小説『365本の花』
作者:STAYFREE()

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 男の子を下した場所から5分ほど歩いた。男の子は両側に色とりどりのあじさいが咲いている垣根の間を進んでいった。階段を数段のぼり、ちょっとした高台に男の子の姿が見えた。
 その場所はお墓だった。男の子が立ち止ったそのお墓には6本の花がかざってある。
 これはあの子のお母さんのお墓なのかな。お母さんは何かの理由で亡くなったのかもしれない。僕は男の子を下した場所に戻り、何も知らない顔で声をかけた。
「用事は済んだ?」
「うん」
「じゃあ帰ろう。」
 戻ってきた男の子の顔は赤みが消えてスッキリしているように見えた。もう一度、男の子のおでこに触ってみると熱はすっかり下がっていた。
「もう、大丈夫。1人で帰れるから」
「元気になったみたいだね」
「うん、今日は本当にありがとう」
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
 男の子が毎日花を買いに来ている理由がわかった。午前のうちにお墓参りに行かなきゃいけないなんて、おばあちゃんからの教えなのだろうか。
 ただ毎日学校にも行かず、体調不良をおしてでも、墓参りを欠かさないのは何か特別な想いがあるのではないか。男の子の事情に深入りする権利などないが、僕はそれが何なのか知りたくで仕方がなかった。
 それ以来、僕は定休日の水曜でも通常の開店時間に店を開け、男の子が花を買いに来るまで営業することにした。

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