小説『くっだんねー!』
作者:()

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じゅうにわ―――好きだったんですね!



「零君! 事件です!」

 いつもの様に机に這い蹲るが如く眠っている零の耳元で大きな声が響く、余りのことに零は一瞬とびはね、椅子から転げ落ちる。

「いっつー! 椎名ぁ! テメェうっせーんだよ、ゆらしゃ起きるっつーの!」

 声がエコーする頭と打ちつけた肘を押さえながら零は椎名に怒鳴る、だが当の本人はそんなこと眼中にない様子。

「そんなのどうでも良いです! それより大変です!」

「何がだよ」

 零が不機嫌そうな表情をしながら慌てる椎名に聞く。

「あと2日で中間テストがあるんです! 大変ですよー!」

「大変なのは今の今まで気がつかなかったお前の脳内だろうが、まー俺はどうでも良いけどな、テストなんて」

 そういいながら零は机に頬杖をつく、それを来た椎名はビックリしたように目を見開く。

「なんだよ・・・なんか変なこと言ったか?」

「いつも寝ているのに、零君は大丈夫なんですか?」

「まあ、大丈夫だろうな、普通にやれば取れるだろ、そういうお前はどうなんだよ? まさか眼鏡かけた馬鹿だったらお笑いだけどな」

 零はニヤリと笑いながら椎名を見る、それは零にとってはほんの冗談のつもりであった、だが。

「私全然わからないんですよ〜! 零君助けてください!」

「はぁ!?」

「私まったく勉強できなくて・・・困ってるんです!」

「ふーん、馬鹿なんだ」

「キャンプのときも言ったじゃないですか〜」

「あれは違う意味でだよ、まさか全面的に馬鹿だとは思ってなかったけどな・・・」

「だから助けてくださいよ〜」

「知らん、まぁ、せいぜい頑張りな」

 零はそう言うとまた机に突っ伏す、だが、暗闇の前方から視線が突き刺さっているような感覚がいつまでたっても離れない、最初はシカトし続けていたが、その後ずっと視線を感じる、最後には零が根負けした。

 恐る恐る顔を上げると、ジーーーーーーーっと見てきている椎名、彼女の目は助けてくださいとうったいかけるような視線。

「しつけーぞ? 知らねーもんは知らねーんだよ、それもこの学校は30切ったら赤点だろ? そうそう取りはしねーよ」

 と言ったのだが、椎名は蛇のようにしつこい、このままいられてはストレスが溜まるだけである。

「わーった、わーったからその視線を止めろ! ったく、少しだけだぞ」

 すると椎名の顔は見る見るうちに明るくなっている、モアイ像の真面目顔から天使の微笑へと移り変わったようだ。

「ありがとうございます!」

 その笑顔を見た零は、心外にも悪い気はしなかった。




―――その後。

 夕日が斜めから差し込んでくる教室の中、4人の人影が教室に残っている。

「さあ! 始めましょう!」

 元気にガッツポーズをした椎名を零はため息をつきながら見ている。

「どうしたんですか? 深いため息なんてついて?」

「ため息をつきたくもなるわ! お前は俺以外にも誘ってたのかよ!」

「そうですよ、だって皆がいないと楽しくないじゃないですかー」

「勉強は楽しいもんじゃねーよ、ばぁーか」

「まあまあ、喧嘩はよしなって、私もわからないところあるからさー、椎名さんに誘って貰って感謝してるんだよね」

 零の右隣に座っている栗歌が笑いながら言った。

「僕も数学がわからないから、誰かに教えてもらおうかなーって」

 零の左隣に座っている柊が数学?を見つめながらため息をついた。

「頭がいい青谷君も誘ったんですけど、無視されてしまって、無理でした」

「俺は無視したのに随分しつこかったよな?」

 零は椎名を睨むが彼女はそれとなくその視線をかわす。

「じゃあ、最初は一番苦手な倫理から行きます!」

「一番眠くなる教科からやんなよ」

「一番不安なんですよー」

「まあ、誘ってくれたのが椎名さんだし、いいんじゃない?」

 栗歌がバックから倫理の教科書を取り出す、仕方なく零も机の中から倫理を取り出す。すると椎名は教科書を持ちながら口を開く。

「じゃあ、問題です、人間は生物学上□(知性人、叡智人)、すなわち秀でた理性を持った動物である、四角に入る言葉は何でしょう?」

「ホモ=サピエンスだな」

 零が面倒くさそうに答える、その答えに柊と栗歌も同時に頷く。

「じゃあ、次です、人間の理性を道具の製作と捉えたベルクソンはこのような人をなんと呼んだでしょうか?」

「ホモ=ファーベル」

 淡々と答える零に柊は少し驚いたようだ。

「凄いね朱雀君、いつも寝てるのに」

「あー、まーな」

「つ、次です、人間の理性を遊びと考えたホイジンガはこのような人間をなんと呼んだでしょう」

「ホモ=ルーデンス、っつーか、お前の勉強会だろうが、俺が答えて意味ねーだろ?」

 2問目ぐらいからおかしいと気がついた零は椎名に抗議するが、椎名は驚いたように目を見開く。

「私、やっとわかりました」

「あー、よかったな、じゃあ次の教科やれよ」

「違います、そういうことではありません」

 そう言うと椎名は眼鏡をクイッと上げ零を指差す。

「零君! 実は男の人が好きだったんですね!」

 それを聞いた零は一瞬彼女が何を言っているのかわからなかった、暫くするとその意味がわかった。

「はぁああああ!? おまっ! そんなわけねーだろ!」

 机から立ち上がり零は椎名に怒鳴る。

「だってさっきからホモ、ホモって何なんですか?」

「テメェーがそう言う答えの問題を出したんだろうが!」

 柊も栗歌も困ったような表情、だが、一番困っているのは零である。

 そんな妨害だらけの勉強会はすんなり進むはずもなく、終わったのは日がとっぷり暮れた7時であった。

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