁いた。
「ところで…生徒会役員のコ・ト。
考えてくれた?」
途端に廊下で黄色い悲鳴達が響いた。
「きゃ〜////」
悲鳴にも動じず乙は冷静に答える。
「……。神流…普通に聞けないのか?」
「何だよ、ファンサービスだろ?」
乙は、ハァっとため息をつくとスクッと椅子から離れ、鞄を片手に背負うようにして持つとクールに言った。
「悪いな…前にも言ったがそういうのには興味ない。
…じゃあな」
そういうと教室を出ていった。
神流は乙を見送ると、クスリと笑顔を作った。
「フ…クールな奴」
乙は、学院を出て寮に向かい歩きながら昼休みの瀾からの電話の事を考えていた。
いつもならば、連絡は夕方過ぎか深夜だ。
なのに今日に限って昼間にかかってきている。
『昼休みの時間を知らないわけじゃないから着信があってもおかしくはないが…
まぁ、今日は週末だ。
家に帰れば解ることだ』
寮に着くとその足で総寮長の部屋に向かい、いつものように外出届を出す。
結果は勿論、即オッケーだ。
部屋に戻ると私服に着替え、駐車場に置いてある自分のバイクに跨るとエンジンをかける。
颯爽と走りだすと、寮に帰ってきた取り巻きを無視して屋敷へ。
短い距離ではないが一時間も走らせれば、着く距離だ。
林を抜け、街中を走り家の近くまでくると妙な胸騒ぎがした。
違和感にも似た…何かが乙の中で蠢く。
屋敷に入ると、いつもと変わらない屋敷の雰囲気。
ただ…何かが違う…。
違和感…
廊下を歩いて、すれ違うメイドが一礼をする。
何も変わらないはずなのに、何かが違う。
部屋のドアを開くと、その違和感は強くなった。
家具や部屋に置いてあるものが動いた気配はない。
しかし、誰かが侵入したであろう静かな存在感が漂っていた。
荷物を置き、何となく
メインルーム・
調合室・
シャワー室…
一つ一つ覗いていく。
特に異常はない。
『残るはベッドルーム…か』
ベッドルームへ向かうとベッドメイクをしていた瀾が乙に気が付き満遍の笑顔を向ける。
「あ、乙様。お帰りなさい♪」
しかし、その瀾の姿はスウッと薄れ消えてしまう。
代わりにベッドの上には、赤い蝋で封が成された黒い封筒がポツリとたたずんでいる。
乙がその封筒を開けると白い文字で、たった一言こう書かれていたのだ…。
『Present for you…』