小説『くっだんねー!』
作者:()

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にじゅうわ―――早いもんだな




「では、夏休みは勉強をサボること無いよう、気をつけてください、以上です」

 先生の話が終わりHRは終わった、明日から待ちに待った夏休み、皆は先ほど聞いた話など聞く耳すら持たず、明日の予定や何処に遊びに行こうかなど話し合っている。

「さてと・・・」

 零は気だるそうに髪を掻くとカバンを片手に立ち上がる、部活動も彼は入ってはいないため、直ぐに帰路に着くのだ。

「零君! 一緒に帰りましょー」

 すぐさま飛び込んできたのは椎名、それを零は一瞥すると横を通り過ぎる。

「零くーん? どうしたんですか?」

「うるせぇ」

 少し面倒くさそうに椎名を退けると階段を降りる、しかしその程度で彼女は諦めない。

「どうしたんですか?」

「なんでもねーよ、付いてくんな」

「帰り道が一緒ですから」

「うぜぇ」

「よお、朱雀」

 昇降口に差し掛かると青谷の姿が見えた、どうやら先に待っていたらしい、青谷も帰り道は零と椎名に同じ、最近は一緒に帰路に付くことが多い。

「いたのかよ」

「悪かったな」

「別に・・・じゃーな」

 それだけ言うと零は普段の帰路をはずれて小道のほうへと行ってしまった。

「なんだ? あいつ?」

「何かありますね」

「そうみたいだな・・・」

「つけます」

「何かとそれだな、お前は」

 電信柱に身を隠しながらひたすら道を進む零の後姿を見る、どこか今日は寂しげなその背中に椎名と青谷は既に気が付いていた。

 尾行開始から数分たたず零はポツンと建つ花屋に入っていく。

「零君って、花が好きなんですかね?」

「いや、それは無いだろうな・・・あいつに花なんて似合わな過ぎる」

「確かにそうですね」

 少しずつ花屋に近づいていく椎名と青谷、すると零の声と店員の声が聞こえた。

「いらっしゃい」

「おう」

「あら、零君じゃない! 今日は・・・そっか」

 大人の女性の声が聞こえる、少し寂しげで零に同情を表すようにも聞こえる。

「そう言う事、花、いつもの」

「はい、どうぞ」

「金はここな、多分足りると思う」

「うん、わかった、いってらっしゃい」

「ああ」

 零が花屋から出て行く、2人は花屋の脇に隠れやり過ごす。

「なんだ? 花なんかもって、何処行く気だ?」

「誰かに渡すんですかね? あ! もしかして好きな人にですか?」

「いや・・・気づけ、今の会話から汲み取れるだろ?」

「え? 汲み取るとは?」

「いや・・・なんでもない」

 会話がかみ合わないことに薄々感づきはじめている青谷は途中で会話の成立を頓挫した。

 花を持った零を付けていくと、次第に複雑に入り組んだ小道へと入り込んでいく。

「見失わないように気をつけましょう!」

「ああ、そうだな」

 なるべく気づかれないように距離を縮める2人。

 だが、そんな苦労もお構いなしに零はどんどん進んでいく。

「この進み具合からするとあいつ何回も来たことがあるみたいだな」

「こんなところに何があるんでしょうか?」

「わからん、だが、真相解明はもう少しだ」

 それほど時間はかからずに入り組んだ小道を抜け出した、2人はへとへとになりながら零の後ろ姿を追う。

 すると。

 零がある場所へと入っていった。

「墓?」

「そうみたいですね」

 そう、零が入って言ったのは墓石の立ち並ぶ場所。

「あいつこんなとこに何の用があるんだ?」

「行ってみましょう!」

 そう言って零の後を追おうとする椎名の肩を青谷は掴む。

「やめとけ、これ以上追求していいもんじゃ無さそうだ」

 青谷大部分わかっていた、自分も大切な家族をなくした身だ、零もその痛みを負っているのだろう。

「そうですね・・・」

 椎名もこればかりは諦めた、2人はそのまま零の入っていったお墓を後にした。





「早いもんだな、時が経つってのはさ」

 花を活けた墓前に零は話しかけた。

「あれから3年だ」

 墓石には朱雀 圭子(けいこ)と刻まれている、線香の煙が少しずつ立ち上っていく、零の横顔はどこか寂しげで、いつも見せる強気な表情は無く儚い。

 零は手を合わせる、少しばかり長い。

 それが終わると零は立ち上がりカバンを抱える。

「じゃ、また来年来るぜ、ばあちゃん」

 そういい残し零はその場を後にした。





お・ま・け

「どうやって帰るんだ? 全く覚えてないぞ?」

「とりあえず、真っ直ぐ行ってみましょう」

「なあ、尾行はもうやめようぜ?」

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