小説『くっだんねー!』
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じゅうよんわ―――きっと!




 電車のホームで耳にイヤホンをつけている零の姿が目に入った。

 流れる音楽は最近のポップミュージック、この前レンタル店で借りたものを入れたのだ。

「くあ〜、ねみ」

 大きく欠伸をしながら文句を言うように呟く。

 今日は校内初めての中間テストの日、周りに見える1年の生徒は手に教科書や、ノートを見ながら自分の脳内にインプットされている情報の最終確認をしている。

「1時間目は確か・・・あいつの嫌いな倫理か・・・」

「そうなんですよー、困っちゃいますよね〜」

「うお! しっ、椎名? お前こっち方面じゃないのに何でここにいるんだよ!?」

 突如真横に現れた椎名に零は驚きの声をあげる、それもそのはず、零と椎名は駅こそ同じだが、住んでいる方面が違う、零は下り、椎名は上り方面であるからだ。

「いや〜、それがですねー、ずっと倫理の教科書を見ていたらいつの間にか学校の駅、過ぎてたみたいです」

「馬鹿だろ? それでこの駅で降りたってことか?」

「はい! そういうことです」

 はぁ、と零はため息を漏らす、どうも椎名の行動は零自身読めない、それどころかそれを上回るほどの馬鹿げた行動を起こすのが彼女だ。

「・・・それより、電車遅いですねー」

 チラリとホームの奥を覗く、確かに既に電車が来てもいい時間だ、しかし5分ほど遅れている。

「そういえばそうだな・・・人身事故でも起きたか?」

 零がそう言ったとき、駅のアナウンスから声が聞こえる、どうやら運転トラブルが起きたらしい。

「大変ですよ! これじゃあ試験に間に合いません!」

 椎名は慌てた様子だが零は。

「落ち着けって、この電車はほとんどの生徒が乗ってくるんだ、その電車が止まったとあっちゃー、学校側も試験の時間をずらしてくれんだろ?」

「なるほど、じゃあ大丈夫ですね」

「それより、お前大丈夫なのか? 昨日も倫理の勉強をしたが・・・まったく出来て無かったよな?」

「今日は大丈夫です、完璧に覚えました!」

「ふーん」

 そんな会話を続けていると、15分も遅れて電車がホームにたどり着いた、窓越しに電車の中を覗いた零は目を見開く。

 電車内はギリギリは入れるか入れないかの瀬戸際、詰め込むだけ詰め込んだおもちゃ箱のような惨劇である。

「これ、入れるのか?」

「入るしかありません、行きましょう」

 威勢よく椎名は人ごみの中へ進んでいく、それに続くように零も椎名の後ろに続く。

 電車内は外で見るよりも、酷いものだ、インドでは乗車率120%と言うが、それに匹敵してしまうのではないかと思うほどである。

「椎名! 降りる駅は反対側の扉だからもっと置く行け!」

 何とか乗車に成功した2人は人ごみ押し分け奥へと進んでいく、時折男の肘うちやらおばさんのケツアタックなどの妨害に合いながら、何とか反対側のドアの前に到着。

「とりあえず一安心だな」

「はい!」

「・・・っつーか、ちか!」

 目と鼻の先に椎名の顔が目に入る、流石に零でも顔は赤くなる。

「あれ? どうしたんですか? 顔が赤いですけど?」

「うっせー」

 何とか誤魔化す。

 だが次の駅でとんでもないことが起こる。

 15分も遅れたのだ、他の駅でも大混雑しているのは火を見るより明らか、と言うことで、次の駅の乗客が次々と乗り込んでくる、必然的に零と椎名の距離も縮む。

(やべぇ、やべぇってこれは!)

 零は脳内で警告信号を鳴らす、それもそのはず既に零と椎名の距離はゼロより少しプラス程度だ、これ以上接近してしまったら、間違いなく密着してしまう、それだけは避けたい、だが、乗客は次々と乗り込む。

 零は何とか椎名とのスペースを開けようと扉に両手を突き少しでも間隔をあける、それでも付け焼刃にしかならないが仕方ない、今はこれしか方法が無い。

「大丈夫ですか? 苦しそうですけど?」

 そりゃそうである、いまや押している乗客の力は零の腕に集中している。

「そりゃ、きちいに決まってんだろ」

 フルフルと震える両腕。

「でしたらこの腕を離せば良いじゃないですか」

「こういうところで余計なこと言うんじゃねーよ! ここで俺が腕を離したら大変なことになるだろうが!」

「? 何が大変なんですか?」

 それは男子諸君にはいえないことである、よって零は口が裂けても言えない。

「兎に角! 大変なんだよ!」

 その時、車両が急にカーブに差し掛かったため、全体の重さが零にのしかかる、さしもの零もこれには無理がある、限界を超えた零は腕を折り曲げる。

「うがっ!」

「むぐっ!」

 前者が零、後者が椎名。

 零は不可抗力により椎名にピッタリとくっつく、それだけでは勢いは殺せずドアに額を打ち付けたためこのような声。

 椎名は零の胸に顔をうずめる形となったためこのような声になった。

 カーブが過ぎると電車内は元に戻る、だが、既にくっついてしまった2人。

「わ、わりぃ、大丈夫か?」

「はい、だいじょうぶです、眼鏡も」

 零はなるべく椎名を直視しないよう心がけた、なんと言っても密着だ、体のラインさえ感じ取れてしまう。






―――数分後。

 何とかあの地獄のような電車から生還した零と椎名。

「学校行く前に疲れたな」

 乱れた制服を直しながら零はため息をつく。

「そうですか?」

「お前は疲れてないのかよ? あんな目にあって」

「いえ、少し疲れはしましたが、楽しかったですよ」

「はぁ? あれが楽しいとかどうかしてんじゃねーのか?」

「そうですかね?」

 椎名は首をかしげる。

「多分、零君がいるから楽しいんですよ! きっと!」

 椎名はそう言うとニコリと笑った。

「ばっ、ばかじゃねーの? ほらさっさと行くぞ」

 零は少し恥ずかしそうにそっぽを向くと椎名を抜いて改札のほうへと向かっていった。

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