じゅうななわ―――ちゃっちゃと片付けて帰るぞ
暫く尾行を続けていると、次第にごった返す人は少なくなり、あちこちに目をぎらつかせる不良達が見て取れる。
「あいつ、こんなとこに何の用があるんだ?」
「だからー、迷子って言ってるじゃないですかー」
「お前はいつになったら自分の言動を疑うんだよ!」
フルフルと握りこぶしを震わせながら零は低い声で言った。
「おい! そこのカップルよー、こんなとこに来ていいと思ってんのか?」
不意に道を塞ぐように大柄の男が立ちはだかる。
「あ、ちょっと退いてください! 見えないじゃないですかー」
男の影で青谷の姿が隠れ椎名は慌てて男の横を通り過ぎようとするが、男は椎名の細い腕を掴むと自分の方に引き寄せる。
「ほぉー、コイツはなかなかの上物だな、どっかに売り払ぱが!」
男がにやけながらそのようなことを言っていると、不意に男の腹に蹴りが叩き込まれる、男は情けない声を発しながら地面に倒れこんだ。
「うぜー、道を塞ぐんじゃねーよ」
既に気絶している男にそういいながら椎名に目線を移す。
「ここらはこういう奴ばかりだ、あんまり先に行くな、最近このあたりに通り魔事件もあったみたいだからな・・・」
「大変です! 青谷君がいません」
「俺の話し聞いてたか?」
「何のことです?」
「・・・なんでもねー」
いつものことだとわかっていてもやはり無視されるというのは虚しいものがある。
「それより何処いったんでしょうか?」
「別にもう良いだろ? 見失ったんだからよ」
「ダメですよ! 迷子を放って置いて良いんですか?」
「テメェいい加減気づけ! あいつは迷子じゃねー、何か理由があってここに来たんだよ!」
「え! そうだったんですか?」
「くだんねー」
彼女との会話は物凄くストレスを感じる、零は深くため息をついた。
「兎に角、見失っちまったんだからもう諦めろ・・・って、勝手に行くんじゃねー!」
すたすたと先へといってしまう椎名を零は追いかける。
(このイライラをどこにぶつけりゃー良いんだよ!)
そう心の中で叫びながら。
それから数分後。
何処を探しても見つからず、既にくたびれた椎名は近くの石段に座っている。
「何処行っちゃったんですかねー、青谷君」
足をぶらぶらさせながら独り言のように呟く椎名。
「もう帰ったんじゃないのか?」
「それはありませんよ」
「んでわかんだよ?」
「野生の感と言う奴です」
「お前に備わっているとは到底思えねぇよ」
「もう少し探してみましょう!」
そう言うと椎名は立ち上がり、ワンピースについた砂を払い落とす、それを聞いた零は。
「もう良いだろ?」
「良くないですよー」
「もうやめとけ、これだけ探してもみつからねーなら、もう意味ねーだろ?」
「そうですけど・・・」
正論が通ったのか椎名は少し俯いた、それを見た零は口を開こうとしたとき、不意に通りかかったチャライ2人組みの会話を小耳に挟む。
「おい、見たかよあれ」
「あー、ヤベーよな、あの高校生・・・死んじまうよ」
「おい、そこのチャラ男2人」
零はその2人の首根っこを掴むと自分の下に引き寄せる。
「な、なんすか〜、オレたち金持ってないっスよ〜」
慌てながら2人のチャラ男は両腕をブンブンと振る。
「今の話・・・詳しく聞かせろ」
「え? い、今の話ってなんスか〜?」
「お前らは脳みそはいってんのか、今の話を聞かせろってんだよ」
凄みを利かせた零の声で2人は怯えながら先ほどの話を手早く話す。
「なるほど・・・そういうことか」
「どういうことなんですか?」
「いや・・・お前は知らなくてもいい」
「こ、これでいいっスか?」
ビクビクしながらチャラ男は零を見つめる。
「あ? ああ」
零が承諾すると2人のチャラ男は物凄い勢いで走って行きあっという間に見えなくなった。
「さて・・・椎名、行くぞ」
そう言うと零はクルリと身を翻す。
「何処にですか?」
「はぁ? 決まってんだろ? 青谷の所にだよ」
「え?」
椎名は驚いたように目を丸くする、零は鼻を鳴らすと口を開いた。
「このまま帰ったらお前が五月蝿そうだからな、この件ちゃっちゃと片付けて帰るぞ」
そう言うと椎名の表情は見る見る明るくなっていく。
「はい!」
椎名は先へ行く零の後に付いていった。