にじゅうろくわ―――どうしたんだかな
「あー、疲れた」
零は決まり文句を口ずさみながら家のベッドに寝転がる。
「ほんっと〜、私も疲れたわ」
「ったく、最後の最後まで付いてきやがって!」
「いいじゃなーい、親には暫く帰らないって言ってあるから大丈夫よ♪」
「大丈夫だぁ? どっからそんな言葉が出て来るんだよお前は!」
零はルナを指差しながら怒鳴った、それもそうだ、勝手に零のうちに上がりこみ挙句の果てには泊めてもらうときたもんだ。
「怒んないでよー、久しぶりに元彼の顔見れるんだから」
「くだんねー、俺は見たくなんてねーんだよ」
目を逆三角のようにしながらルナを睨む零、だが彼女はそんなこと気にしていない様子。
「あ、もうそろそろ荷物が届く頃かな?」
ルナが思い立ったようにベッドから起き上がるとそれと同時に玄関のチャイムがなる。
「はいはーい」
「おい! なんだよ荷物って?」
「あれ? 聞いてない? 暫く泊まるから荷物。ここに運んでもらったのよ」
「はぁ!?」
とんでもないことをサラッと言われ零の開いた口は塞がらなくなってしまった。
「また勝手なことしやがって!」
「ほらほら怒んないの、笑顔笑顔」
ルナは零の両端の口をグイッと引っ張る、なんとも奇妙な笑顔の零が出来た。
「ふぁなせ!」
口が横に広がっているため余りうまく発音が出来ない、ルナはそんな零を見てクスクスと笑う、するとまたチャイムが室内に鳴り響く。
「はいはーい、今出ます!」
ルナは零の頬から手を離し玄関のほうへと向かっていった。
――――暫くして。
リビングで力なくソファーに横たわる零を見ながら食器を丁寧に洗うルナ、その手つきは慣れたものである。
「お疲れ様」
ルナがニコリと笑って一言言った、その言葉に零はフンと鼻を鳴らす。
「何で俺に荷物を運ばせるんだよ、自分でやれっつーの!」
大量に運ばれてきた荷物の大半を零は一人で空き部屋に運び込んだのだ、ルナは応援係といいながら小物しか運ばず・・・。
「だって〜、男の子の方が力強いじゃない?」
「よく言うぜ、昔は俺をぶっ飛ばしたくせによ」
「何のことかしら?」
ルナは微笑みながら零を見る、だが、その笑顔は何処と無く見ている者を震え上がらせる恐怖の笑みだ。
零はビクリと肩を身を引く、やはり昔と変わっていない、怒らせたらと考えると全身に寒気が走る。
「・・・・・・まあそれは良いとしてよ・・・なんで俺のうちに来たんだ?」
零は急に真面目な顔になりルナに問いかけた。
「それは、ゼロの顔が見たかったから―――」
「嘘つくんじゃねー」
零はルナの言葉を遮った、視線はなお真剣なまま。
「なんかあったのか? 急に白清に編入するわ、俺のうちに泊まるわ・・・挙句は荷物を持ってくるわ・・・俺から見ちゃー、なんかあったとしか思えねーんだけど」
「別に」
ルナはカチャカチャと食器を鳴らしながらそういった。
「あっそ、別に興味は無いから良いけどよ、よほどの理由じゃない限り長くここに泊めとくわけにはいかねーから・・・そのつもりでな」
零はそう言うと急に立ち上がり自分の部屋に入ってしまった。
独りになったルナは食器を全て洗い終えると水を止め、近くにあるナプキンで手を拭くと、深くため息をついた。
「ったく、胸糞わりー」
部屋に入って零は一言そう愚痴を溢すと、部屋の端にあるベッドに体を投げ出す、硬いベッドは彼の体を包もうとせず反発した。
「どうしたんだかな、ルナは・・・」
久しぶりにその名前を口にした気がする、零はベッドの脇にある本棚からまだ読みかけだった漫画を取り出すと、ページをめくる。
だが、気になってしまったことはどうしようもない、面白い漫画のはずなのだが楽しめない、ルナの笑顔は遠い昔と何も変わっていないはずだ、だけど・・・なぜか好きになれない。
零は漫画を放り投げると仰向けに寝転がる、天井の電気が妙に眩しい。