小説『くっだんねー!』
作者:()

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にじゅうさんわ―――こういうのも悪かねぇな



「さぁ〜〜ってゼロ〜? これはどう言う事か、説明してくれるよね〜?」

「うぐぐ!」

 頭を抱えながら零は膝を突く、今日と言う日は、自分にとって最悪なものだ。

「あの、零君・・・この人は?」

 リビングでジュースを飲みながら椎名は零に聞く、すると、零が答える前に。

「俺はな、ゼロの友達さ、中学のときからのな、なっ? ゼロ?」

「まあ・・・そういう事だ」

「こっちを向けよゼロ〜」

「うっせー!」

 そっぽを向く零の頬を両手で挟むようにしながらこちらに向かせようとする蔵野。

「で? 君たちはどういった?」

 零の機嫌が斜めなことに気が付いている蔵野は彼をいじるのをそれくらいにして、質問に移る、と言うか大体わかっているのだが。

「椎名 春葉と言います、零君のお友達です」

「ほぉ〜?」

「な、なんだよ?」

 蔵野がニヤニヤ笑いながら零に視線を移す。

「いや〜、別にぃ〜?」

「その口が利けないようにしてやろうか?」

「冗談はよしてくれよ〜、で? 何でそのお友達がゼロの家にいんだ?」

「零君のお家でお泊り会、兼勉強会です!」

「さっきからゲームしかしてねぇだろうが!」

「後でやるんです、まだ昼間じゃないですか〜」

「うっぜ〜!」

「ほうほう、女と一夜を共にすると? 良いですな」

「蔵野、テメェいい加減にしねぇと」

 拳を握り締める零を見て蔵野は少し距離を開く。

「おーっと、暴力は無しだぜ?」

「そうですよー」

「くだんねー」

 そう言うと零は立ち上がり、どこかへ行こうとする。

「あ、何処行くんですか?」

「俺の部屋だよ」

「えー、皆いるのに行っちゃうんですか?」

「勝手に来たんだろうが!」

 ギリギリと歯軋りをしながら零は自分の部屋へと入ってしまった。

「まったく、ゼロは」

 やれやれと首を横に振る。

「っと、そういえば他の人の名前も聞いてなかったな」

「あ、そうですね、柊君と栗歌さんと青谷君です」

 椎名が右から順に指差しながら名前を言う。

「ほーほー、あいつもやっとダチを作りやがったか」

 ニヤッと笑いながら首を縦に振る、それを聞いた椎名は首をかしげた。

「零君は友達いなかったんですか?」

「ん? ああ、俺以外は誰とも・・・まあ、つるんでた奴はいたが」

 顎に手を持っていきながら蔵野は言う。

「まあ、だからだろうな・・・あいつはダチってのに慣れてない、なんせ俺がダチだって言ってもほとんど1人でいたようなものだしね〜、まっ、仲良くしてやってくれよ・・・」

 そう言うと蔵野は立ち上がる。

「さてと、じゃー俺は帰るわ、バイトの時間もあるしね〜」

「あ、もう行っちゃうんですか?」

「まあね〜、じゃ」

 そう言うと蔵野は玄関の方に向かって出て行った。

 真夏の太陽はまだ傾いていない、蝉のなくけたたましい音が響く。

「いいーダチに恵まれたな、大切にしろよ〜?」

 満足そうに一言そう言うと蔵野はコンビニのあるほうへと歩き出した。



 日が暮れる頃、リビングでテレビを見ながらはしゃいでいる4人、すると。

 ぐぐうぅぅぅ〜!

「お腹減りましたね・・・」

 椎名のお腹が大きくなる、冷蔵庫を開けてみるが何もない(勝手に開けてはいけないが・・・)

