小説『くっだんねー!』
作者:()

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きょうふ? ばんがいへん、なつやすみ―――動いて良いもんじゃねー!


 夜の8時、零の家にて・・・。

 夕食を取っていたところ机の脇に置いた携帯がメロディを鳴らしながら揺れ始めた、零は携帯をとり送り主を見る、だが、送り主のところは何かのメールアドレスが書いてある、ようは知らない人からと言うことだ。

「誰だ?」

 気になって零はメールボックスを開く、すると。

『零くーん! メール届きましたか? 実はですね大変なことが起きたんです大至急学校の駅に来てください! ダッシュで!』

「椎名だな、この文字の打ち方は、誰から俺のメアド聞いたんだ?」

 すると再びメールが届く、こんどは蔵野からだった。

『よー、春ちゃんにメアド教えといたから、うまくやれよ(ハートマーク)』

「犯人はコイツか・・・ったく」

 零は文句を言いながら椎名にメールを返す。

『仕方ねーから行ってやるよ、少し待ってな』

 それを送ると零は食べかけのパスタにサランラップをかけて冷蔵庫に入れる、そして家の鍵と財布を持ち家を出た。

 数分後、学校の最寄り駅に着いた零は電車から降りる、すると改札口の方にいつものメンバー、柊、栗歌それに青谷だ。

「あ、零くーん!」

「何のようだよ、呼び出して」

 零が改札口を出ると椎名が駆け寄ってくる。

「実はですね、夏休みの宿題を1つ学校に忘れてきてしまいまして・・・これから取りに行くんです!」

「お前、何言ってるの? そんなことで俺を呼んだのかよ?」

「はい、そうですけど」

「ああ、そう」

 深くため息をついた零は口を開く。

「お前1人で行けば良いじゃねーかよ、俺まで巻き込むんじゃねー」

「実はね朱雀君、あの学校1人で夜行かないほうが良いんだ」

 零が文句を言うと柊が言った。

「あ? なんで」

「実はね、あの学校・・・出るんだよ」

「出る?」

「お化けが」

「くだんねー」

「あ〜ちょっとー零くーん、待ってくださいよ〜!」

 帰ろうとする零の服を掴みながら椎名は零を引き寄せる。

「なんだよ」

「一緒に来てください」

「嫌だね」

「なんでですか!」

「うっせー、なんでお前の宿題のために俺が行かなきゃ何ねーんだよ!」

「ほっとけ椎名、コイツは怖いんだよ」

 それを聞いていた青谷は零に向かって憎らしげに口を開く。

「え? 何がですか?」

「わかんねーのか? 朱雀は幽霊が怖いってことだ」

「おい青谷、それは聞き捨てならねーな」

「本当のことだろう? 素直に怖いから帰りますといったらどうだ?」

「うっぜー、そこまで言うんだったら行ってやるよ」

(結構朱雀君って乗せやすいよね・・・)

 会話を聞いていた栗歌は心の奥でクスリと笑った。




 と、青谷の挑発もあってか、今5人は夜の白清高校の正門の前。

 昼間見る学校と夜見る学校はかなり違う、学校全体が蠢いているようであり、何か黒い雰囲気が漂い通るものを威圧している。

「で? 正門はしまっているけど、どうやって中に入るんだ?」

 正門を開けようと力を入れる零だがビクともしない。

「実はですね、裏門に少し小さな抜け道があるんです、そこからなら入れます」

「んなものいつ見つけたんだ?」

「体育のとき偶然」

「何やってたんだよお前は・・・」

 裏門に回ると確かに茂みの中に見つけられないほどの小さな穴が開いている、やっと人1人と通れるくらいの大きさだ。

「ここでーす!」

「静かにしろ、見りゃわかるってーの」

 零はそう言うと鉄格子の穴に向かってほふく前進で進み何とか通り抜けた、その後柊、栗歌、青谷と続き最後に椎名が通り抜ける。

「では、さっさと宿題を取り帰りましょう」

 椎名はそう言うと1人でどんどん先へと進んでいく、その後を残りの4人は付いていく。

「なあ、本当に椎名は怖いから俺たちを呼んだのか?」

 何故か楽しそうに見える椎名を見ながら零はふと疑問を口に出す。

「さぁ、あの女は時々ずれている所があるからな、もしかしたら、特に理由はないのかもしれない」

「椎名さんならありえるかもね・・・」

 隣で柊が周りを落ち着き無く見回している。

「っつーか、何びびってんだよ、柊」

 零がニヤリと笑い柊に言う。

「だ、だって、この学校歴史が長いから本当に出るらしいんだよ、戦時中に無くなった人たちの霊とか」

「じゃー、何で来たんだよ?」

「そ、それは・・・」

「それは?」

「い、いえない」

「いわねーのかよ」

「ごめん」

「いや、誤る必要ないだろ?」

「皆さーん、遅いですよー」

 椎名が早くと手招きをする、ふと、零は校舎を見上げた・・・何かが動いた気がする・・・真っ暗な校舎の窓に今何かが蠢いたのを零は視界に捕らえたのだが・・・見ると何も無い。

(気のせいか?)

