小説『くっだんねー!』
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いちわ―――さぁぼってもバレネ。



「えー、であるからでございまして―――、だからと言うと―――、何故―――なのかと申しますと―――」

(いつまで喋ってんだよ、糞校長が、誰も聞いてねっつんだよ)

 居心地悪そうにパイプ椅子に座っている零(れい)が体育館のステージの上で長々と喋っている校長を睨みつけながら思った、頭はストレスか食生活のせいかわからないが、脂汗に塗れテカテカと光り、豚のような鼻からはマイクを伝いは鼻息が聞こえ、口からは唾が飛び、なんとも汚らしい。

「えーこれを持ちまして、私の話は終わらせていただきます」

 かれこれ一時間チョイ、この長い校長の話を聞かされ、やっとのことで終わりを告げた、この話すら、始業式のプログラムに組み込まれているのだから考えた人は素晴らしい。

(やっと終わった)

 ため息交じりに零は息を吐く、やっと帰れる、始業式がある日は学校はやらず、これが終わり次第帰宅だ。

「えー、続きまして、白清高校の会長のご挨拶に移ります」

 アナウンスが体育館に響き渡る、生徒はガヤガヤと騒ぎどよめきが体育館に響きわったった。

「〜〜〜〜ッ!!!」

 奥歯をかみ締め何とかパイプ椅子を投げつけたいという葛藤から自分を突き放す、本能で行動してしまえば始業式初日で退学を喰らうかもしれないからだ。

 白清高校の会長はなんとも爽やかでめがねをかけた、美男である、端に座っている奥様方は口々に美しいと、ほめの言葉を広める。

(くだんねー、いい加減にしろよ、ったく)

「今日は白清高校の始業式にお集まりいただきありがとうございます、ここから見ますと、皆様お疲れの様子、私からはおめでとう、の一言でお礼の言葉を終わらせていただきます」

 男はそう言うと軽く会釈をした、周りからは喜びの声がボソボソと聞こえる、零は詰まらなそうに、ステージから降りるその男を目で追った、すると、男はこちらをチラリと見ると、口の端を少し吊り上げた。

(なんだ? あの野郎?)

 零が男を目で追おうとしたが、既に男は席に着き、生徒の頭でもう見ることが出来なくなっていた。

「えー、これも持ちまして第75回、白清高校始業式を終わりにいたします、皆様御起立願います―――」

その後―――

「よう、ゼロ、始業式どうだったよ!」

「どうもこうもねぇよ、糞校長の話長すぎる」

 駅の出口で零は中学唯一の友達、蔵野 真悟(くらの しんご)に出くわした、偶然かと思っていたのだが、彼が缶コーヒーを自分に投げつけたところを見ると、待っていたのだと検討が付いた、缶コーヒーは季節はずれの猛暑でびっしょりと汗を掻いている。

「で? 必然的に受かった白清高校の第一印象はどうでしたかな?」

 缶コーヒーを空け中身を一気に飲み干しながら蔵野は聞いた、零はため息をつきながら話す。

「どうもこうもね、くだんねーよ、くっだんねー」

「お前いつもそれだな、何かとくだらねえで片付けるなよ、言葉のボキャブラリーが無さすぎ」

 フンと鼻で息を鳴らしながら零は飲み終わった缶コーヒーを蹴飛ばした、缶は綺麗な放物線を描き、近くの公園のゴミ箱に入った。蔵野はと言うとその辺の林の中に投げ捨てた。

「面白く無さそうだ、どいつもこいつも真面目そうな奴ばかり、たちの悪い不良は幾つかいるが、余裕だな」

「おいおい、喧嘩はもうやらないんだろ? 去年の大虐殺から改心したんじゃないのか?」

「誰一人殺してねぇよ、ばーか」

 白い歯を見せて零は笑う、だが、蔵野は笑わず零を見ているだけである。

「どうした? 何か不満か?」

「そうじゃねーんだけど、くだらねえなら何で白清なんかに入ったんだ?」

「はっ、そんなことか、単に喧嘩をし無さそうなとこはいったんだよ、あそこなら、喧嘩なんざしないですみそうだからな」

 零は眠そうに欠伸をしながらそう言った、だが、零の目はどこか寂しげでもある。それをわかっていながらも蔵野は笑う、長い付き合いだ、これくらいのことは時間がたてば話してくれるだろう、そう思いながら。

「あ、じゃあ、俺、バイトあるから・・・じゃあーな!」

「ん? バイトだ? そこのコンビニか?」

 零は視界に入るありきたりなコンビニを指差す。

「そっそ、自給もまあまあ高いし、さぁぼってもバレネ」

「そうかよ、せいぜい頑張りな、じゃーな」

「ああー、じゃーな」

 ニコリと笑いながら零は自分の家へと帰っていく、明日から学校、そう考えるだけで面倒くさい。

「くだんねー」

 頭上で輝く太陽を睨みながら零はボソリとそう言った。

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