小説『くっだんねー!』
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さんわ―――傍観者も立派な仕事です。




「あー、なんか疲れた・・・」

 机にうつ伏せになりながら零は呻くように独り言を呟く、4時限目まで終わり今は昼休み、とは言っても、まだ、このクラスでは友達、などと言うものは少ない、各自前を向きながら静かに弁当を食べている。

(うわー、居心地悪)

 心の中で悪態をつきながら、零は席を立つ、弁当は持っていない、1階の学食で何か買ってこようと思い教室を出た。

 教室を出ても、ほとんど生徒はいない、静かなものだ、零はそのまま1階へと降りていく、反対側の校舎に学食があるため少し歩かなくてはならない。
 校舎を出ると1年はほとんど見られず、2年や、3年が多い。

 やはりまだ、初日では溶け込んでいるとは思えない、1年だけ浮いている。

「おい、お前金持ってんだろ? 貸してくれない?」

 零がふと声のほうを見る、と、自販機の前で数人の生徒が1人の生徒を取り囲んでいる、周りの生徒は見て見ぬ振り、カラーを見るとどちらも緑、1年である。

(あれ? 確かあいつは・・・)

 脅している生徒の中に零は見覚えのある顔を発見する、先ほど椅子を蹴っ飛ばしてやった奴、豪である。

(あのバカ共、何やってるんだか)

 やれやれという風に零は豪達に近づいて行く。

「早く金出せっての、何怯えてるわけ?」

「あのよ・・・」

「あ? おめぇも・・・げっ! お、お前」

 零が豪の肩に手を置く、豪が睨みを利かせ零を見た途端、先ほどまで厳つかった顔はどんどん青ざめ、見る見るうちに冷や汗だらけになる。

「あのさー。俺こう言うの見るとぶっ飛ばしたくなるんだよね、消えてくれない?」

「チィ、行くぞ」

 不機嫌に顔を歪め豪は零の手を強引に振り払い校舎の中に入ってしまった、零は何てこと無い風にポケットから財布を取り出すと、自販機の中に小銭を落とし、ミルクティーを購入、そして踵を返し、学食のほうへと向かおうとした時、声がかかった。

「あ、あの・・・」

「あ?」

 少しイラついた声を発すると、その童顔の子はビクリと怯えるように肩をすくめる。

「なんだよ、引き止めたならなんかあるんだろ?」

「あ、えと・・・ありがとう」

「はっ、気にするな、俺は弱いものいじめが嫌いなだけだ」

「カッコイイですねー」

「うお!」

 不意に横から声がかかる、見るとにっこり笑った椎名の姿、いつの間に・・・。

「お前、確か椎名とか言う女・・・なんでここに?」

「名前覚えてくれたんですか!? 感激です!」

「いや・・・あんな唐突な質問されて覚えない奴なんていないっしょ・・・」

 ため息をつきながら零は面倒くさいように手に額を当てる。

「あ、あのさ・・・きょ、今日僕がおごるから、一緒にお弁当食べない? さっきのお礼も兼ねて・・・ダメ?」

 童顔の子が少し上ずった声で話しかけてきた、かなり頬も赤い、緊張しているのだろうか?

(まー、タダになるなら良いか)

 そう思い零は口を開く、と。

「「いいぜ」ですよ」

 同時に発音したためこのように聞こえる、それよりも・・・。

「いや、お前何もしてないだろ?」

 すかさず零がツッコム。

「良いじゃないですかー」

「いや、よくなだろ、傍観者がなにいってやがる」

「傍観者も立派な仕事です」

「どんな!?」

「あ、あの、2人分僕がおごるよ・・・」





―――校舎内にて。

「はー、お前の家金持ちなんだ、だからコイツの分も奢れたわけか・・・」

 ちなみにコイツ=椎名。

 零は階段を先に登りながら言った、後に続く童顔の子はコクリと頷く。

「ところで、君はなんて名前なんですか?」

 その後ろに続く椎名が口を挟む。

「あ、僕? 柊 司(ひいらぎ つかさ)って言うんだ」

「カッコイイ名前ですねー」

「そ、そう? ありがとう」

 照れる柊を無視して零は3階に上がりながら言った。

「ってもよ、今からあの教室に戻って食べるのも味気ない気がしてならないんだが、どう思う?」

「ぼ、僕は嫌かな、豪君もいるし・・・」

 柊は俯きながら言う、やれやれと零は息を吐く。

「私はどっちでも良いです」

「あーそ、お前にはきいてね」

 零がそう言うと椎名はムッとしてそっぽを向く。

「私も、零君には言ってません」

「あ? じゃあ誰に言ったわけ」

「ひ、ひとりごとです」

「くだんねー」

 そういいながら零は次の階段を見る、この校舎は5階まであるのだが、3階から先は立ち入り禁止らしい、何でもこの上は一昨年から誰も使っていないのだという。そんな先生の注意を聞いたことを思い出した零はニヤリと笑う。

「じゃあ、屋上にでも行くか、誰もい無さそうだし」

「え!? お、屋上は立ち入り禁止のはずだけど?」

「構わないだろ? ほら行くぞ」

 柊の静止を無視し、立ち入り禁止の看板をまたいで上に上る、幸い1年校舎は人が少ない、この行動を誰も見てはいないであろう。

 4階へと上がると、一昨年まで誰も入っていないのか、廊下からなにやら真っ白な埃で埋まっている、肺を悪くしそうだ。
 それを通り過ぎ、5階へと上がると、屋上へと続く扉が姿を現す、だが。

「鍵かかってるけど、どうするの?」

「あ? んなもの」

 零が言った途端。

 ダァァァァン!

 鋭い蹴りが扉に繰り出される、余りの早さに扉の鉄部分が軽く凹んでいる。

「壊れないか」

「壊すのは簡単ですが、もっと効率的な方法があるんじゃないですか?」

「え、いや、壊せてないし・・・」

「す、すご」

 柊は驚いたように目を見開く。

「まあ、壊れないならしょうがない、これを使うか」

 そう言って零はポケットから細い針金を取り出すと折り曲げながら鍵穴に形を整える。
 大体、形になったところで零は慎重に鍵穴へ針金を滑り込ませる、そして静かに動かしながら、又取り出し、つっかえたところを修正しつつまた入れる、それの繰り返し。

 すると、ものの数分で。

 ガチャリ。

 気持ちのいい音が響く、零は笑みを浮かべながら、ドアノブに手を沿え捻る。

 意外とスムーズに扉は開き、目の前が開けた。

「おお! 意外と良いところだな」

 前方は畑が広がり地平線が見え、右側は校舎があり、左は深い森が意外と近くに見えた。幸い天気はよく雲が自由に漂い、日差しもほのかに暖かい。

「メシを食うにはいい感じだ」

「そうだね」

「お腹すきました、早く食べましょう!」

 椎名は既に買ってもらった弁当を開け、食べる準備は出来ている、椎名の弁当はから揚げ弁当。

「よく女なのに肉なんて食えるな」

「零君には上げませんよー」

「誰が食うかよ」

 零はフンと鼻を鳴らしながら目の前に広がる景色を見ながら、目を細めた。

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