小説『アールグレイの昼下がり』
作者:silence(Ameba)

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「…なんだ?これ…」

辺りを見回したが、それらしき物も見つからない。
そういえば家に帰ってから一度も瀾を見ていない事に気が付いた。
乙は携帯を取り出すと、コールをかけた。


「おかけになった電話は電波の届かない所にあるか、電源が入っていない為かかりません…」
「…なんだって?電源が入っていない…?」

そんな時、ドアのノックが聞こえた。


『瀾のやつ、電話に出なかった位で電源を切るなんて』


乙は、急ぎ足にドアを開けた。

「きゃ!!」
「ッ!!」

ティーセットのカートを押したメイドが驚き小さく悲鳴をあげる。

「わ、悪い…」
「い、いえ…」

乙は、ソファーに腰を掛けるとティーセットを持ってきたのが瀾じゃないことに疑問を抱きメイドに言葉を投げた。

「野中 瀾はどうしたんだ?」
「…それが…昼過ぎから姿が見当たらなくて…」
「昼過ぎだって?」
「はい…」

メイドも困り果てた顔を覗かせた。
昼過ぎといえば着信があったあたりだ。
瀾が何の連絡もなしに行方が解らない?
いくらヘソを曲げたにしても行き過ぎている。

そして…
あのメッセージカード…
…嫌な予感がした。

乙は静かに口を開く。

「…おい…俺の留守中に、この屋敷に誰か来なかったか…?」
「来客はなかった気が致しましたが…。
そう言えば…輝李様をお見かけしたような…」
「ッ!!!!」

途端に乙の顔の血の気が一気に引いていった。


『…輝李…だって!!アイツ帰ってきてたのか!!まさか!!』


乙は素早くソファーから立ち上がるとジャケットを羽織り、ドアの方へ歩きだした。


「あ、あの!!乙様!!お紅茶は…!!」
「そんなものは、もう良い!!
出掛けてくる!!」

屋敷を出ると別宅へ向かいバイクを走らせた。
同じ敷地内でも走って行ける距離ではない。
半ばバイクスタンドもそこそこに、バイクが倒れたが気にも止めず別宅のドアを開け、室内を走る。

一部屋、一部屋開けて見るが中は誰もいない。
そして…
あの日、瀾と過ごした部屋のドアノブに手をかけると鍵がかかっていた。
部屋の中からは人の気配がする。


『この中にいる!!』


ドンドン!!


「おい、瀾!!そこに居るのか!!
ここを開けろ!!」

いつになく乙は、意外にも取り乱していた。
別に瀾の事がどうこうと言うわけではないが輝李が帰ってきている以上、瀾の存在が解れば何をされるか解らない。

「………」

中からは何やら声が聞こえるが何を言っているかは聞き取れなかった。
間違いない!!
瀾はこの中にいるのだ。

乙は、ガチャガチャとドアノブを引っ張った。

「電話に出なかった事を怒っているのか!?
ちゃんと謝るから、早く開けろ!!」
「……ッ…は…」

ドア越しに何を言っているか解らない。

「クッ!!そっちがその気なら、こっちも無理矢理こじ開けさせてもらうぜ」

業を煮やした乙は、少しドアから離れると勢いよく体当たりした。
もう一度…
そして、もう一度…


『チッ…!!
時は一刻を争うってのに意外と頑丈に出来てる!!
体当たりじゃ埒が空かないか!!
仕方ない…!!』

乙は、一歩ドアから下がる。

「クッ!!!!」

全神経を集中して、ドア目がけ回し蹴りを繰り出すとドアは勢い良く開いた。


──バンッ!!



「なッ…!!!!」

乙は、目の前の光景に思わず言葉を失った…。
そこには…確かに瀾がいた…!!

黒いレースカーテンに蝋燭の明かりが部屋を照らしている。
ベッドには赤いバラが一面敷き詰められ、ゴシックを思わせるようなレイアウト…
そのベッドの上には手を上に拘束され、猿轡と開かれた足には、その花核を刺激する器具が取り付けられ蜜を溢れさせた瀾が、黒い超ミニドレスとヘッドドレスを付けられ置かれていた。

「…な…み…」

乙は、目の前の信じらんない光景に目を見開いた。

「瀾っ!!!」

乙が瀾に駆け寄り手枷と猿轡を外すと、瀾を抱き支えた。

「瀾!!瀾!!しっかりしろ!!」
「…乙…さ…ま…」
「瀾…大丈…」

スルリと背中に伸びた瀾の腕。

「乙…様…、もっと…イかせて…下さい…
私を…もっとメチャクチャにして…
私は…貴女の…、人形…」
「!!!!」

抱き締めていた瀾を離すと、その瞳は、虚ろで光すらない。
薄ら笑みを浮かべ、その笑みには感情すら通っていなかった。

「乙…様…。私を…見て…
こんなに淫らに…ア・ア・ア…///
乙…さま…来て…私のココを壊して。
クスクス…」
「…ッ…やめろ!!!」

乙は、すがりつく瀾を耐えられず、突き放した。
ベッドの上に放られた瀾は、まるで何かに取付かれたように、自分の身体を激しく淫らに自ら慰め続けた。

ついこの間まで笑って、泣いて、不貞腐れて…。
その瀾が…今や快楽だけを求める人形のように自分を慰めている。
乙は瀾の様子を茫然と見つめて、ポツリと言葉をついた。

「こんなになったら、もう…戻らない…。
…仕方ないな…」

静かに部屋にある電話の受話器を取った。


トゥルルル…トゥルルル…

「はい…」
「今井か…?俺だ…。」
「乙様。どうされましたか?」
「…Dollオークションの手配を…」
「…かしこまりました…」

二人の会話は、夜の波の立たない水面のように静かだった。
乙は、受話器を静かに置くと目を伏せ、目の前のステンドグラスの絵画に拳を投げた。


バン!!ピシピシ…


「…クッ…輝李…!!!」

自分の意思や思考さえ認識出来ず、ただ自分の身体を慰め続ける瀾の瞳から無意識に一粒の雫が流れた事を乙は知らなかった…。

「た…すけ…て…。
乙…さ…ま」


ヒラリと乙自身から輝李から贈られたメッセージカードがおりた。


『…Present for you…』

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