じゅうきゅうわ―――仲良くしてあげて
「立てんのか?」
零は仰向けに倒れている青谷に声をかける。
「うっせー」
青谷はそう言うと、少しふらついてはいるが、ちゃんと立ち上がった、どうやら骨は無事らしい。
「・・・じゃーな」
そう言うと青谷は少し足を引きずりながら倉庫を後にする、その後姿を見る零と椎名は顔を見合わせた。
「どうすんだ?」
「決まってます」
「だろうな」
椎名の目を見ればどういうことか直ぐに理解が出来た。
青谷が歩くペースで零と椎名は彼の後ろに付く、当然彼に悟られないようある程度距離は保ってある。
暫く青谷の後ろをつけていると、大きな総合病院に着く、青谷はその中に入っていった。
「病院? なんであいつがあんなところに?」
青谷が入っていった理由がわからず零は首をかしげる。
「青谷君どこか悪いんでしょうか?」
「それはねーな」
隣にいる椎名の言葉を零は即決否定する。
「何でわかるんですか?」
「わかるっての、怪我はしてるがあいつは健康体だ、こんなデカイ病院に行くなら見舞いだろうな・・・・・・見舞い?」
零は今自分が行ったことを復唱する、今何かが繋がった気がした、気のせいではない。
「どうしたんですか? 零君?」
「いや・・・なんでもねー、それより行くぞ」
零はそう言うと病院内へと入っていく、周りを見回すと視界にチラリと青谷が入り込んだ、ちょうどエレベーターに乗ったところだ。
零は青谷が乗ったエレベーターの前に行き青谷が行き着いた階を見る、3階だ。
零と椎名は看護婦の目を掻い潜りながら、3階へと上っていく、そこにつくと零は壁にかけてあるホワイトボードに目を通す、暫くすると青谷 加奈子(かなこ)と書いてある部屋を見つけた。
「あ、ここですね、入りましょ―――」
「どうしたのよ! その傷!」
椎名が部屋に入ろうとした時、部屋から驚いたような悲痛な声が聞こえたため、零は椎名を止める。
「いや・・・少し喧嘩してよ」
「ダメって言ってるじゃない! 退学になったらどうするの? もう子供じゃないんだから」
「でもよ、姉ちゃん」
シュンとしたような情けない声を出す青谷、それを聞いた零はクククと笑う。
「でもじゃない、わかった?」
「・・・わかった」
「それより、外にいる2人は兼斗の友達?」
青谷の姉の言葉を聞いた2人はギクリと肩をすくめる、それを聞いた青谷はビックリしたように目を丸くすると部屋の外に出る、そこにいた零と椎名を見てまたビックリ。
「て、テメェら・・・なんでここに?」
「いや、椎名が「零君がどうしてもっていうから」」
「おい、勝手に俺に罪を擦り付けんな!」
「零君だってそうじゃないですかー」
「俺はしょうがなく付いてきてやったんだよ」
「どっちにしろ付いてきて来たことにかわりねーだろ!」
2人のやり取りに青谷がツッコム、それを傍らで見ていた加奈子はクスリと笑うと口を開いた。
「ねぇ兼斗」
「あ? なんだよ姉ちゃん」
「喉が渇いたから何か買ってきてくれないかな? お金は出すからさ」
「あ、いいって俺が出すから、何が飲みてぇんだ?」
「うーんと、近くのコンビニにあるカフェオレが良いな、お願いできる?」
「おう!」
青谷はそう言うとエレベーターのほうへと駆け出した、途中静かにお願いしますと怒られていたが。
青谷の姿が見えなくなると、加奈子は零と椎名に視線を移す。
「こんにちは」
加奈子はニコリと微笑むと零と椎名に軽く会釈をした、つられて2人も頭を下げる、目を見張るほどの整った顔立ちの彼女の周りは神聖な雰囲気が漂っている。ただ、頭に包帯が巻かれていることに零は少し思い当たる節を感じた、だが、今は口に出さない。
「どうも」
「こんにちはです!」
「お前言葉おかしいだろ?」
「え? そうですか?」
「フフッ、面白い子達ね・・・えっと、単刀直入に聞きたいんだけど? あなた達は兼斗の友達?」
「はい! そうです」
零が口を開く前に椎名が答えた、零は否定しようとしたが、ここは黙って口を閉じる。