 零は首を傾げると校舎の中に入っていった。

「暗いな」

「何も見えませーん」

「椎名さん懐中電灯は、僕持ってなくて」

「私も持ち合わせていません」

「ええ!? これじゃ何も見えないわよ?」

「何で持って来ないんだよ!」

「だって零君が持ってきてくれると・・・」

「何も知らされてない俺がどうやって懐中電灯を持ってくるんだよ! そこまで頭の回転がすばらしい奴いないだろうが!」

「フン、五月蝿い奴らだ・・・俺様に感謝するんだな」

 すると、急にパッと目の前が明るくなり皆の顔が映し出された、皆は急に明るくなったので少し目を細める。

「さっさと見つけよう、ここ気味悪いよ・・・」

 確かに、先ほどまで暑かったのに、学校に入った途端、鳥肌が立つほど寒い、それにこの暗さは・・・何かでそうである」

「そうだな、俺様が懐中電灯持っててやるから付いて来い」

 青谷がそう言うと先頭を切って歩き出す、その後ろに柊、栗歌、椎名、そして零の順、だが。一歩歩き出したとき零の耳が何かの音を捉えた。

ヒタ、ヒタ、ヒタ。

 湿った足で廊下を歩いたような音、零はバッと振り返り廊下の方に目を凝らすが、何も見えない、それに先ほどの音も消えている。

(俺・・・疲れてるのか?)

