小説『365本の花』
作者:STAYFREE()

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 男の子が花を買いに来て3ヶ月が経ったある日のことだった。その日は水曜日。男の子は普段と変わらず花を買いに来た。
 その後、僕は店を閉めて用事を足そうと家とは反対の方向に歩きだした。するとその途中、右手にぼろぼろになった花を持ち、下を向いて泣いている男の子を見かけた。
 あれは――。
「どうしたの?こんなに傷だらけになって」
「同じクラスの子に殴られたんだ……」
 こみ上げる嗚咽の中、男の子は振り絞って声を出した。
「どうして?」
「おまえ、男のくせに花なんかもってどこに行くんだよって。女みたい。バカじゃないのって言われたんだ。僕、許せなくて殴ろうとしたんだけど、逆にやられちゃった……」
「弱いから、僕」
「花、持って行く途中だったんだね?」
「うん……」
 ふと、時計を見た。時計の針は11時30分を示している。
「ちょっと、待ってて、すぐに新しい花を持ってくるから」
 僕は急いで店に戻り花を1本、バケツから抜いて男の子の元へ急いだ。
「これを持っていきなよ。あと20分しかないけど間に合うかい?」
「うん、ありがとう!」
 涙を拭って男の子はお母さんのお墓の方に向かって行った。僕は男の子が走っていった方向と同じ方に歩いて行った。その先にある本屋へと本を買いに行く途中だったのだ。
 でも、男の子は自分の目的を隠している。理由はわからないが気づかないようにしないといけない。そう思い、男の子に見つからないように注意しながらお墓の横を歩いた。
 
 男の子はお墓の前で座っていた。僕が持ってきた花はもうすでに花挿しに挿したようだ。その花を見て僕は不思議に思った。もうお墓に生けられてから3ヶ月が経つ花が、すべて生き生きと咲いており1本も枯れていないのだ。
 誰かが新しい花と交換しているのだろうか?それならば男の子に気づかれてしまいそうだけど。
そして男の子に目を向けると、彼は座り込んで何かの本を読んでいるようだった。表紙のタイトルだけ見えた。
「おはながよぶきせき」
 あの子にとって大事な本なのだろうか?なぜお墓の前で読んでいるのだろう?あの本を探してみよう。そう思って、その場を離れた。

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