ろくわ―――似たもの同志に見えますけど?
「気持ちの良い所ですね〜!」
バスから降りた椎名が背伸びをしながらそんなことを言った。
「ったく、目的地まで遠すぎるんだよ、何時間座ったと思ってんだ」
零は鈍く痛む腰を叩きながら文句を口にする。
「2時間しか座ってないけどね」
「なんか言ったか柊?」
「う、ううん、なんでもない」
バスが止まったのは川と山で満たされたキャンプ場、今回は一泊二日での生活を体験しよう、と言う魂胆らしい。
「各自班を作ってください、今から、探索の時間とします、班で協力しあいながらチャックポイントを探し、ここに戻ってくること、順位の高い班は商品がもらえるかもしれません、着替えの準備が出来次第、開始します」
(来なきゃよかったか? 探索なんて面倒くさい)
零は心の中でぶつくさ文句をぶつけるが、いまさらやめるなど言えない、仕方なくキャンプ用のしおりに書いてある地図のページを開き、目を通す。
「零君の班はこっちですー、集まってくださーい」
椎名が零の前に立ち手を振りながら班員に呼びかける、直ぐに柊と栗歌は集まったのだが、見暮と、あと1人見当たらない。
「おかしいですねー? 見暮さーん」
「なに? あんまり大きな声で呼ばないでくれない?」
生徒の人ごみから茶色に染めたロングヘアーの女子が現れる、その顔は面倒くさいという形容が一番合う顔をしている。
「あ、いましたよー、零君!」
「わかってるっつーの、いちいち俺を呼ぶな」
目を細めながら椎名を零は睨む。
「・・・あと1人は誰だ?」
1人少ないことに気づいた零は椎名に声をかける、椎名は首を傾げた。
「零君知らないんですか?」
「あ? 最後のほうは何一つ聞いてなかったからな、俺は誰が班員か全く知らねーよ」
「しおりに書いてあるはずですよ、見てみてください」
椎名に促され零はしおりのページをめくる、しばらくすると班員の名前が載せられたページが見つかった。自分たちは5班。
「えーっと、最後は・・・青谷 兼斗(けんと)・・・? 誰だコイツ?」
「ええ!?」
「なんだよ、何驚いてんだ柊」
隣で驚愕の声をあげる柊に零は質問を投げかける。
「も、もう忘れちゃったの? さっき朱雀君と喧嘩になりそうだった人だよ!」
「あー、あいつか」
そんな奴もいたな、程度に首を縦に振る、すると、背後から声がかかる。
「もう忘れてやがるのかよ? 脳みそはちゃんと入ってるのか?」
嘲笑を含んだ声色で青谷が零に言ったが、零は鼻で笑う。
「弱い奴は忘れるんだ、特に口だけの奴とか?」
目を細めながら零は口の端を少し持ち上げる、それを聞いた青谷は零の胸倉を掴む。
「誰が弱いって? 口だけなのはテメェじゃねーのか?」
「お前頭良いんだろ? こんな言葉知ってるか? 弱い奴ほどよく吠える」
「殺されたいらしーな〜?」
「あわわ、どうしよう・・・」
火花散る2人を交互に見ながら柊はあたふたとせわしなく動く。
「ほらそこ! お前らの班だけだぞ、準備が終わってないの! 早くしないか!」
ちょうどいいタイミングで先生の怒号が飛ぶ、青谷は胸倉から手を放すと、舌打ちしながら1人着替え小屋の中へと向かっていく。
「くだんねー」
零は片頬を少し上げながら、砂利を蹴っ飛ばす青谷の後姿を見ていた。
「朱雀君、大丈夫?」
「あたりめーだろ、ほら、いくぞ」
零は柊を連れて着替え小屋へと向かっていく、その2人の後姿を見ながら今度は栗歌がため息をつく。
「なーんか、零君と青谷君はそりが合わないみたいね、殴り合いとかにならなければ良いけど・・・」
「うーん 私には二人は似たもの同士に見えますけど?」
「椎名さんて、時々わからないわ」
栗歌が横目で椎名に言った、栗歌も、うすうす感づいている、零と言うかなり気性の荒い男の子と普通に喋っているのだから、彼女は相当肝が据わっている、ということを。
「そうですか?」
そんなことを言いながらその二人は女子用の着替え小屋へと向かっていく、見暮はと言うと。
「あー、もう面倒くさい、サボればよかったしー」
青谷ほどではないが、下に敷かれる砂利の上辺を蹴っ飛ばしたのだった。