 そう思いながら零は少しはなれた皆の方に付いていった。

 だが、零の聴覚は当たっていた、廊下の一番奥に人影が見え、“それ”が徐々に動き始める。“それ”は確実に零たちの方に向かっていった。

―――2階。

「寒いな、何でこんなに?」

 不思議に思った青谷は腕を擦りあわせる、今は記録的猛暑が続く日々、これほどまで冷えるときなど無い、まるで家で冷房をガンガンにかけているときみたいである。

 青谷が3階へと向かおうとして一歩踏み出したとき。

ビチャリ。

 お世辞にも心地よい音とはいえない音が足元でした。

「な、何の音?」

 栗歌が少し声を強張らせ尋ねる。

「水溜りでも踏んだんだろうな、この校舎は老朽化しているんだろう・・・」

 そういいながら青谷は明かりを下に向けた、だが、それは水ではなかった。

「いやっ!」

 栗歌がそう言うと後ろにいる柊に抱きついた。

「ちょ、ちょっと栗歌さん?」

 余りのことに目を白黒させる柊。

「おい! どうしたんだ? 急に止まるんじゃねーよ!」

 1番後ろにいる零が階段を上がり青谷の方に向う、すると青谷が懐中電灯を向けた先にあるものが目に入る、その途端零の全身に悪寒が走る。

「ち・・・血だ」

 震える声で青谷が言った、そう、そこには血の水溜りが出来ていた、その血溜りに青谷は片足を突っ込んでいたのだ。

「なんだよこれ! 誰の悪戯だ?」

「凄い量のケチャップですねー」

「え? 何言ってんのお前?」

 零の横にいる椎名がまたもや天然を発揮、どう考えてもこの量のケチャップをばら撒くのは無理がある。

「と、兎に角よ! さっさと教室にいっちまおうぜ、そんでさっさと帰る、反対側にも階段があるからそっち使えば良いだろ?」

「そ、そうだな」

 強張った顔で青谷は振り向く。

「懐中電灯貸せ、俺が先頭行ってやる」

 青谷の手から懐中電灯を奪うと零は血溜りを避けながら階段を上る。

「く、栗歌さん? 大丈夫?」

「う、うん、なんとか、柊君は大丈夫なの?」

「ぼ、僕は・・・どうだろ?」

 首を傾げる柊、怖いは怖い、だが何か引っかかるような気がする・・・。

「おい! 柊、栗歌! 置いてくぞ?」

 零の声が聞こえた2人はすぐさま血溜りを避け階段を上る、その階段には青谷の靴の後が血の所為で点々と付いていた。

―――3階。

「ここだよな、1−Aは」

 教室を照らした零はそういいながら教室へと入っていく、夜の教室はシンと静まり返り、逆に耳にキーンと音が響く。

 椎名は自分の机を見つけると中をガサゴソさがす、見やすいように零が机を照らす、暫くすると。

「ありました〜、倫理の問題集です!」

 椎名が倫理の問題集を高く掲げる、それを零は照らすとため息を漏らす。

「苦手な教科を忘れんなよ・・・」

「あってよかったです・・・あれ?」

 急に椎名が首を傾げる。

「どうした?」

「零君、黒板に何か書かれてませんか?」

「なに?」

 零は黒板のほうを見る、確かに何か文字のようなものが書かれている気がする、零はゆっくりと黒板の方に明かりを向けた。

 そこには真っ赤なチョークで書かれた文字が見えた。

『逃がさない』

 その5文字が書かれていた、それを見た青谷と栗歌は悲鳴をあげる。

「早く帰ろう! もう嫌!」

「こ、怖くなんかねーぞ!」

「うっせービビリ小説根暗」

 零はフンと鼻を鳴らす。

「誰かが消し忘れたんだろ? こんなのでビビんな」

 零はそう言うと黒板けしを持ちその不気味な文字を消しにかかった、あっという間に黒板の文字は粉となり、チョークを溜める溝に落ちた。

「おら、帰るぞ!」

 零はそう言うと面倒くさそうに皆と教室を出る、今度は先ほどの階段を使わないでもう一つの階段を使おうと先ほどとは反対側に向かった。

 と、その時である。

ヒタ、ヒタ、ヒタ。

 あの足音が再び聞こえた、先ほどよりかなり近い。

「な、何の音だ?」

 青谷はキョロキョロと辺りを見回すが暗闇では何も見えない。

 零は生唾を飲み込むと、音のしたほうへと明かり少しずつ向ける、廊下を照らした明かりは徐々に上へと上がっていく、すると、何かの足が照らし出された、それは筋肉がむき出しにされた足であった。

「ま、まさか・・・」

 零は廊下を照らすように明かりを照らした、既に椎名以外は全員零に抱きついている。

 そこにはゆっくりと歩く人体模型、体半分は筋肉や腸、心臓などがむき出しに鳴り心臓はドクドクと脈打っている。

「・・・・・・・うおぁあああああああああ!!!!!」

 全員(椎名以外)の悲鳴が学校に木霊する、皆は一斉に走り出し階段を駆け下りる。

「なんだあいつは! 動いて良いものじゃねー!」

 青谷が悲鳴のような声をあげながら階段を降りる、既に栗歌は目に涙が浮かんでいる。

「もう、なんで人体模型が動いてるのよ〜!」

「初めて動くの見ましたよ、凄いですね〜」

「椎名! お前は黙ってろ!」

 能天気な椎名を零は一喝しながら皆は1階へと降りる、後は校舎から出るだけだ、全員ホッとしながら向かうが、そこには。

「ケケケケケケケ!」

 カラカラと骨を鳴らしながら動く骸骨、それはまるで操られているようにブラーンブラーンと手を左右にふれながらこちらにやってくる。

「うぎゃぁあああああああ!!!」

 再び悲鳴が木霊する、だが3人は零にしがみ付き、椎名は興味心身で眼鏡を上げる。

「テメェら離せ! 動けねーだろうが!」

 零は皆の束縛を振り切ると骸骨のほうへと駆け出す、どちらにしろこのまま下がったら人体模型と鉢合わせだ、だったらまだひ弱そうな骸骨を潰す、そう零は思い駆け出したのだった。

 零は骸骨に向かって大きく跳躍すると、背骨に向かい蹴りを放った、すると。

「うぎゃー!」

 骸骨の口から人のような悲鳴が上がる、骸骨は吹っ飛び暗闇の中の何かにぶつかり倒れこんだ。

「うぎゃー?」

 零は首をかしげ骸骨の方に向かう、すると、骸骨から生徒が出てきた、驚いた零はその生徒に声をかける。

「誰だお前?」

「ぼ、僕たちは映像部の生徒です」

「は? 映像部?」

 すると暗闇の中からもう1人の生徒が出てきた、どうやら黒いシーツを被っていたらしい、その生徒の手にはビデオカメラが握られていている。

「映像部がなんでこんなところに?」

「ほ、ホラー映画を撮ろうと思って夜の学校にいたんだ、まだ皆来ていないときに君たちが来たから、少し驚かしてみようと思って・・・」

 それを聞いた皆はハァ〜と体の力が抜け地面にへたり込む、心臓に悪い。

「そうか、あの違和感は・・・」

 柊は座り込んだままボソリと呟く、血溜りに何が引っかかったのかようやくわかった、周りに血痕が無かったことだ、あんなに血が出ているのなら何処かに続いているはずである、だが周りを見ても綺麗なままだった、証拠に青谷の靴の痕だけが階段に続いていたのだから。

「あ、あれは血糊です、この前演劇部に貰ったんだ」

「何ちゅーもの持ってんだ、演劇部は・・・」

 青谷は冷や汗を拭いながら言った。

「黒板の文字もか?」

 零は少し眉を吊り上げながら聞く。

「そうです、先回りして」

「ったく、くだんねー」

 零は肩の力を抜きため息をついた。

「ごめんなさい、そんなに怖がるとは思っても見なくて・・・」

「まったくだ、あんな人体模型など作りやがって」

 青谷は憤慨したように映像部を睨む、だが、今度は映像部が青ざめた顔をする、それに気が付いた零は。

「どうした?」

「ぼ、僕たち・・・人体模型なんて・・・作ってません」

「は? 嘘つけ、3階で見たんだぞ? 動く人体模型をよ」

「そ、そんなこと言ったって・・・人体模型は細かすぎて作れなかったんだ骸骨もかなり時間がかかって・・・」

「え・・・ってことは、俺らが見たのは・・・」

 零の表情が強張る。

「本物のお化けってことですね!」

 椎名が目を輝かせていった。

 その後校舎に悲鳴が上がったのは言うまでもない・・・。

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