「そう・・・兼斗が友達をね」
目を細め優しい微笑を2人に向ける。
「見ての通りわかると思うけど、私は通り魔に襲われてこんな状態なの」
(だからか・・・青谷が通り魔に1人で乗り込んだのは)
やっと合点がいった零は心の中で頷いた。
「親は10年前に交通事故で亡くなって、その所為で青谷は1人でいるようになったわ、友達も作らないで1人で私の後に付いてきてくれたの、でも、心配だった、私がいなくなったら兼斗はどうなってしまうか、とっても」
加奈子はそう言うと目を伏せる、暫く沈黙が続くと彼女は不意に顔を上げた。
「ごめんなさいね、勝手にベラベラと喋ってしまって、でもあなた達が兼斗の友達って言ってくれて嬉しかったわ、これからは私以外に頼れる人がいるんだから・・・ぶっきら棒で気に食わないところもあると思うけど、仲良くしてあげて」
そう言うと加奈子は零と椎名に深く礼をした。
「姉ちゃん! これで良いか?」
その直後病室の扉が開くと青谷がカフェオレを片手に入ってきた。
「あ・・ありがとう」
「どうした? 目が潤んでるけど?」
「え!? あ、ううんなんでもない」
「そっか? じゃー俺、この後勉強あるからまた明日な?」
「うん」
青谷はそう言うと1人で病室を出て行こうとする、するとすかさず零の手が青谷の肩に伸びる。
「なんだよ」
「いや、実はな、帰り道がわからねーから教えてくんねーか?」
「あ? なんで俺がテメェーなんかに・・・」
「いいから行くぞ」
青谷の言葉に聞く耳を貸さず零は青谷を引っ張っていく。
「テメ! 離せ!」
「あ、待ってくださいよー」
椎名は加奈子に一礼をすると零を追いかけた。
―――翌日、学校にて。
「大変です! 零君!」
「またかよ・・・今度は何だ?」
机にうつ伏せのまま面倒くさそうに零は言った。
「一斉に返されたテストなんですけど・・・」
「あー」
「倫理がですね」
「んー」
「11点でした」
「・・・・・・はぁ!?」
暫くの沈黙の後零はガバッと上半身を起こす、零は椎名が持っている答案用紙を奪うように取り上げると、目を通す。
バツバツバツ・・・・・・・間違いばかり、どれも聞いたこと無いカタカナが並べられている、唯一当たっているのは記号問題だけ、これも大部分勘であろう。
「お前よ、あれだけ勉強してこれしか取れないって・・・どういう脳内してんだよ!」
「どうしましょうか・・・明日の放課後追試らしいんですよ・・・」
「知るか! 付き合ってられねーよ」
「私は零君と付き合ってません」
「そういう意味じゃねーよ!」
「やれやれ・・・五月蝿い奴らだな」
ギャーギャー騒いでいる2人に青谷が近づき馬鹿にするように呟いた。
「なんだ青谷、いたのか?」
「あたりめーだ」
「何の用だ?」
「別に、ただ、テストが終わったにも関わらず騒がれるとこっちも迷惑なんだよ・・・だから」
そう言うと青谷は零が持っている椎名の答案用紙を取り上げた。
「俺様が直々に手伝ってやるよ」
「本当ですか!?」
「ああ、8割取れるようにしてやる」
「ありがとうございます!」
零は少し口を尖らせながら青谷を見ていた。
「まーよかったじゃねーか、天才の家庭教師が付いて・・・せいぜい2人で頑張りな」
零は机に頬杖を付きながら欠伸をかく。
「何言ってるんですか、零君も残ってください」
「はぁ? 何で俺が残らないといけねーんだよ」
「だって、点数が取れなかったのは零君の所為じゃないですかー」
「テメェよ! あんなふざけた勉強方法で取れる奴がいたら天才だってーの!」
「ほっとけ、いつもグースカ寝てる奴と一緒に勉強しても効率が落ちるだけだ」
この言葉に零は少しばかりカチンときた。
「おい青谷、テメェあんま調子乗るなよ?」
「事実だろう?」
「くだんねー」
学力は青谷が上だけに余りデカイことが言えない零であった。
お・ま・け。
翌日の追試結果。
「やりましたよ! 31点です!」
「おい青谷、8割とかほざいてなかったか?」
「あ、ありえねー、あいつの記憶力は鶏以下だぞ・・・」