「零くーん! お腹すきました〜!」

 椎名は零が入っていった部屋のドアを開ける、中にはベッドに寝転がりながら漫画を読んでいる零の姿。

「勝手に入って来るんじゃねーよ」

 椎名を見ると零は目を細める。

「お腹すきました〜」

「さっきから聞こえてるっつの、俺はお前らのお袋じゃねーんだから、飯なんか作るわけねーだろ?」

「零君はお腹すかないんですか?」

「空いてるわけねーだろ?」

 といった途端、零のお腹も鳴った、それを聞いた椎名はニコリと笑う。

「っ、ま、まあ俺も人間だからな・・・なんか頼むか」

「はい!」

 その後ピザの出前を取り、たらふく食った5人、既に窓の外は暗闇、蝉の鳴き声だけが響いている。

「今日の勉強はこれくらいにしとくか・・・疲れたしな」

 青谷が学校から配られた夏休み宿題用の参考書の上にシャーペンを置き大きく伸びをする。

「大分進みましたね」

「よく言うぜ、うつしただけの癖によ」

「零君だってそうじゃないですかー」

「馬鹿言ってんじゃねー、最初のページは自力で解いたっつーの!」

「最初だけでえばってんじゃねーよ」

「根暗の声はうぜー」

「あ? テメェもう一度言ってみろ!」

「ほらほら、喧嘩はよしなって」

 零と青谷の間に栗歌が仲裁に入る。

「それにしても、まだ時間がありますね〜、暇なんでこれやりましょう!」

 椎名が取り出してきたのはテレビでやるゲームだった、結構古い気もするが・・・。

「お前、まだやるのか?」

「私ゲームとかやったことなくて、やってみたいんです!」

 そう言って椎名が取り出したのは『バトルロワイヤル』と言うソフトであった、決められた敷地内で何でもありのハチャメチャバトル! と書いてあり、見る人が引き込まれやすいパッケージである、事実零もそれで選んだ。

「いいだろう、俺様の実力見せてやる」

 青谷がパキパキと指を鳴らしながらそのソフトを掴む。

「そのゲーム私知ってる一時期はまったんだよね〜、久しぶりにやってみようかな?」

「僕は目が痛いからやめとくよ、外野で見てる」

「零君もやりますよね!」

 キラキラと目を輝かせながら椎名は零に近寄る。

「ったく、しょーがねーからやってやるよ」

 そういいながら零はコントローラーを4つ取り出すと、それぞれに向かって投げる、するとふと不思議に思った青谷が口を開く。

「てか、何で4つもあるんだ?」

「・・・あー、懸賞で当たったんだ、そしたら4つ付いてきた」

 実際はなくなったばあちゃんが間違って4つ買ってきてしまったのだが、なぜか零はそのことを伏せた、何故なのかはわからないが、きっと同情は誘いたくなかったのだろう。

 その後、数時間にも及ぶ激闘を繰り返し、結果、零が圧勝と言う形で幕を閉じた。



―――夜中。

 満月が窓から斜めに差込室内を明るく照らしている、今、リビングには零が1人ベランダでボーっとしている。

 今日は余り寝付けなかった、環境が変わったことも一理あるが、事実疲れすぎて眠れないというのもあるのだろう。

 すると、椎名と栗歌が寝ているほうのドアが開く音がした、中からは椎名が目を擦りながら出てきた。

「あ、零君、何してるんですか?」

 眠そうな目で零を見つけた椎名は彼の方に歩みを進める。

「別に、ただ眠くねーからこうしてるだけだ」

「そうですか・・・綺麗な月ですね」

 寝ぼけ眼で椎名は月を見上げる、その眩しさに少し目を細める。

「で? なんで起きてきたんだ?」

「あ、喉が渇いたので・・・あとトイレです」

「そうか、じゃあさっさと済ませてねな」

「零君は寝ないんですか?」

「まー、もう少しだけ起きてるとするかな」

「わかりました」

 そう言うと椎名は台所で水を飲むとトイレに入っていく、暫くして出てくると、なぜか部屋には戻らず零のほうへと向かう。

「どうした? 寝るんじゃねーのか?」

 それに気が付いた零はクルリと後ろを向く、少し時間があったため椎名の目は先ほどより光りを放っている。

「零君」

「あ?」

「今気が付いたんですが、零君のお母さんやお父さんは?」

 椎名の言葉を聞いた零は少し目を伏せ、後ろをむく。

「いねぇんだよ」

「いない・・・亡くなってしまったんですか?」

「いや・・・生きてるだろうけど、何処にいるかわからねぇ、俺が生まれて直ぐに離婚して俺をほったらかしてどっかいっちまったんだ」

「え・・・じゃあ誰が零君を?」

「ばあちゃんだよ、もう3年前に死んじまったけどな」

「そうだったんですか、じゃあ、今日はここに泊まっても迷惑じゃなかったんですね?」

「お前言葉おかしいぞ? それに俺は迷惑と最初に言っただろうが」

 夜中のため余り大きな声は出せない、だが低い声で零は言った。

「じゃあ、迷惑でしたか?」

「ああ、大迷惑だったよ、お陰で疲れて眠れやしねぇ」

「そうですか・・・」

 椎名は下を向く。

「でもよ・・・迷惑っちゃー迷惑だったけど・・・こういうのも悪かねぇな、とは思ったな」

 確かに迷惑ではあった、だが、こんなにはしゃいだのは初めてだったと零は思う、今まで一度も疲れるほどはしゃいだことなどなかっただろう、それを入れたらこの泊まりは嫌うほどには値しなかった。

「本当ですか?」

「極一部だけどな」

「それじゃ、大丈夫ですね」

「お前、俺の言葉聞いてたかよ・・・」

 零は少し息を吐く。

「それじゃー、もうねな」

「はい、おやすみなさい」

「おおー、おやすみ」

 そう言うと椎名は部屋に戻って行った。

 零は満月を仰ぎ見ながら優しく微笑んでいた。


お・ま・け。

「楽しかったのでもう一泊しまーす!」

「帰れー!!!」

おわり。

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