にじゅういちわ―――ゼロさん〜
「なー、いい加減話してくれって〜、ゼロー」
「うっせー、まだ根に持ってんのかよ、2カ月前だぞ?」
蔵野は口を尖らせながら零をつつく、何でも2カ月前から合うたびこのような調子だ、何を根に持っているのかと言うと・・・前に椎名と出かけに行ったとき蔵野に断りのメールをしたことが全ての始まりだ。
「誰と行ったんだ?」
「いってねーよ」
「女か?」
「うっせー」
「女だな?」
「うぜー」
「女なんだろ?」
「しね」
「あー決定〜、女ぁ〜!」
「ぶっ殺す!」
零が突き出した拳を蔵野はなんてこと無いようにサラリとかわす。
「おい、やめろってマジじゃねーか」
「うっせー!」
拳を避けられたことによりさらに怒りのボルテージがあがった零は、左足軸にグルリと半回転を決めその勢いで回し蹴り。
パァァン!
「あっぶねー! わかったよゼロ降参降参! もう聞きませんから!」
零の回し蹴りを両腕をクロスさせ止めた蔵野が腕を小刻みに揺らし降伏の合図を取った。
「くだんねー、まだ余裕だろうが」
「そうでもないんだよね〜、最近喧嘩なんてしてないからよ〜、鈍っちまった」
「まだまだだな」
「そういうお前はどうなんだ? 喧嘩しないために白清高校はいったんだろ? のわりには怪我して帰ってきたりしてるじゃないか〜、いい例は2カ月前」
「お前つくづくチャレンジャーだな?」
「マジで聞いてるんですって〜、ゼロさん〜」
「その口調イラつくな、やめろ」
「へいへい」
「ったく」
「で?」
「あ?」
「いやいや、あ? じゃ無くてよ、白清に入った理由をお聞かせ願いますかな?」
すると、零は蔵野から少し視線をずらす、それを見た蔵野を心の中でニヤリと笑う、長年付き合ってると、ダチの癖など容易にわかる、零が回答に行き詰ったりすると必ず視線は少しずれる。
「別に・・・ばあちゃんの墓が近いからだよ」
「それだけじゃないだろ? それに、喧嘩しないためと言う選択希望が出てこない時点で疑わしいですな?」
「ッ!」
いつもそうだ、蔵野は頭の回転がかなりはやい、これだけの会話で自分の心情が見透かされていると思うと、余りで隙を見せる言葉はいえない、まあ、最後は実力行使をとり黙らせる方法も無くは無いが・・・。
「別に何でも良いだろうが・・・」
「ふぅん、何か隠し事をしているようにしか見えないんだけどな〜?」
「うるせぇ、言わねーもんは言わねーんだよ」
「その言葉からして、やっぱ他の理由があるんだな?」
「フン! 一生言ってろ」
「ああ、ああそうですか、良いですよ」
わざとらしく拗ねてみせる蔵野を尻目に零は分かれ道に差し掛かる。
「蔵野、お前バイトだろ? じゃーな」
零はそう言って歩いていこうとしたところ、声がかかる。
「いやー、実はさ〜、ちょっとまずいことになってな・・・」
「あ? まずいことって・・・まさかサボってんのばれてクビか?」
零は馬鹿だと思いながら口を開く、だがどうもそうでは無さそうだ。
「なんだよ、言ってみろって」
「いや、それがよ・・・この前絡まれてる女を助けてやったんだが、どうもそれで目を付けられてな・・・ほらあの様だ」
蔵野が指差す方向に零は視線を移す、見ると明らかに目つきの悪いやからがこちらを見ている。
「うわ、くだんねー」
「だろぉ?」
「で? お前はどうしたいわけ?」
「あいつらがあのままいたら俺がクビになっちまうからさ・・・退治したいみたいな?」
「おし、俺もやってやるよ」
指を鳴らしながら零は言った。
「悪いな、巻き込んじまって」
「巻き込まれてやってんだよ」
ニヤリと笑いながら零と蔵野は輩のほうへと足を運んでいった。
「ペッ!」
地面に血のこびりつく唾を吐きながら零は電柱にもたれる。
「なかなか、やる奴だったな」
近くの花壇に座る蔵野は口元に血を拭う、彼らの周りに倒れている複数の男共は完全に気を失っている。
「一発顔面に貰うなんてよ・・・落ちたもんだ」
「まー、良いじゃねーか俺はかなり貰ったけどな」
所々赤くなっている顔の蔵野が笑いながら言った。
「そういや・・・前もこんなことあったな・・・2人で大暴れした」
「ああ、あの時からだな・・・ゼロ、お前が悲しそうな顔をし始めたのは」
その言葉に零は顔を上げる、そうだろうか、余りよく覚えていない、中学の頃は周りにいる全てのものが雑魚に見えた、それを潰していただけ。
「そうだっけか?」
零は転がる小石を蹴っ飛ばす、それは乾いた音を響かせながら排水溝へと落ちていく。
「ああ、間違いなくそうだ・・・白乕さんとそん時から仲良くなったじゃねーか」
その名前を聞いた零は少し顔を歪める。
「その名前をださねーでくれるか?」
「ああ、わりぃ」
零の寂しげな顔を見て蔵野はしまったと唇をかむ。
「でもよ、最近はお前、楽しそうじゃん?」
「は?」
「いやよ・・・白清入ってからお前笑うようになったなと思ってさ・・・」
「そうか?」
「お前はわかんねーかもしんねーけど・・・俺からみたらそれはわかる」
「ふぅん」
そう思いながら零は自分の顔に手を当てた、この顔が笑顔を作るとは思っても見なかった、鏡を見たときいつもそう思う、目は鋭い眼光を放っているため、誰も寄り付かない・・・孤独が零を苦しめたのは確かであった。
「おっとぉ! 俺はバイトの時間だ・・・じゃーなゼロ、また」
「おお、また」
拳をぶつけながら2人は笑った、もちろん零の顔にも笑顔は確かにあった。