小説『365本の花』
作者:STAYFREE()

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 ――初めてこの男の子が店に来たのも今日と同じような強い雨が降っている日だった。
午前10時40分、毎日同じ時間に花を1本買っていく。小学生のように見えるが学校には行っていないのだろうか? 不思議に思っていたが、直接聞くことはしていなかった。
 
 次の日、やはりいつもの時間に男の子はやってきた。でも、何か様子がおかしかった。顔がほんのり赤くて元気がない。
「お花をください」
声も普段より弱々しかった。熱があるんじゃないか?僕は男の子のおでこを触ってみた。思ったとおりだ。
「ダメじゃないか、こんなに熱があるのに外に出たりしたら」
「でもお花を、お花を持っていかなきゃ」
「どうしても持っていかなきゃいけない理由でもあるの?」
「お母さん、お母さん……」
 僕の問いかけの答えにはなっていなかったが話すのも辛そうなので、それ以上は聞かなかった。
「わかった。じゃあ僕がおんぶしていってあげるからいっしょに行こう」
 男の子に花を1本渡し、店のシャッターを半分閉め、男の子をおんぶして店を出た。
「どこに行けばいい?」
「あそこの角を右に、次の信号を左」
 しばらく歩いたところで男の子は言った。
「もうここでいいよ。ありがとう」
「ここでいいの?道の真ん中で何にもないじゃないか」
「もう近くまで来たからいいの」
「帰りはどうするの?1人じゃ帰れないだろう?」
「大丈夫」
「大丈夫じゃないだろう」
「……」
「わかった。じゃあここで待っているから目的のところへ行っておいで」
「うん、ありがとう」
 僕はこっそり男の子の後をつけた。どこに行くのか興味があったのはもちろんだが、身体が大丈夫か心配でもあった。

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