小説『くっだんねー!』
作者:()

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きゅうわ―――いなかったよな




「焼きそば完成でーす!」

 子供のような笑顔を振りまきながら椎名は言った、その隣にいる零は深くため息をつく、それもそのはず、あの後、椎名の手伝いと言う名の妨害によって彼の心の疲労と苛立ちはピークに達しつつある。

「おい、紙皿もってこい、よそうからよ」

「はい!」

 元気よく返事をすると、椎名は取り皿のあるほうへと走っていった、1人になった零は近くの大きな石の上に座った。

「料理を作って疲れるのは初めてだ」

 ボーっとしながら空を見上げた、涼しい風が吹き、ぐっしょりと濡れたジャージに風が入り込む。

「焼きそば、おいしそうじゃん?」

 不意に声が聞こえたので、零は見上げた頭を元に戻す、そこには笑顔の栗歌が立っている。

「あー、お前か」

「何よ? その嬉しそうでも嫌そうでもない微妙な顔は?」

「別に、どっちでも無いからな、で? そっちは?」

 そう言うと、栗歌はギクリ、と肩をすくめる、それを見た零は眉を潜めた。

「期待してて頂戴よ、だっけか?」

 フッと表情を綻ばせ零は口端を持ち上げる。

「うっ、それ言われると苦しいのよね」

「なんだぁ? ひっくり返したとかか?」

「それだったら、わかるでしょう? 味が今一なのよね」

 困った様に後ろ髪を掻く栗歌、それを聞いた零は、しょうがねーなと言って立ち上がる。

「ったく、それで俺のところに来たのか?」

「だってぇー、あの腕前を見たらねぇ〜?」

「また仕事が増えたな、ったく」

 そう言うと零は柊のいるほうへ歩いていく。

「おい柊、コンソメどのくらい入れたんだ?」

「あ、朱雀君、えーっと、わからない」

「わかんねーってなんだよ?」

「あ、味が薄いから入れてったら、こうなっちゃった」

 柊が指差した鍋の中身を見て零は顔を歪める、普通は薄い黄金色のはずなのだが、今はドンヨリと淀み鍋の底が見えない。

「お前らの舌はどうなってんだよ、味が薄かったら塩か胡椒だろうが・・・」

「「あ・・・」」

 2人は気が付いたように声を出す、零はその2人を睨んだ。

「お前らぶっ飛ばすぞ?」

「ま、まあまあ落ち着いてよ、原因がわかったんだから」

「〜〜〜っ! もういい、俺が作る」

 零はそう言うと鍋をもう一つ持ってきて、水を入れて少し温める、煮立ったところで淀みスープを半分移した、すると先ほどまで見るのも不快なスープは黄金色を取り戻す。

「おお〜!」

「普通はこの色だ、お前らは2倍近くコンソメを投入しやがって・・・濃すぎだろ?」

 愚痴を放ちながらも、零は手早く塩と胡椒を少量入れ、蓋をした。

「これで煮立ったら完成だ、いいか? 絶対に余計なもの入れんなよ?」

 零は指差し念を押す、柊と栗歌はコクリと頷いたのを見ると、零は自分の持ち場へ向かった。

「零くーん! 何処行ってたんですか? 紙皿持って来ましたよー」

「ああ、じゃあ、さっさとよそっちまうか」

 そう言うと零はヘラを回しながら、素早く並べられている紙皿に焼きそばを滑るように置いていく。並べ終えるとヘラを置き、一息つく。

「こんなものかな?」

「カッコイイですねー」

 その様子を見ていた椎名は横で零のことを上目遣いで見ていた椎名と視線がバチリとあった、零は若干頬を染めると、プイッとそっぽを向く。

「べっ、別に大したことじゃねーよ、それより早くテーブルに運べ」

「あ、それなんですが、2人ほどいないんですよー」

「あ? 誰が?」

「見暮さんと青谷君です」

「あの2人は探索のときもいなかったようなもんだしな、ほっとけよ」

 零は鼻を鳴らし椎名の横を通り過ぎようとした、だが。

「ダメですよ、仲間はずれはいけません」

「はぁ? あのな、あの2人は好きで仲間から外れてるんだろ? 心配する必要なんて無いね」

「班長なんですから、班員に気を使ってください」

「お前が班長にしたんだろうが、勝手にこんなくだらない班長にして後悔してるんじゃないのか?」

「勝手に班長にしたわけじゃありません、それに後悔もしてません」

 零の言葉を聞いた椎名は怒ったような口ぶりに変わる。

「なに怒ってるわけ? じゃあ何で俺にしたんだよ」

「優しいからですよ」

「・・・は?」

 椎名の口から飛び足したのは、一度も言われたことのない言葉であった、その言葉に零は少し動揺した。

「お、俺の何処が・・・や、優しいってんだ?」

「だって、柊君を最初に救ってあげたのは、零君です、それに青谷君も助けたのも零君です」

「何言ってやがる、青谷の時、俺は人を蹴ったんだぞ? そんなのが班長で良いと本気で思ってんのか?」

「当たり前です、班員を助けるのは班長の役目ですから、暴力はいけませんが、零君は自分が正しいと思ったときしか力を使いません、青谷君に突っかかれたときも、自分からは手を上げませんでした」

 椎名は真っ直ぐな瞳で零を見つめた、それは自分の発言に絶対の自信があることを証明しているようにも見えた、その瞳に零は思わずそっぽを向く。

「うっせー、それだけで俺が優しいと思ってんのかよ、馬鹿じゃねーの?」

「はい! 馬鹿ですよ」

 あっさり肯定した椎名に零は目を見開く。

「はあ?」

「でも、私は零君を優しい人だってわかってますから」

「っ! う、うるせえ」

 真っ直ぐな言葉に零の心は少しだけ揺れた。

(何なんだよ、コイツは、知ったような口ききやがって)

 零は心のかなで悪態をつきながら椎名の横を通り過ぎテーブルにまだ温かい焼きそばを置いた、それを見ていた椎名は目を伏せる。

(だけどよ・・・あそこまで言ってくれた奴・・・いなかったよな)

「おい・・・しっ・・・椎名!」

 零の声が聞こえると、椎名は顔を上げる。

「紙皿・・・・・・2つ持ってこい」

 それを聞いた椎名は見る見る笑顔になっていく、それに比例するように零の顔は赤くなる。

「かっ、勘違するなよ! 別にお前に言われたからやるんじゃねーぞ! ただな・・・ただ・・・俺がこのままやらなかったらお前が五月蝿いからだ!」

 最後はかなりやけくそに言いくるめた。

「わかってます」

 そのときの椎名の笑顔を見た零は恥ずかしそうに首筋を掻いた。

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