にわ―――間違ってますよ。
翌日―――
「ねみ」
大きく欠伸をしながら零は校門に入る、白清高校は自分の家から電車に乗り15分、歩いて30分と割かしいい運動になるコースである、自然も多く、何より校庭が広い。
全校生徒を集結させてもまだ、余裕で場所が開いている、ようは田舎だから、土地の値段もそう高くは無いのだ。
「ほらほら! 登校時間後二分だぞ! 早くしろ!」
校門の外にいるが体の良い先生が声をあげながら校門の柵を動かし始める、すると次々に息を荒げた上級生たちがすり抜けるように入っていく。
(俺の時とは偉い違いだな)
柵が完全に閉められた校門を見ながら零はそんなことを思った。
所々黒ずんでいる校舎に入り、3階へと上がる、零は1−A。
自分の教室を見つけ、零は扉を開け中に入る、すぐさま他の生徒が自分に目線を移す、だが、知らない奴だとわかった途端目線を外す、中学の頃の友達がいるグループは、楽しそうに喋っているが、それ以外はまだ慣れないのだろう、押し黙っている。
(静かだ)
零はビックリしたように目を見開いた、中学のとこは五月蝿くなかったことなど無かった、むしろ騒いでいるのが普通であったからだ、その違いに零は驚いた。
さて、次は自分の席を見つけなくては・・・あらかじめ持っておいたクラス分け票を見ながら自分の席を探す、この教室は全部で36人、席は縦6横6である。
朱雀(すざく)零、12番、とクラス分けの票に書いてある。
廊下側の左から2番目、一番後ろだ。
(ラッキー)
些細なことで少し幸福を感じた零は自分の席に向かうが、既にそこは先客がいる、髪を少し茶色に染め周りとくっちゃべっている、いかにも面倒くさい雰囲気が漂っている、だが、話しかけないことには始まらない。
「なあ、そこ、俺の席なんだけど」
零が話しかけると、その席に座っている茶髪がこちらを睨む。
「あ? ああ、ここの席? 悪いんだけどー、変わってくんね?」
「は?」
「いやいや、は、じゃ無くて・・・俺の席一番前だからさー、面倒くさいんだよ、だから、お前行ってくんね?」
そう言うと茶髪は次の列の一番前の席を指差す、どうやら自分の次の出席番号の奴らしい、名前は興味もわかないが、佐久間 豪(さくま ごう)と書いてあるクラス分けの票に、だが、零はこの席を譲るつもりは無い、また喋り始める豪に向かって零は口を開く。
「生憎、席を譲るつもりは無いんでね、退いてくれないか?」
「チッ、五月蝿い奴だな、死ねよ」
話を中断された豪は不機嫌に舌を鳴らす、そこまでならまだ良かったのだが、彼の口から出た、死ねよ、は零にとっては禁句である。
バガァァァァン!!!
教室で大きな音が響き渡り皆いっせいに音の方へ目を向ける、豪は一瞬何が起こったかわからなかった、世界が一瞬にして反転し逆さまになったのだ、その直後背中に鈍い痛みが走り、自分は席ごとひっくり返されたことに気づく、零を見ると右足が上がっていた。蹴りで席をひっくり返したのだろう。
「どけ、最後の警告、聞くか聞かないかはお前次第だ」
面倒くさそうに豪を睨みながら零は言った、その目は獣の目、零の周りからは殺気が漂う。
「うぜ」
豪は立ち上がり、すれ違いざまにボソリとそう言った、だが、零はそんなことなど気にせず、吹っ飛んだ椅子を取り、元の席に座る。
周りを見るとほとんどの生徒が零の視線を避けているように見える。
だが、そんなことはどうでも良かった、なぜなら自分の前の席の女子がこちらをジッと見つめていたのだから。
「な、なに?」
「今の、なんですか?」
フレームレスのめがねをかけ、髪を後ろで一括りにした女子がそんなことを言った。
「は? 今の? ただ蹴りで椅子を蹴っ飛ばしただけだけど?」
「足、痛くないんですか?」
「あ? さっきの質問はもう良いのか?」
「質問に答えてください」
「・・・痛くねえよ! だからなんだ?」
「じゃあ、次の質問です。何か習い事してました?」
「・・・ちょっと待て、ちょっと待て」
「質問に答―――」
「ちょっと待てっつてんだろうが」
ドスの効いた声でその女子に言った、大概ならこれでほとんどの奴は黙る、だが。
「そうですか、質問に答えたくないんですね、じゃあ次です、握力は幾つですか?」
椅子から落ちそうになるのを堪えながら、零は額に汗を掻く。
(なんだ? このふざけた女は?)
「早く答えてくださいー」
そんなことを思っていると目の前の女子がじれったそうに言った、零は自分の持っているクラス分けの票に目を通す、この女は何者か、それが知りたかったのだ。
(椎名 春葉(しいな はるは)・・・か)
って、そんなことはどうでもいい。
「お前のくだんねえ質問に答える気は無い、早く前を向け」
「・・・・・・」
目を細めながら零は冷たくあしらった、これで話しかけることは無くなるであろう。
「ぷふふ」
「!?」
すると驚いたことに椎名は震えながら笑っている。
「何がおかしい?」
「だって、くだんねえじゃ無くてくだらないですよね、日本語、間違ってますよ?」
「このッ!」
零は机を蹴り上げようとしたが、その時、教室の扉が開き先生と思われる男が入ってきた、なんとも弱そうな奴である、少し手が震えているようだ。
だが、なにはともあれ、先生の出現により机をぶっ飛ばさずに済んだそれだけどもよしとしよう、今は前を向いている椎名を零は暫くの間見ていた。
なんかこう・・・他の奴とは違う雰囲気を放っているのは気のせいであろうか?