小説『くっだんねー!』
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はちわ―――なんだ・・・これ?




「まだ焼けないんですかねー?」

 零が鉄板の上に乗っている野菜や肉を炒める横で椎名が呟く。

「いや、まだ乗せてから5分も経ってないけど」

「焼けるの遅いです! 私、薪を持ってきます」

「おいおい、馬鹿言うなよ、火力は十分だっての、足りないのはお前の忍耐力だろうが」

「むー」

 口を尖らせながら鉄板の上に乗る材料とにらめっこ、そんな姿を零は横目で見ている。

「それより、具材乗せすぎじゃないの? 焼きそば作るのに麺より具が多くない?」

 鉄板の上にこんもりと丘が出来ていることを不思議に思った栗歌は零と椎名に尋ねる、焼きそば係はこの2人に任せてあるのだ。

「いや、俺もそう思ったんだけどな・・・コイツが言うこと聞かなくてよ」

 零は椎名を指差しながら言った。

「具材が多いほうがおしいじゃないですかー、だからいいんです」

「・・・な?」

 同意を求めるように零は口を開く。

「そうみたいね・・・ま、お2人さんに任せたから私たちは口出ししないけど」

「そっちはどうなんだ? スープは作れたか?」

「ふふん♪ 期待してて頂戴よ」

「栗歌さーん、ちょっと手を貸してください」

 火にくべられた鍋のあるほうから柊の声が聞こえる。

「あ、柊君が呼んでるから、じゃ、頑張ってね」

 そう言うとニコリと笑顔を作り向こうの方へと走っていった。

「やること無いです、暇です」

「料理は待つことも必要なんだよ、すこし黙ってろ」

「その口ぶりからすると、零君は料理作れるんですか?」

 思わぬところで鋭い洞察力を見せる椎名に少し驚いた零は口を開く。

「まあ、一通りなら・・・」

「凄いですね! 私は冷奴しか作れません」

「豆腐買ってきて、鰹節かけて醤油をかけただけを料理とは言わないだろ?」

「なんでそんなに料理が出来るんですか?」

「話題の切り替えが早すぎるだろ・・・っつーか、まあ、出来ざるを得なくなった、ってとこだろうな」

 少しだけだが、零の表情が暗くなったのを椎名は見逃さなかった。

「どうしてです?」

「あ?」

 椎名が真剣な顔立ちで零に近寄る、零は目を見開き少し後ろへ下がる。

「別に・・・お前にはかんけーねーだろ?」

「気になるじゃないですかー、教えてくださいー」

「うっせー、近寄るな!」

 突進してくる椎名の頭を押さえる。

「ってか、俺疲れたからよ、交代してくれ」

 具材から白い湯気が上がってきたのを見た零は椎名にヘラを渡す、だが。

「ど、どうやってやるんですか?」

 ヘラを渡された椎名はどうして良いかわからず、しどろもどろ。

「はぁ? どうって、それ使って炒めりゃーいいんだよ」

「こ、こうですか?」

 椎名がぎこちない動作でヘラを具材の山に突き刺し、ブン! と振り上げる、必然に具材は宙を飛ぶ。

「ばっ! そんな炒め方あるかよ!」

 零は具材の飛ぶほうに手を伸ばし、何とか具材の塊をキャッチ。

「あち、あちちち!」

 焼け始めた具材はかなり熱い、慌てて零は鉄板の上に戻す。

「てめぇーな〜! そんな雑な調理方法初めて見たわ!」

「ご、ごめんなさい」

 素直に謝る椎名を見て急に零は自分が馬鹿らしくなった。

「ま、まあ、別に戻せたからいいけどよ」

「じゃあ、教えてくださいよー、やり方」

「あ? ったくしょーがねーな」

 そういうと零は椎名のヘラをつかむが、離してくれない。

「おい、ヘラよこせ」

「嫌です」

「お前さ、じゃあどういう風に教えたら良いんですか!」

「私見ているだけじゃ覚えられないんです、だから一緒にやってください!」

「はぁ?」

 と、言うことで。

 椎名の後ろに回り、椎名が持っているヘラを一緒にもち、具材をかき回す、傍から見たら零が椎名に抱きついているようにも見えなくは無い、なんせ体が密着しているのだから。

(なんだ・・・これ?)

 おかしいことに気づいた零は心の中で問いかける。

「うまいですねー、零君」

「お、おう」

 チラリと周りを見ると、案の定周りの生徒はニヤニヤしながら小声で話し始める。

「あの2人何してるの?」

「まさか、付き合ってんのか?」

「大胆じゃない? あんなの?」

 そんな会話の小耳に挟んだ零は顔を真っ赤にし、恥辱に震える。

「てめぇーら! こっちみてんじゃねー!」

 ヘラを振り回しながら回りに睨みつける、それに驚いた生徒は視線を外す。

「ったく、てめぇーの所為で変な目で見られたじゃねーかよ」

「そうですか?」

「お前・・・そう言うところ鈍感な」

 零はため息を漏らす。

「おい、お前はソースと麺もってこい」

「あ、はい! わかりました」

 そう言うと椎名は駆け足で材料の揃っているほうへ駆け出していった、その間零は1人で具材をかき回す。

(ったく、あいつの所為でへんなことばっか起こりやがる・・・)

 悪態をつきながら、零は怒りを具材にぶつける、けれど。

(けど・・・なんつーか・・・・・・なんだろうな? これ)

 怒りはあるが、心の底から湧き上がる怒りではない、清清しさのある怒りと言うか・・・何と言うか。

「零くーん、これで良いですか?」

「あ? ばっ! 抱え込むほど誰がもってっつたんだよ! ソースも! 誰がそんな大ボトルで持ってこいっつった!」

「いいじゃないですかー 沢山あるほうが美味しいですし」

「周りのことを考えろ、6人分で良いんだよ、戻して来い!」

(やっぱり気のせいだ!)

 奥歯を鳴らしながら零は思った。

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